ブラームス ヴィオラ・ソナタ第一番 ヘ短調 op.120の1

Brahms(1833-1897) Sonata Fuer Viola und Klavier

事実上ブラームス最後の器楽曲となったこの作品は、独奏楽器をクラリネット、 あるいはヴィオラと銘打っている珍しい曲です。私はクラリネットも大好きな のですが、この作品に関してはヴィオラバージョンの方が好きです。先に聞い たからかもしれません。興味のある方は両方聞き比べてください。

マーラーは、老ブラームスの音楽を評し「交響曲よりも、室内楽曲において彼 の本領が発揮される」と生意気なコメントを残しています。ブラームスの交響 曲ファンは多く全世界で愛されているので、マーラーの評価をそのまま鵜呑み にはできないけれど、確かにブラームスの室内楽曲は交響曲に比べ世間の注目 度は低いような気がします。

彼の室内楽曲はいずれも規模が大きく、気楽に聞けない点が足かせになってい るのかもしれません。3月に私もそう書きましたね。

「ブラームスの室内楽曲はドラマチックすぎ、そう頻繁に聞くのをためらう」
と。そう、聞いた後の満足感がの大きさと同じ位疲労感が伴う、つまりぐった り疲れるんですね。イージーリスニング的には聞けません。本を読みながら音 楽を聞くことってありますね?読書時のBGMにブラームス室内楽は止めるべ きでしょう。

ひとたびブラームスを再生してみなさいって。目の前にある本の文字は、次第 にかすみがかかり、やがてフェイドアウトしていきます。入れ替わりに八分音 符やら十六分音符やらが五線譜と共にフェイドインし、ぐるぐる回り出します (もちろん想像の中ででのお話です)。聞き入るまい、と決意していたのに、 意識は強制的に音楽へ。「じっと」聞いている自分が時々情けなくなります(笑)。 この「ヴィオラ・ソナタ」も強烈な効き目です。

第一楽章はピアノ両手によるドラマチックなオクターブのメインテーマがまず 提示され、それにヴィオラのむせび泣くようなメロディが続きます。この部分 だけで、相当気合いが入りますよ。しかもその後、艶のあるヴィオラのソロ。 ピアノはメロディを和音でリズムとで鳴らすこの時代特有の手法。ガーン、ガ ーンと頭に響く。要所要所で流れるヴィオラの音色。緩急自在なので、音楽的 充足感は満たされること保証するけれど、本当に疲れます。第一楽章だけで聞 くのを休憩するのも手かもしれません。でも、必ず第二楽章以後を聞いて下さ いね、二楽章以後を聞かないともったいないですから。第一楽章に標題をつけ てみました。それは「愛の修羅場」なーんちゃって。ピアノで冒頭に提示され たテーマは、最後ヴィオラが思い切りやるせなく、つぶやき、終わります。

第二楽章は「まどろみ」。第一楽章でこれでもかこれでもかと叩き続けたピア ノはサポート役に徹し控えめに鳴ります。ヴィオラの滑らかな響き。不思議な メロディで、夏の昼下がりにまどろむのもいい。まさにこの作品の聞きどころ です。

ブラームスはワルツをたくさん書いているけれど、「ブラームスのワルツでは 踊れない」って、誰かが揶揄していたのを思い出します。確かにシュトラウス のようなウィンナーワルツの軽さとは無縁であり、どこか重厚なので足取り重 くなってしまうのかもしれません。私は踊れませんが、踊りの得意な皆さんは いかがですか?第三楽章はワルツです。このメロディは、どこか中途半端な音 階でして、途中から始まっているような雰囲気があり、聞いている側は不思議 な気持になってきます。チェロにも似たヴィオラの音色は深いわいがあります。 中間部の一風変わった音楽も注目してください。

第四楽章、ファンファーレのようなピアノのせわしない前奏から始まり、快活 なヴィオラの調べ。メロディは第三楽章の変形ですね。ブラームスらしいフィ ナーレの見事な演出です。特にピアノの活躍がすごいです。ただ、聞くべし。 それだけしかコメントしようがありません。

ヒンデミット ウェーバーの主題による交響的変容(1943年)

