考えすぎかな(b) Think Too Much(b)

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 考えすぎかな(b) Think Too Much(b)
             アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」第4曲

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Think Too Much(b) 考えすぎ?(b)


「スモーレスト・ピープル・イン・ザ・ワールド」って、白雪姫の物語みた い。って、歌詞カードを見ず聞いていた頃、いつもにやにやしていました。 ポールは白色系人種としては背が低い方。キャリー・フィッシャーも小柄な女 優さんですね。

だから自嘲気味に「世界で一番小さな人間が…」という歌詞にしたんだろう な、と妙に納得していました。私も小柄な方なのでその気持ちわかるなぁ、な んて。

が、これは失笑ものの間違いでして、smartest=(スマーテスト)=スマーレ ストに聞こえたのでした。大学時代の英語音声学実習授業を思い出しました (笑)。

奇妙な前奏が長く続きます。山羊の声のような音が聞こえますが、ひょっとし て人間の声かも知れません。多種の声は、どうもポールが重ね録音しているよ うですね。

 The smartest people in the world
 頭脳明晰な人間たちが
 Had gathered in Los Angeles
 ロス・アンジェルスに集まり
 To analyze the love affair
 その恋愛を徹底分析した結果
 And possibly unscramble it
 おかげで元の状態に戻れたようだ
 And we sat among our photographs
 二人は写真を前に一緒に座り
 And touched on every one
 一枚一枚の思い出を語る
 And in the end we compromised
 やがて互いを理解し合い
 And met the morning sun
 (新しい)夜明けを迎えた
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 たぶん考えすぎだろう

頭のよい人間たちとは、誰でしょう。二人の友人、知人たち?いいえ、きっ と、ふたりを指しているのでしょう。心がいったん離れそうになった二人は、 冷静に話し合い、仲直りしたんでしょうね。どこかで記憶のあるシーンです が、「ハーツ・アンド・ボーンズ」に似たくだりがありました。

ベースが歌と共に遊んでいます。良く聞かなければ気が付きません。コーラス は皆ポールですね。どうも似た声です。

 They say the left side of the brain
 Dominates the right
 左脳が右脳を支配すると、人はいう
 And the right side has to labor
 右脳は奴隷のように
 Through the long and speechless night
 無言で夜通し仕事に明け暮れる
 And in the night
 夜中に
 My father came to me
 親父がやってきて
 And held me to his chest
 僕を自分の胸に抱き、こうつぶやく
 He said there's not much more that you can do
 お前にできることは限界があるんだ。
 Go home and get some rest
 だから家へ帰り少し眠るがいい

右脳は感情を司り、左脳は理性を司る、と、よく話題になります。人間の頭脳 の主役は左脳。物事を論理的に考える。一方右脳は、感覚的に物事をとらえる というわけです。理性が感覚を奴隷のように支配するとはうまい表現ですね。
 And I said yeah
 僕は答える
「そうか、そうだね」
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 考えすぎかもしれない

始めから終わりまで、終始同じような伴奏とメロディ。飽き飽きしそうですが、 何度も聞くと、人間のループする心を表すようで、妙な感慨にふけってしまう 不思議な曲です。

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ご承知のとおり「Think Too Much」はガーファンクとのデュオ、つまりサイ モン&ガーファンクルとして十数年ぶりに発表する企画だったアルバムのタイ トルでもあります。世界中のファンはもちろん、レコード会社ワーナー・パイ オニアも心待ちにした幻のアルバムです。

でも、途中で何があったかは定かではありませんが、このアルバムの企画は消 え、ポールのソロアルバムとして発表となりました。タイトルは「ハーツ・ア ンド・ボーンズ」と改められました。

でも、アルバムには元の「Think Too Much」の影が強く残っているような気 がするのです。その証拠に、「考えすぎかな(Think Too Much)」がA面と B面に収録されています。本日とりあげているBの方は、終始おだやかな曲想 の中、ポールのつぶやきだけが妙に強調される音楽になっています。一方、後 日とりあげるA、本来はこれがメインだったのではないかと想像するのですが、 こちらは、リズミカルで単独の作品として充分な力量を示しています。このB は、むしろプロローグ、エピローグ、それとも間奏曲のような扱いのように思 えてなりません。

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そろそろ、アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」のテーマがおぼろげにです がわかってきました。アルバムに収録されている曲の詩がいわんとすることは、 対立する、あるいは対照的なふたつのもの。

欲望と理性、肉体と心、理論と感覚、数字を意味のある記号ととらえる心とそ れを単なるシンボルとしてとらえ心。左脳と右脳。支配者、そして支配される もの。女を支配する男、女に支配される男。男と女。

例をあげればきりがありません。

きりがないほど考え続け、たどりつく結果は、この歌のように、考えるのはほ どほどにして早く眠りなさい、というアドバイスなのです。人間は考える葦。 でも、一方では何の考えもないただの動物でもあるのですから。

いわば人間の根元的なものを、ポールは、淡々とした音楽の中、少しユーモラ スな詩で表現しようとしました。でも、彼はたぶん「Think Too Much」のA のように、いつものごとく、笑い飛ばそうと思っていたに違いありません。け ど、何かが彼に、このBのように暗示的なアレンジをさせたのです。

それを、A面の終曲前にもってきたところが、いかにもポールらしいですね。


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