updated on 20 SEP 2004

シューマン 「ピアノ五重奏曲」変ホ長調 作品44

★苦難を乗り越えた結婚、そして数々の傑作の誕生

自分のピアノの先生の娘と恋に陥る、、、。別に悪いことをしているわけではないから問題はなさそうだが、シューマンの場合、敬愛する先生から大反対されてしまう。かつては自分の家に居候させた位シューマンを気に入っていたはずのヴィーク先生は彼のどこが気に入らなかったのだろう?
天才ピアニストの娘クララが可愛いくて仕方がなかったのはもちろんだが、きっとこう感じたからに違いない。「この男と結婚さすれば、娘は必ず不幸になる」
シューマンは生涯で何度か自殺を試みている(最初は23歳の時)。精神分裂症、躁鬱病など、彼の病名については色々な説があるのだが、才能があったにもかかわらず作曲をはじめとする活動に波があるのもそのせいかもしれない。ヴィーク先生はシューマンを居候させた時代に、今風にいえば「アブナイ男」、と予感したのかもしれない、、、。
先生の妨害はすさまじかった。両者何年もの争いの後、最後は裁判で決着をつけてシューマンとクララは1840年にめでたく結婚する。先生は床に崩れ落ち、両手で床を叩きながら悔しがったかもしれない、、。
でもふたりは幸せだった。とりわけシューマンは人生で最も至福の時を過ごしただろう。その証拠に結婚以後数年は彼の多作期が訪れる。自ら「歌の年」と命名した1840年、1841年は「管弦楽の年」、そして1842年は「室内楽の年」。
彼の室内楽曲の中で特に傑作として名高い「ピアノ五重奏曲」(作品44)はこの時期に生まれた。

★音の厚み、ピアノと弦楽四重奏の絶妙なコンビネーション

まず音の厚みに驚かされる。弦楽四重奏とピアノが奏でる音である。厚みがあるのは当たり前だ。それが半端ではないのだ。第一楽章の冒頭、全部の楽器が一斉に奏でる音楽はまるでファンファーレのよう。ピアノ、高音と低音の楽器の音色がまさにぴったりと息をあわせて高らかに歌っている。
その後すぐに、ロマンチックなメロディがピアノ先導で進む。控えめ弦の併奏も美しい。静かな曲想になった時のチェロのソロ、、、、哀愁を帯びていてシビレルのだ。もちろんその時に他の弦楽器やピアノが全く目立たないけれど、要所要所でいい音を出してくる。聞いていて耳を常に暖かくしてくれるのである。絶妙なコンビネーションとはこのこと。
音色を堪能し、躍動的な曲想に心奪われあっという間に終わる第一楽章。続く第二楽章はこれまた叙情的な楽章なのだ。解説等では葬送行進曲風と書いてあるものもあるが、そういうイメージは私の場合全く感じられれない。むしろ心の葛藤を音楽で表現しているのでは、と想像しながら聞いている。重苦しいイメージと対照的に安らぎ溢れる曲想もあるが、それは心の葛藤の中、なんとかして光を探し続けているような気がしてならない。中間部は静かな嵐のよう。
まるで音階練習か?という第一印象の第三楽章は、それこそ息をつく間もない活発で力がみなぎる曲だ。楽器が奏でるメロディは音を順に上下しているだけのようなのだが、その組み合わせで見事な和音になっているのだ。シューマンの豊穣なアイデアが光っている。後半から少し民族音楽的なメロディに転化していくのも興味深い。楽章の終わりはまさにクライマックスのよう。第三楽章を終章にしてもおかしくないくらい、充実した音楽である。(私のお気に入りであるアルバン・ベルク四重奏団のカーネギーホールでのライブでは思わずここで拍手が起こる!)
終わったかと思う第三楽章の後、唐突に現れる第四楽章。これは第三楽章の後半以上に民族色溢れている。もちろんこの作品の根底に流れるメインのメロディが骨格になって音楽は造られているけれど、民族色を添えることにより、より親しみやすくなっている。途中の弦楽器とピアノ低音部との会話も楽しい。第三楽章までで終わった後、この楽章をアンコール曲のように聞いている私は、変わり者かもしれないけれど、あの興奮もののアンコール演奏の雰囲気がこの第四楽章では味わえるのだから嬉しい。特に終盤で第一楽章のメロディをもとに全部の楽器で繰り広げられるフーガは本当に圧巻!

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この五重奏曲を聞くと「力がみなぎって」来る。この二日間こちらは大雪で、あっという間に真っ白な冬の景色となった。雪のしんしんと降る中、路面を覆う雪に足をとられながらジリジリと歩き進む。ふつうならうんざりするはずだった。でも、この美しく力強いピアノと弦楽の音楽が耳から注入されていたせいだろう気持ちが萎えることなく、ただひたすら前に進めた。雪の白さ冷たさを顔で感じた。心地よかった。美しい音楽に力をもらうなんて、ちょっと嬉しいな。

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【私の聞いたCD】
TOCE-7229
シューマン ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44
モーツァルト 弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調 K.465「不協和音」
アルバン・ベルク四重奏団
フィリッップ・アントルモン(ピアノ)
1985年3月11日 カーネギー・ホール(ニュー・ヨーク) ※ライブ録音
この演奏はライブ録音ですが、スタジオ録音にはない臨場感にあふれ、もちろん演奏も最高です。聞けば聞くほど興奮してきます、感動します!

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