Paul Hindemith Symphinische Metamorphosen nach Themen von Carl von Weber

最近とても気になる作曲家がいる。それは、ヒンデミット(Paul Hindemith 1895-1963)というドイツの作曲家だ。 元々彼は優秀なヴァイオリン奏者だった。フランクフルト歌劇場管弦楽団に入り、わずか3年でリーダーになったほど優秀な演奏者で、当時の代表的指揮者メンゲルベルグ、フルトヴェングラー、ブッシュ、シェルヒェンなどに認められた(これらの指揮者たちは後に彼の作品のよき理解者ともなる)。

オーケストラの一員としてだけでなく、ソリストとしても数々の名演奏を残した。ところが彼はやがてヴァイオリンではなく、ヴィオラに転向する。その後、彼は弦楽四重奏で活躍するが、第二ヴァイオリンやとりわけヴィオラの演奏を希望したという。この点がとても興味深い。

そして彼は作曲家としての方向を見いだし、数々の作品を書き残す。わずかの期間に膨大な作品を発表したことは驚きだ。しかもジャンルは多岐に渡り管弦楽、室内楽、声楽、交響曲はもちろん、色々な楽器のソナタを書いたのもヒンデミットの特徴だろう。特に管楽器とピアノのソナタは数多く、例えば「チューバとピアノソナタ」なんて珍しい組み合わせの曲があるのも驚きである。ヴィオラ曲も数曲ある。一般的には弦楽器ではヴァイオリンが主役だが、ヴィオラという地味ながらも、奥が深く、味わいのある楽器を好んだことは、注目に値するだろう。

彼は教育者としても優れた功績を残している。ヒンデミットが米国で教鞭をとっていた頃、あのバーンスタインが彼のもとで学んでいた。

と、書けば書くほど長くなる。ヒンデミットの事は改めて詳しく書くとして、彼の音楽に興味を持つきっかけとなった曲を紹介しよう。

それは「ウェーバーの主題による交響的変容」という作品だ。
奇妙な題名だ。1943年に、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団のために書いた作品で、ウェーバー(Carl Maria von Weber 1886-1826「魔弾の射手」などを書いた)の序曲やピアノ作品のテーマを借りて、ヒンデミット流にアレンジした音楽である。ちなみにMetamorphsen、英語ではMetamorphosisという言葉は、「変容」を意味する。変容とはわかりにくい言葉だが、つまり昆虫の脱皮のような意味だろう。だから、ウェーバーの音楽を拝借しているとはいえ、全く違う音楽に仕上がっているのではないだろうか。こうあいまいに書くのは、私はウェーバーの原曲を聞いていないからだ。

この音楽の特徴を一言で言えば管楽器と打楽器の活躍だ。管楽器をこよなく好んだヒンデミットらしいではないか。特にフルートの一風変わったソロが頭に残る。金管楽器の力強い音も素晴らしい。

第一曲では冒頭から怪しげなメロディが弦楽器で奏でられるダイナミックな音楽である。金管楽器と弦楽器との掛け合いも気持ちがいい。注意深く聞くと、両方が主役を演じているのがわかる。どちらも伴奏的役割ではないのだ。この点は、グレゴリオ聖歌におけるポリフォニー(すべての声部が違うメロディを歌い、それらが絡み合うことによって作り上げられる音楽の形式をいう)と似ている。

第二曲は、チャイムとフルートのソロで静かに始まる。やがて打楽器の導入と共に、弦楽器による主題。そして次々と管楽器に主役をバトンタッチしていく流れが圧巻だ。不思議なメロディだと思ったら、どうやら原曲でウェーバーが採用した「中国のうた」の旋律をもとにヒンデミットが自由にアレンジしているらしい。トロンボーンやトランペット、そしてクラリネット、オーボエなどと絡み合うところは、ジャズの匂いもする。曲の最後では、チャイムをはじめとするパーカッションが主役を演ずる。

第三曲は、クラリネットの哀愁を帯びたメロディで始まり、オーボエ、ファゴット、ホルンの掛け合い。弦楽器がひかえめに、管楽器をひきたてている美しいメロディもいい。メロディはやがて弦楽器へと移るが、やはり管楽器と弦楽器それぞれが主役を演じている。圧巻はこれらのメロディに伴って奏でられるフルート。このフルートソロだけでこの曲を聞く価値はある。

