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「老人の会話」 Voices of Old People
 
 これは歌ではなく、老人たちの会話を録音し編集された作品です。英語ですしよく聞き取れない声の小さな女性の会話などもあり、日本人は雰囲気だけ感じ取るしかありません。
 
 こんな奇妙な試みを考えたのは、アート・ガーファンクルで、彼はテープ・レコーダーを持って、ニューヨークとロス・アンジェルスのさまざまな場所で老人の会話を録音したそうです。ここに納められているのは、抜粋で、ユダヤ老人共同ホーム、リシーダのカリフォルニア老人ホームにおけるものだそうです。
 
 最近、彼らの会話を注意深く聞いてみています。聞き取れないところや理解できない単語もあり、完全に意味を把握できませんが、わかった範囲で書いてみます。
 
 【老人の会話】

 どうも、写真のことを話しているようです。
 男性が、ある写真を手に入れるため100ドルのお金を払ったことを語り、老婆が驚嘆の反応をします。
 すると女性が、自分の持っている写真を皆に見せます。最初の結婚で生まれた子供が写っている写真のようです。
 そこから親と子の話になりますが、その言動に横やりを入れるように、老婆が机を叩いて「いつも母親は子供のために生涯を捧げるのよ!」と語る。そして静かに「そうね、そうよね」と同意する様子から察すると、どうも横やりをいれられた老婆は、子供に対する不平、あるいは自分が立派な子供を育てたことの自慢などを語っていたのかもしれません。
 
 100ドルの男性は、元気そうに話をしていますが、突然、
 「もう若くはなれないんだ。俺たちはもっと歳をとっていくんだ。ああ、それだけさ、、、」と寂しく語ります。
 
 やがて、別の老婆が、そばの老人たちに「ここにいて皆幸せ?」と再三尋ねます。ある男性は、ためらいがちに「幸せなんかじゃない」とつぶやきます。他の皆は答えません。「イエスっていってほしいんでしょう?」と逆に尋ねる人もいます。残酷ですね。そして質問主の老婆は、
 「私は幸せよ。ここにいれば皆が私に反応してくれる。え、何、何?って注目してくれる。ここは素敵な空間。ここが私のホームなの。」
  
 私の乏しいヒアリング力によるものですし、わからない部分には私の創作も混ざっていることをご理解下さい。でも、会話の雰囲気はおわかりいただけるでしょう。
 
 コメントは特にしません。しかし、自分の親も既に老人の域ですし、私たちもやがて歳をとります。その時にどんな会話ができるのだろう。会話の相手は誰なのだろう、相手はいるのだろうか。そして、その会話は生きた会話のままでいつまでいられるのだろうか、と考えるのは、恐ろしくもあります。
 
 奇妙なこの作品、賛否両論あるでしょうが、フェイドアウトした会話に重なりフェイドインしてくるこの後の6曲目「旧友」との見事な調和となり、アルバムの中でもきわめて重要な役割を果たしているのではないでしょうか。

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