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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
Vol.31 2003年6月21日(土)
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「優しいあなた」 Your Kind
アルバム 「時の流れに」第9曲 1975年
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ラスト前の曲は軽いポップな感じの歌でした。シンプルなビートをきかせるベ
ースのフレーズと重なり遊ぶギター、そして静かなドラムの前奏。冒頭にドラ
ムのざわめきが少しだけ聞こえます。曲調は特に盛り上がりもみせずに淡々と
進むのがいいのですが、歌の内容は結構身に迫るものがあります。クールなだ
けにね。
You're Kind 親切な君
Lyrics by Paul Simon(迷訳:musiker)
You're kind, you're so kind
君は親切だね本当に
You rescued me when I was blind
何も見えない僕を救ってくれた
And you put me on your pillow
枕をあてがってくれたね(横に眠らせてくれた、、)
When I was on the wall
壁に張り付いていた僕を
You're kind, so kind, so kind
本当に親切だ
立ったままの自分を横に寝させてくれる。比喩的表現でしょうが、ようはゆっ
くりと眠る精神的余裕さえもない自分に「眠れる」やすらぎを与えてくれたと
いうような意味が底にこめられているかもしれません。それにしても淡々と続
く歌、余計なコメントは必要ありませんね。でもここでシンバルによるアクセ
ントが入るのは意味深…。
And you're good, you're so good
いい人だ、君は本当にいい人
You introduced me to your neighborhood
近所の人に僕を紹介してくれた
Seem like I ain't never had so many friends before
前よりたくさんの友達もできた
That's because you're good, you're so good
君がいい人だからさ
近所付き合いというものが得意な男性(御主人?)はいいです。でも中には不
得手な人もいる(実は私は典型的な非社交的人間です。社会人失格…)。そん
な人のパートナーがまったく正反対の社交派だったりします。
奥さんが近所の人と楽しく談笑する遠くでまるで素知らぬ他人のようにふるま
いたい御主人。もちろん近所の人々は彼女の旦那様であることは知っているし、
彼女たちは気をつかって素知らぬ顔をするけれど、、、ご近所さんたちはしっ
かり彼の顔を記憶にインプットしています。こういう男性はふだん本当に映画
に出演する通行人のようにさりげなく演じなければならないのです、、(汗)。
でも、心を開けば意外に打ちとけあって、楽しい関係になるかもしれないのです
が。
と余計な話題はさておき、この歌の主人公も人付き合いが苦手なタイプです。
だからパートナーがきっかけで近所の人たちと友人関係になれた。そのことを
とても感謝しています。
つまりこのフレーズは、女性=社交人、男性=非社交人という、レッテルによ
るもの。もちろん人間がすべてこのレッテルにあてはまるわけはありません。
人それぞれですしね。
感謝していた彼女なのに、主人公は不安になります。
曲はここでサビの部分に入ります。淡々としていた音楽も転調し少しだけ雰囲
気が変わります。
Why you don't treat me like the other humans do
君が僕に特別にふるまってくれる
Is just a mystery to me
本当に不思議なのさ
It gets me agitated when I think that
そう考えると僕の考えは妙な方向へ
You're gonna love me now indefinitely
君はいったい僕を永遠に愛してくれるんだろうか?って
So goodbye, goodbye
だからさよなら、さよなら、さ
I'm gonna leave you now
君の元を去ることにするよ
And here's the reason why
理由?
被害妄想です(ここの歌詞だけ聞けばの話ですが、、)。
自身の人間の狭さを自覚すればするほど、彼女の社交性のもとでどんどん追い
つめられていきます。「これじゃいけない」という自分と「これでいい」とい
う自分の二人に挟まりパニックになるのです。あげくのはて疑いは彼女の自分
への思いの変化。これまで親切にしてくれた彼女もそのうち愛想をつかすので
は?と。
だからといって彼女の元を離れるなんて、ほとんどの男性はできないし、しな
いでしょう。ほとんど非現実的なストーリーにも驚くべき結末がありました!
I like to sleep with the window open
僕は窓を開けたまま眠りたい
And you keep the window closed
でも君は窓を閉めて眠る
So goodbye, goodbye, goodbye
だから、さようなら、さ
「馬鹿な、、(笑)」
「信じられない!」
って思うかもしれません。
でも、人間って不思議なもので、他人にとってはささいなことでも本人には重
大な理由なのです。嫌いになる理由って、理由とはいえないかもしれませんし
ね、他人には。
ブラスセクションの編曲はポール・サイモン自身と、前々号でも書いた通りで
す。淡々としたバックに優しげなパンチを効かせてくれています。
淡々とした音楽の底に、人間同士の哀しい関係がこめられているこの歌。男と
女の関係をこれほど端的に表現した歌詞と曲は、そう見あたらないのではない
でしょうか。アルバム終曲の一曲前、ポール・サイモンは本当に一筋縄ではい
かない曲を起用してきますね。
このクールな歌の後、感動的なピアノの短い前奏の後始まる、またもや意味深
な曲。次号はいよいよアルバム"Still Crazy After All These Years"終曲で
す。
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【あとがき】
「時の流れに」からなんと5年間もポール・サイモンはアルバムを発表してい
ません。オリンピックが4年毎ですからね、なんとも長い時間です。あの頃私
はポールの音楽以外に傾聴していたのでブランクの長さは実感として感じてい
ないのですが、ファンたちには長い年月だったことでしょう。
この時期アルバム発表はしていませんがポール自身は色々な活動をしていまし
た。所属レコード会社が変わるというアーチストにとって重大な事件もあり、
さらに活動の範囲を更に広げようと模索していたのです。このダイナミックな
経過のエピソードについて少しづつ紹介していきます。興味深いですよ。
ホームページのコラムで「ワン・トリック・ポニー(One Trick Pony)」につ
いて少しだけ触れてみました。プロローグのプロローグですけど。
URL: http://www.musiker21.com
ではVol-32までごきげんよう!
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