第四曲はマーチ風音楽である。冒頭のメロディがどこかシューベルトの「未完成交響曲」第一楽章を、そしてマーラーの「交響曲第三番」第一楽章を思い起こさせる。金管楽器の静かなファンファーレも気持ちがいい。コントラバス、打楽器が実に効果的に使われている。

オーケストラの楽器すべてに主役を与え、巧みに構成されたこの作品。はじめは「変わっているな?」という印象をもつかもしれないが、聞き続けると病みつきになるかもしれない。演奏時間トータルで20分と、気楽に聞けるのも嬉しい。

ヒンデミットという作曲家の作品を聞く楽しみが、また増えた。

この作品の一部がAmazonで試聴できます。http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000003CVL/qid=1016723525/sr=1-1/ref=sr_1_0_1/249-5492645-8983548

シューベルト ピアノソナタ 第20番

-----人には音楽を聞く動機がいろいろある。気晴らし、リラックス、思い出、活力、愛、怒り、悲しみ、人恋しさ、やすらぎ。元気になりたくて聞く音楽。今日仕事で失敗して、上司からこっぴどく怒られた。得意先から大クレームで右往左往した。ひどいテスト結果だった。友達と喧嘩した。恋人にふられた。そんな時は明日の活力が沸く曲を聞きたい。一方、家族や友達にも恵まれ、何も不満のない毎日を送っているけれど、なんとなく孤独を感じている人もいるだろう。
いや人はみんな孤独だ。自分は他人にはなれないし、他人も自分にはなれない。なぜなら本当の心は自分の中にしかないからだ。だから寂しさを寂しさとして感じるられる人こそ、人の愛を大きくうけとめられるはずだ。孤独をぐっとかかみしめる時に聞く音楽。なんだか知らないけどうきうきした気持ち。説明できないのだけれど、楽しい気持ち。
そんな時に心に流れる音楽。シューベルトの「ピアノソナタ第20番」はこうした人間十人十色の感情にぴったりのソナタである。
躍動的で力強い始まり、メロディや和音の合間に半音階を装飾的にちりばめた印象的な第一楽章。知らぬ間に活力がみなぎってくる。
黄昏の一人散歩のように、悲しげな第二楽章。寂しさをぐっとかみしめ、静かに聞きたい。そして孤独を孤独として受け止めたい。
妖精が氷上で踊るような軽やかなワルツの第三楽章。説明できないけどなんとなく楽しく軽やかな気持ちになってくる。
そしてまるで歌曲のような親しみやすいメロディを高らかに歌い上げる第四楽章。繰り返し繰り返し奏でられるメロディはさりげなく、でも心にずんずんと響き頭の中にずっと残る。不思議だ。とても優しい気持ち、そして元気な気持ちになってくる。
シューベルトは短い生涯で21のピアノソナタを書き残した。ベートーヴェンをお手本にしたといわれるが、どうだろう。未完成作品も多く、ピアノソナタで完成したのは15曲だという。第20番は最後から2番目のソナタだ。19、20、21番は作品番号でも続き連作となっている。なぜ立て続けにピアノのソナタを書いたのか?その説明は音楽専門書に任せることにするが、私は19番に比べ、20番がとても明るく、躍動感溢れていることに興味を感じる。
31歳というあまりに若い年齢でこの世を去ったシューベルトにとって、以後の活躍を予感させる作品であり、シューベルトがシューベルトであることを強烈に示す作品でもある。第四楽章には少しくどい変奏部分が多いと個人的には感じるが、それも割り引いていいだけのスケールと魅力がこのソナタには、ある!バックハウスというドイツのピアニストも最後の演奏会でシューベルトの「楽興の時」を弾いている。シューベルトのピアノソナタをもっと聞いてみたくなった、、。

