遠くの汽車 Train In The Distance
アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」第7曲
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遠くの汽車 Train In The Distance
Copyright:1981 Paul Simon 迷訳:musiker
She was beautiful as southern skies the night he met her
出会った夜の彼女は、南の空のように美しかった
She was married to someone
でも、誰かと結婚済み
He was doggedly determined that he would get her
彼はなんとかして彼女を得ようと心に決めた
He was old she was young
(年齢のわりには)男は大人で、女は若かった
From time to time
繰り返し彼は
He've tip his heart
自分の思いを告げ続けたが
But each time she withdrew
いつも、女に拒まれ続けた
Everybody loves the sound of a train in the distance
だれもが、遠い汽車の音に憧れる
Everybody thinks it's true
みんなが、あの音に真実を夢見る
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軽快で、のりの良いリズムにのり、コーラスが光る印象的な前奏。意外に長め
です。声とパーカッションで汽車の雰囲気を出しているところも面白いし、よ
く聞くといろんな楽器の音が混ざり合っています。
男と女の出会い。
社交のためのパーティなどで、出会った二人。というよりも、男が女にひとめ
惚れをしたのでしょう。女性の美しさをたとえて「南の空」と表現するところ
がにくいです。
すでに結婚している女性を、別れさせてまで一緒になろうという情熱。それを
実行してしまう行動力には脱帽です。ポール自身の経験とオーバーラップしま
す。(ポールが最初の妻ペギーと初めて出会った時、彼女は結婚していた)。
男にとって、彼女は憧れ。遠くに聞こえる汽車の音と同じだったわけです。
優しいポールの歌声が印象に残ります。ベースギター、ドラム、アクセントと
してのギターの音、そしてキーボードも効いています。バックには、ファルセ
ットでポールの声が聞こえます。不思議な雰囲気を醸し出していますね。
前奏と同様の間奏が入ります。
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Well eventually the boy and the girl get married
なにはともあれ、男と女は一緒になり
Sure enough they have a son
男の子が生まれた
And though they were both occupied with the child she carried
二人とも彼女のお腹の子どもに夢中だった
Disagreements had begun
けれど、不協和音が始まる
And in a while
しばらくすると
They fell apart
二人の心は離れていった
It wasn't hard to do
いともたやすく
Everybody loves the sound of a train in the distance
だれもが、遠い汽車の音に憧れる
Everybody thinks it's true
みんなが、あの音に真実を夢見る
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夢が叶い憧れの女性を伴侶として迎えた男。
ところが、愛の結晶ともいえる子供が生まれる頃から、次第に考え方の相違を
感じ始めるとは、皮肉な話です。
心の絆はやがてガラスのように壊れてしまう。やっとその手に握った憧れは、
ふたたび遠ざかっていきます、まるで汽車の音のように。
ここまで、喋るように歌い続けるポールの声は、寂しさあふれる詩をうたうの
に妙に醒めています。そういえば、この歌のメロディはおおげさな変化もなく、
和音の動きを追い上下しているだけみたい。いや、これはメロディというより、
音に乗って喋っているという感じでしょう。
そして、短いサビ。ドキリとさせられる言葉をポールは吐きます。
Two disappointed believers
信じ合っていたからこそ、絶望感のキズが深いふたり
Two people playing the game
ただゲームで遊んでいただけのようなふたり
Negotiations and love songs
交渉のための話し合いも、愛の歌(愛のことば)も、
Are often mistaken for one and the same
同じようなものと、誤解されるものさ
夫婦とは、最も近く、そして最も遠い人間関係と、どこかで聞いた話を思い出
します。夫婦に限らず、親兄弟も紙一重かもしれません。
サビの部分のメロディは、言葉とぴったり合い、印象深いですね。最も言いた
かったと思われる'Are often mistaken for one and the same'は、ゆっくり
と言葉の意味を確かめるように歌われています。
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Now the man and the woman they remain in contact
男と女の関係は今も続いている
Let us say it's for the child
それは…、子供のための両親という関係
With disagreements about the meaning of a marriage contract
契約としての結婚に関する考えが違うから
Conversations hard and wild
容赦のない、荒っぽい会話が続いている
But from time to time he makes her laugh
でも、男は何度も女を笑わせるし
She cooks a meal of two
女はふたりの食事を作ったりもする
Everybody loves the sound of a train in the distance
だれもが、遠い汽車の音に憧れる
Everybody thinks it's true
みんなが、あの音に真実を夢見る
ふたりは子供のために、父と母を演じ続けている。しかし、詩からは微笑ましい
日常も垣間見られるので、少しホッとさせられます。
結婚を経た二人にとって、お互いを見る目が、前とは随分変わったのでしょう。
今、二人は、別々のそれぞれの遠い憧れを、汽車の音の中に聞いているようです。
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歌は、本来ここで終わってもよかった。
しかし、ポールは、クールな語り手の立場から転じ、少し興奮気味に、聞き手
に問いかけているようです。それは、ポールの自問自答なのかも。
What is the point of this story
このストーリーのポイントはなんだろう?
What information pertains
この話から、君は何を知る?
The thought that life could be better
素晴らしい人生を送るための考えは
Is woven indelibly
永遠に編み続けられる
Into our hearts and our brains
僕らの心、そして僕らの脳の中で
詩の内容を注意深く考えれば考えるほど、この歌が語ろうとするものをぼんや
りと想像します。恋愛、結婚、離婚、夫や妻、子供、さらに親との関係など、
さまざまな思いが湧き出てくるでしょう。
ポールは、問いかけただけなのです。'What information pertains'だけでも、
充分その目的は達せられたはず。
しかし、おせっかいな彼は(笑)、最後に一言付けくわえずにはいられません。
そう、ここでも、heartとbrainが出てきます。情と理の間をさまよいながら、
人は幸せを求めているでしょうか。
歌が終わると、前奏、間奏と同様、長い後奏が続きます。楽器の動きを耳で確
かめてみましょう。最後チェロがしゃしゃり出てくる部分には少し驚きます。
弦楽器をパーカッションのように使うんですから、油断できず、面白いですね。
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