Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.38  2003年9月3日(水)

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 神はいかにして映画を創りたもうたか
 That's Why God Made The Movies
            アルバム「ワン・トリック・ポニー」第2曲

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  That's Why God Made The Movies
     だから神が映画を創ったのさ

  When I was born
  生まれてすぐ
  My mother died
  ママは死んじゃった
  She said, bye bye, baby, bye bye
  「さよなら、坊や、さよなら」って言い残し
  I said, where you goin??
  「どこ行っちゃうの、ママ?
  I'm just born
  ボク、生まれたばかりなんだよ」
  She said, I'll only be gone for a while
  「すぐ帰ってくるからね」
  My mother loved to leave in style
  ママは粋な離れ方をする女(ひと)
  That's why God made the movies
  神は、だから映画を創ったのさ

神が映画を創った、という大胆とも思える発想も、神を心の存在と考える信者
には至極当然ともいえるでしょう。神が常に見守っている、あるいは見張って
いる。そういう感覚で人生をすごしている人々には、人生のすべてが神によっ
て書かれたシナリオで進行する映画のようなものかもしれません。

私は無宗教ですが、心のよりどころとしての神の存在を、この頃うらやましく
思えるようになりました。年を重ねたからかもしれません。スイスの80歳を
超える女性のお宅にカメラマンの男性と二人でホームステイさせていただいた
際、彼女が「人間は弱いから何かすがりつく存在が必要。だから私たちにとっ
ては神なの」と言いました。その時はピンとこなかったけれど、今は理解でき
ます。

アコースティックギターによる少しブルースっぽい前奏。ポールの歌うメロ
ディもブルース調です。

生まれてすぐに母親が死ぬ。とても可哀相な境遇です。「バイバイ」の箇所の
歌声、力尽きていく感じが出ていて哀しいです。驚くことにこの赤ん坊は母親
に質問するんですね。「どこいっちゃうの」と。すると母親は「すぐに帰って
くる」って「嘘」をいうんです。子供の元を離れる昔からの常道手段です。日
傘を差し白いドレスをまとった気品ある女性が坊や「待っててね……」と告げ
て去る、そんな光景が目に浮かびます。"Mother loved to leave in style"
の部分の意味は想像ですが、さりげなく粋ににふるまう女性だったのだ、とい
解釈をしてみましたが、公式日本語訳ではどうなっていたんでしょう? 死ん
だ母親が自分のもとを離れた光景をイメージによる再現です。まさに神が創っ
た映画らしいではありませんか。

  Well, I laid around in my swaddling clothes
  産着にくるまれて寝ている僕
  Until the doctor came and turned out the lights
  医者が来て明かりを消すと
  Then I packed my bag
  僕は荷物をまとめ
  And my name tag
  名札をしまい
  I stole away into the night
  夜の中へこっそり抜け出した
  Hoping things would work out right
  希望を胸一杯に抱き
  That's why God made the movies
  だから神は映画を創った

産着にくるまれている赤ん坊は、逃げ出せる年齢(赤ん坊じゃ逃げ出せません
よね?)に突然タイムスリップします。医者が出てくるから当然病院ですが、
赤ん坊時代に入っていた病院なのか、物心ついた頃の病院か不明でオーバー
ラップします。孤児院にいた子供が自由を求めて出ていったのかもしれませ
ん。あるいは、親戚に引き取られたものの、ひどい仕打ちをうけ、ある程度年
齢に達した時に家出をしたのかも。いずれにしても、ここは成長した男の子が
出ていく、巣立つ場面を歌っているのでしょう。

  Say you will! Say you will!
  ねえ、言ってよ、ねえ
  Say you'll take me to your lovin breast
  愛しいその胸に抱きしめ
  Say you'll nourish me
  乳を授けてくれるって
  With your tenderness?
  いっぱいの優しさで
  The way the ladies sometimes do
  女の人がみなしてくれるように
  Say you won't Say you won't!
  ねえ、言って
  Say you won't leave me for no other man
  他の奴のところになんて行かないって
  Say you'll love me just the way I am
  僕があなたを愛するように、あたなも僕を愛してくれるって
  Say you'll love me
  Say you will, say you will

もの悲しい歌詞です。「お願い!言って」と繰り返したところで、イエスの返
事が返ってはこない願望なのです。亡くなった母親から乳を与えられるはずは
ありません。でも一度も授けてもらえなかった現実は、願望、あこがれとな
り、心の中にいつまでも残っています。大人になってからでも同じでしょう。

あるいは……。
亡くなったのではなく、生んですぐに子供のもとを離れた、離れざるを得な
かった女性かもしれません。もしかすると、女性は母親でなく恋人かも。

第二コーラスでもそうですが、この詩では、主人公の年齢が一定ではないこと
に気が付きますね。まぎれもなく視点は大人の男性です。したがって、赤ん坊
と母親なのでカモフラージュされていますが、サビの部分の表現は母性と性的
な願望が表裏一体となっていると思われる意味深な内容になっています。何度
もSay you willと繰り返す歌が妙に哀しいのは、切ない思いが詩にあふれて
いるだけでなく、メロディも長調で淡々としているからなおさらです。

間奏はアコースティックギターによるスライドギター奏法のソロ。

  When I was born?
  生まれた時に
  My mother died
  ママは死んじゃった
  She said, bye-bye, baby, bye bye
  「さよなら、坊や、さよなら」って言い残し
  And since that day
  その日から
  I've paid my way
  一人で生きてきた
  The notorious boy of the wild
  悪名高き野生の少年
  Adopted by the wolves
  狼に拾われた
  When he was a child.
  子供の頃に

  That's why God
  That's why God
  That's why God made the movies

突然オオカミ少年が出てきた理由はポールがこの歌をフランソワ・トリフォー
の「野生の少年」からヒントを得たからです。野生の少年はまさに生まれてす
ぐ母親から離ればなれになったわけですから。

スチール弦のギターとは違う音色が聞こえるので調べてみれば、ポールがナイ
ロン弦のギターで演奏してました。ナイロン弦とは昔風にいえばガットギ
ター、クラシックギターの弦です。柔らかな音が聞こえます。

地味ですが味わいの深いこの歌。私は秀作だと思っていますが、いかがでしょ
うか?


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