ヨハン・シュトラウス 喜歌劇「こうもり」

★オペラ劇場という異次元の空間

舞台芸術の王様と言われているオペラ。すべての舞台芸術がぎっしりとつまっている贅沢な芸術。いや、芸術などという呼び方はやめて、娯楽、エンタテインメントと呼ぶべきでしょう。
昔仕事でウィーンへ行き、ウィーン国立歌劇場やフォルクスオパーでオペラ鑑賞をした際に感じたワクワク感は、言葉では言い表すことのできない独特なものでした。まずオペラ劇場の建造物としての美しさ。外装はもちろん、内装もまさに異空間。当たり前ですが、日本にはこれと同じ空間はありません(日本には別の独自の演芸場があり、これは海外の人々にとって興味深いものです)。そして、そこに行き交う観客たち。みんな本当に楽しそうで、心から楽しもうとしています。変な例えですがある種「気迫」のようなものが伝わります。もちろん、オーケストラや出演の歌手達の演技の素晴らしさや舞台装置、美術の美しさはいうまでもありません。異次元の空間とはこのことか、と感動したことを今でも思い出します。

★「こうもり」をふたたび

とりわけ最も印象に残ったのが、オペレッタ(喜歌劇)「こうもり」。ヨハン・シュトラウス作の有名な作品ですね。ウィーンでは年末の公演が多いようです。私も1988年末に、ウィーン国立歌劇場で見ることができたのですが、オペラがこれほど楽しいものだと、思い知らされたのが、この作品でした。
あの時感動した気持ちをもう一度。日本にいてあの経験と全く同じ体験は無理としても、映像でその感動をよみがえらせることはできるかも。ということで色々物色していたら格好のDVDを見つけました。カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立歌劇場で収録された喜歌劇「こうもり」です。
指揮者クライバー本領発揮の分野オペラでもあるし、期待はふくらみます。CD版もありますが、今回は映像が見たかったため、DVDを選びました。
結果は最高でした!!
まるでバイエルン国立歌劇場の観客席で、幕が上がるまでの時間をワクワクしながら待っているような気持ちを味わえたのです。

★オペラの醍醐味は、幕が開く前にある

幕はまだ閉じたままのステージ前のオーケストラピットに団員が入ってくる。オーケストラの団員達はそれぞれ自分の音を確かめるように、音階を鳴らしている。
会場の明かりが次第に暗くなる。団員たちも音を止める。
指揮者が拍手を浴び登場。間髪入れずタクトをあげ、オーケストラの演奏は始まる。
これから始まるオペラに登場する音楽のエキスがぎっしりつまっている「序曲」です。公演を何度も見たことのある人は、そのメロディから、かつて見た場面を思い浮かべるでしょう。初めての人は、どんな場面になるのかを想像する。観客それぞれが思い思いのイメージをふくらませ、幕が開く、、、、。幕が開く前までで、これだけ楽しめる。ワクワク。

★映像で見られて良かった

さすがにDVDですから、カメラアングルは最高。客席では見られない歌手の表情がはっきりと見られます。ドイツ語も会場では全く理解できませんが字幕があるので、内容がわかります。
現地のオペラ好きの方とはハンデがありますよね、日本人は。なにしろ言葉がわかりません。私の持論ですが、オペラはまず言語が理解できる事が必須条件です。あらすじを知ることはできます。対訳をあらかじめ読めば、雰囲気はわかるでしょう。でも映画もそうですが、その台詞を発した時に、即座に言葉の意味がわからなければ作品を真に理解していることにはなりません。
そのハンデがDVDでは解消できます。
音楽としてだけ楽しむにはCDで十分ですが、映像で見るのは別の意味で、おもしろいですよ。本当は、内容を頭にたたき込んで、実際のステージを見るのが最高ですが、、。

★第三幕の酔っぱらい看守の見事な演技

ウィーン国立歌劇場でもそうでしたが、私が喜歌劇「こうもり」に惹かれたのは、実は音楽や歌だけではないんです。
このオペラ、ストーリーが実に大人向け。しかも神話などを題材にしているわけではなく、上流階級ではあるものの、夫婦愛、浮気など、とても身近なテーマなので、親しみやすいのです。
詳しく書くと、楽しみが減りますから書きませんが、第三幕の舞台は、なんと監獄の管理人室。シチュエーションも特異ですが、登場人物の一人である看守がおもしろい。酔っぱらいで、元旦の朝だというけれど、酒の入った小瓶を懐から出して、旨そうに飲みながら、色々と語る台詞が本当に面白いんです。
この看守役、歌は全くなく、台詞だけの演技でこなします。役者の力量だけでステージで個性を発揮しなければなりません。
ウィーン国立歌劇場では、指揮者に向かって、「おい指揮者よ!調子に乗るんじゃないぞ!」とおそらくアドリブで語り、客席から絶大な拍手を浴びていた酔っぱらい看守が、強烈に今も印象に残っています。
DVD版の看守役も味があり、とってもいいです。私は彼の演技が見られただけで大満足です。
オペラを語るにしては、音楽以外の事を書いてしまいましたが、誰もが楽しめるオペレッタ「こうもり」は、最高のエンタテインメントではないでしょうか?機会あればぜひ見てください。

