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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.29  2003年6月7日(土)

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「ある人の人生」 Some Folks Lives Roll Easy
            アルバム 「時の流れに」第7曲 1975年

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このタイトルは深いですね…。
まず歌の基本となるfolksという言葉に興味を覚えました。peopleでもよさそ
うなものですが、あえてfolksとしたポールの意図が興味深い。

前奏なしでいきなり始まるこの歌。歌詞の通り風のような曲調で、三拍子がと
っても心地よいです。エレクトリックギター、エレクトリックピアノ、ベース、
ドラムの基本編成に加わるサックスが渋い!この伴奏というか演奏の絶品なこ
とと、ポールの静かなボーカルもしみじみとしています。

  Some Folks Lives Roll Easy(順風な人生を送る人々もいる)
               Lyrics by Paul Simon(迷訳:musiker)

  Some folks lives roll easy as a breeze
  そよ風のように順風に人生を送る人もいる
  Drifting through a summer night
  夏の夜、風に乗り
  Heading for a sunny day
  行く先は光溢れる日
  But most folks lives
  でも人は皆
  They stumble, Lord
  つまずきながら生き
  They fall through no fault of their own
  自分の過ちでもないのに墜ちていく
  Most folks never catch their stars
  星を手に入れることなどない

summer nightの部分の下降する半音階はシビレます!stumbleのあたりでド
ラムがロールするのはrollという言葉に合わせたのか、それとも人生へのつま
づきを象徴するのか、色々想像するのも楽しいです。

夏の夜、海で舟が静かに行く光景を思い浮かべます。いかにも順風な人生を楽
しむ金持ちって感じでしょうか。でもそんな人はほんの一握り。ほとんどの人
間がでこぼこ道を歩いている。ポールの視点は常にこういう普通の人に対する
優しいものなのです。しかも自分の過ちでもないのに知らないうちに墜ちてい
くという理不尽な境遇の哀れさ。あきらめですか?

スティーブ・ガッドのドラムはまさにこの曲の要です。派手ではありませんが、
シンバルとタムタムなどの使い方のうまさが断然光ります。伴奏にはサックス
が効果的に加わってきます。ギター流れるような音色も。

  And here I am, Lord
  神よ、今僕はやってきました
  I'm knocking at your place of business
  こうしてあなたの門を叩いています
  I know I ain't got no business here
  ここにいるのが場違いないのはわかっています
  But you said if I ever got so low
  でもあなたは、もし僕が墜ち
  I was busted
  打ちのめされた時に
  You could be trusted
  「私を信じよ」といいましたよね

ここで間奏。ストリングスとサックスも加わります。記録を読むとホーンとス
トリングスの編曲がポール・サイモンとなっていることに気が付きます。確か
ポールはS&G以後オーケストレーションの勉強もしたといいます。そんな成
果がこの曲で現れているんですね。ギター、ベース、ドラムのコンビネーショ
ンも抜群です。

間奏の後再び2コーラス(神の箇所)が繰り返されますが、今度はポールの一
人コーラス。一度目一人の時は、神に対しすこしためらいがちに語る口調でし
たが、この二度目では強く問いかけるような雰囲気に変わります。問いかけを
象徴するようにサックスがユニゾンでアクセントを奏で、はっとさせらます。

ここから次第に曲はクライマックスへ向け高揚していきます。ゆっくりとでは
ありますが、聞いていて気持ちが知らないうちに高ぶります。ここからの歌は
ほとんど叫びでしょう!

  Some folks lives roll easy
  順風に人生を送る人々はわずか
  Some folks lives never roll at all
  そんな人生とは無縁の人々も、、
  They just fall, they just fall,
  墜ちるだけ、ただ墜ちるだけ
  Some folks lives
  (それでも生きていく…)

just fallには主人公のあきらめであり、また運命を受け入れる気持ちの両方が
こめられています。叫び声に近いクライマックス、ポールはが渾身の力を込め
るthey just fallの部分は、何度聞いても血が騒ぐのを止められません。そし
て、その後 and just fall(と私には聞こえる、、)のファルセットの優しさ、
コントラスト。後奏が終わっても不思議な余韻を残します…。

地味な歌なので、つい聞き流してしまいがち。現に私もいつもさりげなく聞い
てきました。でも今回何度も繰り返し注意深く聞いてみると、ジャズの香りも
する演奏やアレンジも抜群。ポールのボーカルの素晴らしさも再認識できます。
またこの詩は考えさせられますね。どこか哀しげで、でも底にとてつもなくた
くましい人間の魂(少しおおげさ?)が感じられるのです。

本当にいい歌。土曜の夜、憩いのひとときにいかがですか?


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