Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.35  2003年8月2日(土)

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「ポール・サイモン・ソングブック」1965年(2) 

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1.「ポール・サイモン・ソングブック」1965年(2) 

このアルバムはポール・サイモンのオリジナル作品が彼自身の歌声だけで収録
されている貴重なレコードです。
何度も云いますが今ではもう手に入らない幻。その昔札幌のレコード店でこれ
を入手した私は本当にラッキーでした。私と同じ思いの方が本誌読者の中にも
おられるでしょう。

★レコードの概要

ところで私の手元のアルバムジャケットは、ヒットした「ボクサー」の日本版
シングルに使用されていたのと同じようなモノクロの写真が使われています。
髭を生やしたポール・サイモンがニコッと笑いこちらを見ています。裏面は遠
くを見つめるポール。タイトルはなんと"SIMON BEFORE GARFUNKEL
recorded in 1964"。ガーファンクルとデュオを組む前のサイモンという意
味なのでしょうが、皆さんご承知のとおり、これは間違いなんですね。まあス
トーリーをドラマチックにして販売戦略に役立てようというCBSソニーさん
の苦肉の策として笑ってあげましょう。

ジャケットを開けるとそこにはちゃんと(?)「ポール・サイモン・ソング
ブック」ってサブタイトルがついています。メインタイトルはあくまで
Simon Before Garfunkel(どでかい明朝系の文字)ですが、、、。

英国で発売になったものはジャケットにポールと恋人のキャシー(ケイシー)
が写っているという話は有名ですね。夕暮れの川岸で人形をいじっている二人
のショットです。若気のいたりとはいえ本当に大胆なことをしたもんですね、
サイモンも。日本版にもこの写真が使用されたものが存在するんでしょうか?

解説は田口隼彦氏。ジャケット見開きいっぱいに、このアルバムの概要、曲目
解説(ポールの詩や音楽を思想的観念で分析するシリアスなもの)が載ってい
ます。解説の最後に、CBSソニーに入れてくれって頼まれたであろう能書きが
添えてあります。
  (以下引用)
  なお、この「ポール・サイモン・ソング・ブック」は日本だけ特別にポー
  ル・サイモンが発売を許諾したもので、諸外国では発売されていません。

聞くところによると、ポールは後に日本でこのアルバムが販売されていること
を偶然知り、すぐさま販売停止を求めたといいます。ということはこのアルバ
ムに書いてある「許諾」って何だったのでしょう。代理人側は許可していて
も、ポール自身が知らなかっただけなのか、それとも??? 謎です。

日本語訳の歌詞はついていません。ジャケットとは別に、ジャケット大のシー
トが添付され、英語の歌詞とポール自身によるライナーノートがついていま
す。これライナーノートというよりポール作戯曲のようなもの。歌の解説なん
かしていません。書き残したものを通じた過去と現在の自分の対比に悩む葛藤
を表現したものです。最後に「僕はこの文を二度と読むことはない」と結んで
います。

この文を読むだけで、ポールがこのアルバム、場合によっては歌自体の存在を
も、過去の遺物のようなとらえかたをしていたことが想像できます。決して自
ら生み出した作品を否定するのではないのですが、世に出してしまえば、時と
共に確実に古びたものになり、創作者自体が誰なのかさえ本人も忘れてしまう
ような遠い存在になってしまう、そんな運命を強く感じているようです。これ
はポールの作品に対する考え方の基本であり何十年経った今でも変わっていな
いと思います。

★気になる収録曲は、、、

「アイ・アム・ア・ロック」
「木の葉は緑」
「教会は燃えている」
「4月になれば彼女は」
「サウンド・オブ・サイレンス」
「とても変わった人」
「私の兄弟」
「ケイシーの歌」
「ザ・サイド・オブ・ア・ヒル」
「簡単で散漫な演説」
「雨に負けぬ花」
「パターン」

どうですか?サイモンとガーファンクルの最初のアルバム3枚に収録された名
曲ばかり。「サウンド・オブ・サイレンス」と「私の兄弟」は「水曜日の朝午
前三時」に入っていました。他はS&Gのセカンドアルバム「サウンド・オ
ブ・サイレンス」三枚目の「パセリ・セージ・ローズマリー&タイム」に収
録。1964年の時点で彼は既にS&Gの楽曲の基礎を築いていたことがわかり
ます(もっとも当人は、S&Gとしてではなく、あくまで自分のソロの作品と
して書き連ねていたはずですが、、、)。「教会は燃えている」と「ザ・サイ
ド・オブ・ア・ヒル」だけは未収録で特別な位置づけです。

