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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
Vol.36 2003年8月12日(火)
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スリップ・スライディン・アウェイ Slip Slidin' Away
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アルバム「時の流れに(Still Crazy After All These Years)」発表後、1977
年久々にシングル発売されたのがこの作品。CBSソニーから発売となったポール
のグレイテストヒットのトップにも収録された曲です。
この歌はまたもや意味深です。タイトル"Slip Slidin' Away" だけでいろんな
ことを想像します。slipもslideも滑るという意味。splip awayにはこっそり
出るとか静かに立ち去るという意味があるようです。81年のセントラルパーク・
コンサートのCDについている日本語訳では「そおっと出ていく」となってい
ます。でも、どうもぴたりとフィットしていない気がするので私は「滑り流さ
れる」と表現することにします。
滑って不安定な道のり、思うようにならない人生、こんなはずじゃなかったと
いう悔い、自分がコントロールできない苛立ち、あきらめ。それをポールは、
恋、結婚、離婚した親の愛と、オムニバスのように描きます。
のどかな前奏、コードストロークはひかえめ、ベースとドラムが良く聞こえま
す。バックに男声によるコーラスが入っています。
Slip Slidin' Away
CHORUS:
Slip slidin away
滑り流れていく
Slip slidin away
滑り流れていく
You know the nearer your destination
目的地に近づけば近づくほど
The more you're slip slidin away
また滑って流されていく
このコーラス部分は、何度も繰り返されます。切ないです。目的地が見えてい
るのに、横へ流れていってしまうんですから。
コーラスに挟まるのは三つのストーリー。
I know a man
ある男
He came from my home town
俺の同郷の男さ
He wore his passion for his woman
女に入れ込みすぎてくたくた
Like a thorny crown
茨の王冠のような女でね
He said Delores
奴はいう、ダローリス
I live in fear
俺は恐いよ
My love for you's so overpowering
お前への愛がこんなに膨らんでいく
I'm afraid that I will disappear
自分が消えてなくなっちまうような気がして、、
恋人に狂った男の哀しいお話ですね。我をも忘れるほどのべた惚れ状態のよう
です。愛情が深いのは微笑ましいし羨ましい限りですが、彼自身は、こんなは
ずじゃなかった、と戸惑っているようです。恋人があまりに愛しすぎて、自分
を見失ってしまっているんですね。
CHORUS
I?now a woman
女がいた
Became a wife
僕の妻になった女さ
These are the very words she uses
彼女がよく使った言葉があって
To describe her life
彼女の人生観を言い表すのにぴったりの言葉さ
She said a good day
晴れの日が最高
Ain't got no rain
雨なんか降らない日が
She said a bad day's when I lie in bed
最悪なのは、僕がベッドで寝ている日
And think of things that might have been
空想にふける日だっていうのさ
ここの部分正直言ってよくわからなかったのですが、どうも、ポール自身が、
結婚生活に対する失望を歌っているような気がして、きわめてプライベートな
モノローグ風に仕上げてみましたがいかがでしょう。愛し合って結婚したのに、
生活を送ると次第に、細かい点の相性が合わなくなる悲劇を含んでいます。物
思いにふける癖のある内向的人間にとって、天真爛漫すぎる異性は時には一緒
にいることさえも苦痛になりかねませんからね。もちろんケースバイケースで
すが。
CHORUS
And I know a father
ある父親の話
Who had a son
彼には一人息子がいる
He longed to tell him all the reasons
長い間彼は息子に訳を説明したかった
For the things he'd done
自分がしたことの理由を
He came a long way
父ははるか遠くからやって来た
Just to explain
説明するために、ただ
He kissed his boy as he lay sleeping
父親は眠りについた息子にキスをし
Then he turned around and headed home again
振りむいて、再び家に帰っていった
さて三番の歌詞はさらにポールのプライベートな気持ちを投影しています。
ある父親とは自分のことです。一人息子とは別れた妻との間に生まれたハーパ
ーでしょう。彼は二人が別れた理由を自分の口から説明しなければならないと
ずっと思い悩んできたのだと思います。そして遠いところからわざわざ息子に
会いに来た。やっと説明ができました。しかし彼の心には一抹の虚しさのよう
な思いが残ります。帰宅途中、彼の心はどこへいっていたことでしょう。自分
の意志に従い、目的を果たしたのに、どこか行き場のない気持ちがあたりをさ
まよっているようです。
この部分のポールの歌い方はそれまでの2コーラスとは全く違って熱唱ぎみで
す。理由はわかりますね。
CHORUS
そして、第四コーラスで、ポールは決定的な言葉を贈ります。
God only knows
神だけが知っている
God makes his plan
すべては神の意のまま
The information's unavailable
知らせは無用
To the mortal man
死ぬ運命にある人間には
We work our jobs
俺たちは自分の役割のため働き
Collect our pay
金を得る
Believe we're gliding down the highway
信じるんだよ、ハイウエイをまっしぐら滑空しているって
When in fact we're slip slidin away
滑り流されているようでも実際には
God only knowsでは、オクターブ下の音でボーカルに緊張感を出しています。
神の声のような演出でしょうか。
再びこの歌でも神が登場します。
いくらさまよい続けても、それが決められたレールであると。すべて神が決め
た運命なんだというのです。その訳が人間に知らせる必要はない、なぜなら、
人間はやがて死に行く運命だから。日々の暮らしすべてはまっすぐにその運命
のハイウェイを突き進んでいるだけなのさ、といいたげに。
終始軽いタッチの歌声とバックの演奏、しかし内容はやはりポールらしい、ひ
と癖もふた癖もある詩でした。メジャーの曲が、エンディングではマイナーに
転じるのが印象的です。
この歌は「シャイニング・ライク・ア・ナショナル・ギター」他のポール・サ
イモンのベストヒット版に収録されています。
Shining Like A National Guiter
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005HH02/musiker21-22
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