「手紙が欲しい」 Why don't you write me
ポール・サイモンがレゲエに挑戦した歌がこの「手紙が欲しい」です。彼は自らの音楽に新たな色合いを加えるため各種民族音楽に強い興味を抱いていました。しかしこの作品における試みは必ずしも成功ではなく、むしろ失敗だったとう批評。彼自身も自ら「醜悪なイミテーション」と述べています。
レゲエ音楽として是非はともかく、確かに「ニューヨークの少年」が終わった後に、調子の良いチョーキングのギター、ピアノ、ドラム、ベースによる一風変わった前奏がはじまった時、何とも行き所のない気持ちが起ました。
「また、S&Gとは違う雰囲気の歌だな、、」と。
Why don't you write me
どうして手紙をくれないの
I'm out in the jungle
まるでジャングルにいるみたいだ
I'm hungry to hear you
君の便りに飢えている
Send me a card
カードを送ってくれよ
I am waiting so hard
本当に待ち望んでいるんだ
To be near you
君からの手紙を
(la la la)
Why don't you write?
なぜ手紙をくれないんだ?
確かにS&G的でないかもしれない。でも軽快なリズムにのった歌はとても楽しい雰囲気。ポールの少し遠めに聞こえる多重録音のヴォーカルも変わっていてとておもしろいです。途中 Why don't you write の低音ヴォーカルは誰でしょうか?ふだんは低音で歌ったことのない人が無理に低い声を出しているのがよくわかり、悲壮感あふれていますね。
きっと何か良くないことが起きたんだ
すぐいかなきゃいけないのはわかっているけれど
どうも迷ってしまったみたいだ
それにとても用意できないよ
航空運賃のためのお金は
教えてくれよ
なぜ
教えてくれよ
長い間手紙がこないなんて、信じられない主人公のあわてぶりがよく伝わりますね。どうしていいかわからないけれど、いてもたってもいられずに出かけたものの迷う。それによく考えれば、相手はとんでもなく遠い所にいるわけで、お金だって必要。途方にくれる様子が目に浮かびませんか。
バックでけだるそうに出す低音のうなり声。うんざり。やるせなさ。間奏のテナーサックスの音は地の底から体に響いてくるようです。サックスはこの後のコーラスでもバックに加わり、サウンドに更に厚みを加えます。
どうして手紙をくれないんだ
1通の手紙が明るくしてくれる
僕の寂しさいっぱいの夜を
今日、すぐに送って
たとえ、ただ一言別れの言葉を
告げるための手紙でもいいから
(la la la)
主人公は、今頃ですが、手紙がこない理由は、自分が嫌われているのではないかと気がつきます。本当はそれを信じたくはないんですがね。
次は月曜日から金曜日までの一週間。そういえばそんな歌がロシア民謡でありましたね。こちらの主人公は太陽の下で一日中手紙を待ち途方にくれています。木曜日には酒(ヨードってどんな酒なのか調べてみたのですが、決め手の情報にめぐりあえませんでした。どうもモルトウィスキーの一種のようですが、、)を飲み過ぎ、二日酔いで気分が悪く鬱屈した金曜日には、衝動的に首つりでもしてしまおうか、とまで思い詰めています。曜日が出てくると歌詞にリズムが生まれて、親しみやすくなりますね。歌詞の内容はそれどころではないけれど、、。
Monday morning, sitting in the sun
月曜の朝、太陽の日差しの中で座っていた
Hoping and wishing for the mail to come
郵便が配達されるのを期待しながら
Tuesday, never got a word.
火曜日、一言もなく
Wednesday, Thursday, ain't no sign.
水曜日、木曜日、何の音沙汰もない
Drank a half a bottle of iodine.
ヨードをボトル半分も飲んでしまった
Friday, woe is me
金曜日、悲しみのどん底で
Gonna hang my body from the highest tree.
一番高い木で首をつってしまいたい
Why don't you write me?
手紙が欲しい
最後は Why don't you write me と執拗に叫ぶポールの歌声が繰り返され、フェードアウトしていきます。
レゲエとしては失敗作だとポール自身も認めているものの、ひとつの作品としては決して失敗でも何でもないと思うのですが、皆さんいかがですか。
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