S&Gのアルバムで様々なアレンジがほどこされたこれらの名曲が、ポールの
ギターのみの弾き語りで聞けるのがこのアルバムの醍醐味です。アートのハー
モニーやソロがないとどんな風になるか、興味深いでしょう?という書き方は、
S&G側からの視点になりますね。ここに入った曲の演奏スタイルこそが、
本来オリジナルなわけです。間違えがえちゃいけませんな、ええ。

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「アイ・アム・ア・ロック」
この作品が第一曲というのも興味深いですね。「ザ・サウンド・オブ・サイレ
ンス」では終曲だったのに。ポールが実に丁寧に歌っています。そして対照的
に「アイ・アム・ア・ロック」の部分は力強い歌いぶりが効いています。また
ストロークでギターの倍音が冴えています。びんびん響いて居るんですから。

「木の葉は緑」
スリーフィンガーのお手本のような作品。みんなギターの練習の師匠と仰ぎ、
せっせと練習したことでしょう。淡々と歌う歌声、優しさに満ち溢れていま
す。

「教会は燃えている」
十二弦ギターのコードストロークによる伴奏。この歌はS&G公式アルバムに
は入っておらず「ライブ」版でのみ聞けるのですが、ポール自身による演奏は
パンチが効いていて素晴らしい出来です。

「4月になれば彼女は」
S&G版におけるこの歌はアートのソロでした。澄み切ったアートの歌声は自
然界での時の移り変わりをイメージさせるピュアな印象です。ここでのポール
自身の歌声は生々しく人間臭い雰囲気です。同じ歌でもソロが違うとこうも変
わるものなんですね。フィンガーピッキングはS&G版そのもの。

「サウンド・オブ・サイレンス」
ポールが足でリズムを取っている音が聞こえます。つぶやくように歌い始める
のが印象的。まさに暗闇君と語り合っているようで。特に" Fool, said I you
do not know!"で突然叫ぶのが驚きです。内容的にはまさにその場面ですし
ね。弾き語りだけでも、いや弾き語りだからこそ効果的にこの歌を演奏できる
です。誰かがこのアルバム版の「サウンド・オブ・サイレンス」こそがルーツ
だと語っていたけれど、わかる気がします。

「とても変わった人」
淡々としたアルバム版に比べこちらはじっくり歌っている印象。歌うと言うよ
りこちらも語りですね。歌詞の内容と共にリズムも微妙に変化。ガスに手をか
ける箇所ではフラメンコギターみたいに四本の指でタラランと弦を叩く奏法を
使いショッキングな効果を出します。まくし立てるような歌い方もいいし、こ
の歌がきわめて重い内容であることが伝わってくるのです。

「私の兄弟」
フィンガーピッキングとコードストロークを巧みに使い分けるポール独特の奏
法が光っています。親指のベース的な動きが見事!

「ケイシーの歌」
ポール最高のラブ・ソング。もう何のコメントも必要ないほどの素晴らしい演
奏です。23歳というある意味では血の燃えたぎる世代においてこんなに静かで
深く優しいラブソングが書けたのは奇跡としかいいようがありません。彼のそ
の後のラブソングの根底にも常にこの歌の醸し出す静けさと優しさがあります。
きわめてプライベートな歌にもかかわらず、人の心を揺り動かすのはなぜでし
ょうか。

「ザ・サイド・オブ・ヒル」
哀しい歌です。
丘のそばの「とある場所」での物語です。七歳の少年が丘で眠っている最中に
兵士の銃弾の犠牲になるのです。兵士は銃を磨いていたのですが、誤って発弾
してしまい、その先に少年が眠っていたのです(というような想定だと思われ
ます。詩から想像してみました)。無言の涙が墓を洗う。静かに泣く雲(群衆?)
将校は兵士に「殺せ」と命令する。兵士たちはとうの昔忘れてしまった目的の
ため戦っています。丘のそばでは、小さな雲が泣いている。
(※歌詞カードが破れてしまっていて正確でないため対訳は載せませんが、改
めて調べた上発表します。今回は要約でということで)

「なぜ戦うのか?」を既に忘れてしまった兵士が命令とはいえ人を殺し続ける
悲劇。戦争の中で死んでいった七歳の命の重み。40年経っても人間は同じ事を
繰り返しているようです。

