考え過ぎかな (a) Think Too Much(a)

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 考え過ぎかな (a) Think Too Much(a)
             アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」第6曲

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歌詞はthink too much bの延長(というよりもこちらが本家か?それともあち らか?)なので、基本的思想は同じ。ただこちらは少しリアルである。リアル〜 というか、その、妙な親近感を覚えるのは私だけだろうか。

さらに、音楽のビートが利いている。ドラムとベースギターが響き腹の底から ボンボン叩いてくるのである。電気的な処理をほどこしたポールのヴォーカル、 多重録音もとても光っている。終始聞こえるギターのコードストロークも気に なる。エレクトリック・ギターのアンプ抜きの音かも?

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 Think Too Much(a) 考え過ぎかな
            Copyright:1981 Paul Simon 迷訳:musiker

 They say that the left side of the brain
 Controls the right
 左脳が右脳をコントロールするらしい
 They say that right side
 Has to work hard all night
 右脳は夜通し働く運命なんだって
 Maybe I think too much for my own good
 きっと、僕は考えすぎの性分なのだろう
 Some people say so
 誰かがそうだといえば
 Other people say no no
 他の人は「違う」っていうし
 That fact is
 真実は?
 You don't think as much as you could
 あまり考えすぎないことだって

繰り返しだ。ここまで聞いて、Bを思い出すだろう。あの歌は妙にしんみりと 聞かされた。でも、今度の歌は、しんみり感とは無縁で、どこか楽しげだ。続 く二番で、ポールお得意の子どもの頃の回想が始まる。

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 I had a childhood that was mercifully brief
 僕の幸せな少年時代は短かった
 I grew up in a state of disbelief
 猜疑心の状態で成長したせいか
 I started to think too much
 考えすぎるようになった
 When I was twelve going on thirteen
 12歳から13歳の頃
 Me and girls from St. Augustine
 僕とSt. Augustineから来た女の子とふたりで
 Up in the mezzanine
 中二階に昇った
 Thinking about God
 神のことを考えながらね

疑い深くなったのは、育った家庭のせい?それとも友達の影響か?ちょっと気 の毒な気がしないでもないけど、こういう子どもは結構いるかもしれない。あ なたはどうだったでしょう?

St. Augustineからやってきた女の子とは、何か宗教的暗示なのだろうか。中 二階へ上がったというのが、なんとなく「アヤシイ」のである。もちろん、神 のことなんか考えちゃいないのさ、それはただの口実かも。ここは想像力をた くましくするしかなさそうだ。

Maybe I think too much
Maybe I think too much
Maybe I think too much
Maybe I think too much

またもや、ビートのきいたベース。そしてギターのコードストロークが映える。 三番は、もはや正気を通り越している。真面目に内容を考えるなんて無駄なこ とはやめよう。これは、ほとんど逝っちゃっている感覚をそのまま言葉にした 詩。そう受け止めよう。

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 Have you ever experienced a period of grace
 優雅な時期を過ごしたことがあるかい
 When your brain just takes a seat behind your face
 君の顔の後ろで脳が陣をとり
 And the world begins The Elephant Dance
 世界は象の踊りを始め
 Everything's funny
 すべてがおかしくて
 Everyone's sunny
 みんな脳天気
 You take out your money
 さあ、金を持って
 And walk down the road
 道を下っていきな

逝っちゃった主人公の感覚は、更に妄想へと進む。ここからは、禁断の世界。 もし、普通の男がこういう妄想をそのまま実行すれば、犯罪者、ストーカー、 あるいは変質者と見なされるだろう。妄想そのものは、特別なものではない。 男も女も同じで、頭の中ではいろんなことを考えるんだから。しかも、実行す る奴はほとんどいない(最近は実行する馬鹿者が目立つが…)。

この最後のフレーズで、ポールは人間が誰もが持っている危ない感覚を、ユー モラスに暴露するかのようだ。

 That leads me to the girl I love
 それは、恋した女の子の元へ僕を導く道
 The girl I'm always thinking of
 いつも思い続けている女の子
 But maybe I think too much
 でも、きっとこんなことを考えちゃんだろう
 And I ought to just hold her
 彼女を抱きしめちゃえ、とか
 Stop trying to mold her
 彼女を固めようなんて考えるなよ、とか
 Maybe blindfold her
 目隠しして
 And take her away
 どこかへ彼女を連れ去れ、なーんてさ

 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much
 Maybe I think too much

好きな女の子とどう向かい合うか、それがわからない男が、一人で妄想にふけ っている。もちろん彼はそれを実行するつもりはないんだけど、妄想の世界で は、彼は王様。

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そう、「考えすぎ」なのは、確かに物事をあらゆる角度から考察(?)、その 結果くよくよ悩み、八方ふさがりになる人物だ。けれど、程度の差こそあれ、 人間には、こういう側面がある。

善悪、表裏、精神と肉体、表裏一体のものごとはたくさんある。ポールはこの 歌で、自らピエロに扮しながら、存在そのものが矛盾する二つのものや事柄を 浮き彫りにしているのではないか。

しかも詩においてだけでなく、音楽としても、aでは底抜けに楽しいビートを 使い、bではしっとりとセンチメンタルに、しかも父親まで登場させて、柔ら かなものに仕立て上げた。

bで父親が「俺は無力だから、お前には、くよくよせず眠ることだ、としか忠告 できない」なんて、涙を誘う温かい言葉をかけている。しかし、aでは「まあ、 しょうがなかんべさ、くよくよ考えるのはやめて楽しくやろーぜ」という感じ で、もうひとりの自分が告げる。力強ささえも感じる。頼りになるではないか。

同じ歌なのに、こうも対照的に創り上げるなんて、全くポールはとんでもない アーチストじゃないか?そして、本当に見事だ。この両面こそが、ポールがサ イモン&ガーファンクル時代から持ち続けてきた感覚なのである。S&G時代 はさほど強く前面に出ていなかった。ソロになってからは徐々に主張されてき た。そしてこのアルバムにおいて、ようやく鮮明に表現したといえるだろう。
まあ、小難しい事は忘れ、純粋に音楽としても、充分楽しめる作品だろう。本 アルバムには他に名曲が多いので、肝心のタイトル曲を忘れがちだけれども、 "Think Too Much" 二曲を味わうと、さらにポールの歌の世界が面白くなる。


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