サン・サーンス 「動物の謝肉祭」 ※室内楽ヴァージョン Saint-Saens Le Carnaval des Animaux

音楽の授業では必ず取りあげられたはずのこの作品。これほどわかりやすく、親しみのある音楽も珍しいでしょう。クラシック音楽という分類なんか忘れててしまいます。

13曲で構成されるこの組曲はサン・サーンスの友人の夜会で演奏する目的で書かれました。初演と数回の演奏ではサン・サーンス自らピアノを弾き、当時有名な演奏者が参加したといわれています。

しかし数回の演奏会を後に彼は生涯二度と自ら演奏しなかっただけでなく、一般における演奏も禁止したのです。もともと夜会向けきわめて私的に書いた作品ですし、いろいろな作曲家の作品をパロディ的に扱っていたこともあり、道義上納得いかなかったわけです。ですから楽譜が出版されたのも演奏会で公開したのも彼の死後でした。

オーケストラで演奏されるのが一般的な「動物の謝肉祭」の原点は上のような事情で室内楽でした。私はたまたまいつもの「アンサンブル」で物色していた際にアナログLPレコードを見つけました。

編成を見てみましょう。
(1) 序奏とライオンの行進 (2台のピアノと弦5部)
(2) めんどりとおんどり(クラリネット、2台のピアノ、ヴァイオリン第1、第2とヴィオラ)
(3) 野生のらば (2台のピアノ)
(4) かめ (第1ピアノと弦5部)
(5) 象(第2ピアノとコントラバス)
(6) カンガルー(2台のピアノ)
(7) 水族館(フルート、グラス・ハーモニカ、2台のピアノ、ヴァイオリン第1、第2、ヴィオラとチェロ)
(8) 耳の長い登場人物 (ヴァイオリン第1、第2)
(9) 森の奥に住むかっこう(舞台裏で吹くクラリネットと2台のピアノ)
(10) おおきな鳥かご(弦5部、フルート、2台のピアノ)
(11) ピアニスト(2台のピアノと弦5部)
(12) 化石(弦5部、木琴、2台のピアノ、クラリネット)
(13) 白鳥(チェロと2台のピアノ)
(14) 終曲(ピッコロ、クラリネット、グラス・ハーモニカ、木琴、2台のピアノと弦5部)

ピアノが2台あるので、それだけで骨格のしっかりとした音色になっています。オーケストラ版と比べるとこじんまりとした印象ですが、室内楽らしく個々の楽器の持ち味を堪能できて興味深いです。

堂々とした「ライオンの行進」、2台のピアノと弦5人だけでもこれだけ迫力ある音色になるのですね。「かめ」は有名な「天国と地獄」のメロディを弦5台でユニゾンで奏でます。不思議な気分です。

「象」のコントラバスのソロがイカすなぁ。「水族館」はグラス・ハーモニカという変わった楽器が使用されています。ガラスのコップを大きさの順に並べて回転させ、それに指を触れて鳴らす楽器で、19世紀にはフランスでかなり愛されていたとのこと。神秘的な音色に虜にさせられます。

「森の奥に住むかっこう」の厳かなピアノの音に遠くで聞こえるワンパターンのクラリネットとのコントラストが笑ってしまいます。「大きな鳥かご」の美しいフルートには心奪われます。私の聞いたレコードでは「ピアニスト」は少しおふざけがはげしいけど、下手くそな演奏が妙にいい味を出します。

色々な歌曲が混ざっている「化石」、木琴の音が効きます。クラリネットのユーモラスな音色も楽しい。誰もが知っている美しいメロディの「白鳥」、チェロの音色を充分味わってください。バレリーナが必死に踊る光景を思い浮かべます。「終曲」は「序奏」と同じオープニングですが、その後の調子のよいテンポやピアノの活躍などが気持ちいいフィナーレです。