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「ソング・フォー・ジ・アスキング」 Song for the Asking

 三拍子のリズムにのり、オーボエの音色による前奏。ストリングスの伴奏も加わり静かにポールの歌声で始まる「ソング・フォー・ジ・アスキング」は、甘くせつない恋の歌。サウンド的にはずっと違和感を感じていたアルバム「明日に架ける橋」の最後の最後で、懐かしいS&Gの音が聞こえたことに、安堵を感じたファンも多いことでしょう。しかし、この歌にもアートの声はないようです。
 
 結局このアルバムでアートは「明日に架ける橋」と「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」位でしか前面に出ていないことが、今冷静に聞いてみるとよくわかるのです。コーラスでは一部参加していますが。
 
 「ソング・フォー・ジ・アスキング」は、ポールが妻ペギーに対する思いを歌った歌とされています。ペギーのためにお望みの歌を歌うという決意、つまり愛情を表現しています。
 
 ※最後となる迷訳は、またもやかなりの意訳です。

  Here is my song for the asking
  これが君に聞いて欲しい歌
  Ask me and I will play
  「歌って」と言ってほしいんだ
  So sweetly, I'll make you smile
  きっと君の素敵な笑顔が見られる
  This is my tune for the taking
  これが君のための、僕の調べ
  Take it, don't turn away
  受け止めて欲しい、目をそらさないで
  I've been waiting all my life
  これまでずっと待っていた
  Thinking it over, I've been sad
  考えているんだ、なぜ悲しかったんだろうか
  Thinking it over, I'd be more than glad
  考えるんだ、喜びからほど遠かった訳を
  To change my ways for the asking
  自分の生き方を変えるんだ、君のために
  Ask me and I will play
  「歌って」と言って、すぐに歌うから
  All the love that I hold inside
  これが僕の愛のすべて、ずっと心の中で暖めてきたもの
  
 この詩に対しコメントは必要ないでしょう、、、。
 「明日に架ける橋」もペギーに対する愛の歌でしたが、「ソング・フォー・ジ・アスキング」も相当熱烈な愛の歌ですね。彼女と出会い、悲しみから解放され、そして喜びを手に出来たというのですから。
 
 歌の真意とは別に、私はこの歌に、ポール・サイモンのサイモン&ガーファンクルというデュオ、そしてファンに対する別離の心が暗示されている気がします。彼には音楽がすべてでした。音楽でしか自己表現するしかないと考えていました。その良きパートナーだったアート・ガーファンクルも同じ気持ちだったはず。しかし、アートは音楽とは別に映画という新天地を見いだした。もちろんポールとのデュオとしての仕事もおろそかにしていたわけではありません。が、ポールにしてみれば、歯がゆかったわけです。「明日に架ける橋」というアルバムは、前から何度も繰り返しているように、表向きはポール、アート、そしてロイ・ハリーとの共同作業だったけれど、実質的にはポールとロイが主体となり作り上げたものです。
 
 「もう終わりだ、、」とポールがつぶやいたかはわかりません。でも彼の心にはそんな思いが少なからずあったはず。だから、彼はペギーに対する愛を表現するため書いたこの歌の根底に、同時にサイモン&ガーファンクルという愛するデュオ、もっといえばアートに対するパートナーとしての友情をも込めていたように思えるのです。取り残された寂しさ、かつて一心同体で歌っていた頃への思いなど、、。
 
 そして、ポールはこの最後の歌で、人々が望んでくれる歌を、彼ひとりでこれから歌っていくんだ、という決意を語っているのではないでしょうか。
 
 歌は二分にも満たない短い長さ。ギターの甘く悲しい調べ、感情を抑えた優しいポールの歌声。この歌の残す余韻の威力は計り知れません。
 
 お望みの歌を歌おうといっていたのに、サイモン&ガーファンクルは二度と私たちに新しい歌を歌ってはくれませんでした。確かに「マイ・リトル・タウン」で一度復活してくれはしましたが、あれはあくまでもソロ活動の中で意気投合し今風にいえばユニットを組んだに過ぎません。
 
 「ソング・フォー・ジ・アスキング」はアルバムの最終曲であり、同時に、サイモン&ガーファンクルという偉大なデュオを締めくくる歌だったのです。

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