この歌は静かな中にきらめくものがあります。ポールがこの歌自体の存在に封
印をしたのは残念なことです。ポールの公式サイトでも歌詞は載っていません。

どこかで聞いたような内容、とお感じの方もいますね。そう「スカボロ・フェ
ア」第二の歌の原型なんですね。

「簡単で散漫な演説」
S&G版はロック調にアレンジされてエレクトリック楽器の伴奏がにぎやかで
したが、こちらはアコースティックギターバージョンです。ジョーク、言葉遊
び、思想、文学、音楽など、何に影響を受けたか、つまり「かぶれた」か、と
にかく楽しい歌です。この歌も歌詞抜きの説明は全く意味をなしません。後日
改めてご紹介しますが、ひとつだけ。
歌の最後で friendly HAIKUという言葉が出てくるのですが、これは俳句のこ
とです。恋人のケイシーが寡黙な女性だったので、彼女=HAIKUと言い表した
という説もあるのです(俳句は限られた語数で心情を表す日本の詩だとケイシ
ーからポールが教わったようです)。歌詞では
 When in London do as I do,
 Find yourself a friendly HAIKU
となっています。ロンドンで優しい俳句(ケイシー)に出会い、自分を見つけ
られた(歌の中では「君も見つけな」という口調です)というような意味でし
ょうが、ジョークに、こういう意味深で大事なことをさりげなく盛り込むのは、
言葉の魔術師ポールならではです。

「雨に負けぬ花」
アルバム「パセリ・セージ・ローズマリー&タイム」収録の傑作であるこの歌
が既に64年の時点で完成していたんですね。S&G版では十二弦ギターによる
コードストロークが新鮮なサウンドを聞かせてくれましたが、「ソングブック」
ではフィンガーピッキングです。アートのハーモニーがないと寂しくも感じま
すが、逆にこの歌の底に流れている一抹の孤独感、そして生きていく勇気の両
面が浮き彫りにされ、心に強く訴えます。

「パターン」
これも「パセリ〜」収録の作品。変則チューニングがカッコイイ秀作です。こ
のアルバムで既に完成されている作品。演奏も完璧です。S&G版のように、
装飾もないし、ポールの地がそのまま出ていて、いい味が出ています。この
曲をアルバム最後に置いた、その意味は?なんだったんでしょうね。興味深い
です。

★弾き語りはアート(芸術)だ!

「ポール・サイモン・ソングブック」はS&Gの楽曲のルーツという意味合い
だけのアルバムではありません。「弾き語り」という演奏手法がひとつのアー
ト(芸術)なのだということを実証してくれています。

たくさんのシンガーたちが弾き語りをしました。レコードもたくさん出しまし
た。でも、ポールの場合はレベルが違うのです。ヴォーカル、ギター、その微
妙な呼吸、秀逸な詩と音楽、どれも一級品です。まさに「ワンマンバンド」と
して完結しているといっても過言ではありません。ポールの歌とギター以外の
ものは何も必要がないのです。これはすごいことです。

主な理由を三点あげましょう。

第一に歌ですね。常にアートと比べられることの多いポールの歌についての評
価が、熱烈なポールのファン以外からは驚くほど低いのが残念でなりません。
確かに美声というわけではありませんし、音程もたまに狂うことがある。時に
だみ声に近い声の出し方をすることもあります(表現上のテクニックでしょう
が)。でも微妙な言葉のニュアンスを表現する力は抜群です。このアルバムに
おける「とても変わった人」「サウンド・オブ・サイレンス」「私の兄弟」な
どは特に素晴らしい。また、アートが高音を担当するので、ポールの高音を聞
くチャンスはめったにありませんが、「私の兄弟」のクライマックスでの高音
は素晴らしい。これ、本当にポール?って疑ってしまうほどです。

第二に「完成された歌」の数々。ヴァラエティに富んだ楽曲。スローでじっく
り聞かせる歌があれば、力強いパンチの効いた歌、優しい歌、ユーモラスな
歌。シリアスな歌。わずか12曲の中に様々な世界と色合いを作ります。

第三に、これは言い古された言葉かもしれませんが触れないわけにはいきませ
ん「秀逸なギターテクニック」。右手でフィンガーピッキング、コードスト
ロークなどの基本テクニックを駆使し、フレット上を自由自在に動き回る左手
の四本の指。アコースティック・ギターがいかに表現力に富む楽器であり、美
しい音を出すかを充分満喫させてくれます。

埋もれてしまったこのアルバムは弾き語りをアートにのし上げた、ロック史
上、いえ、音楽史上の、隠れた金字塔といっても大袈裟ではないでしょう。

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「ポール・サイモン・ソングブック」は手に入りませんが、その演奏ぶりの
イメージにほぼ似たライヴコンサートがS&Gの「ライヴ・フロム・ニューヨ
ーク・シティ」です。ギター一本で歌うサイモンとガーファンクルの秀逸なコ
ンサート模様が楽しめます。「教会は燃えている」も入っています。
こちらでどうぞ↓
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