ライヴ・フロム・ニューヨーク・シティ 1967
盛大な拍手で二人は登場。
拍手に重なるように、ギターの前奏が始まります。
『私の兄弟』。アルバムと全く同じストロークで、嬉しくなります。ライブですから、レコード以上に表情豊かな歌いぶり。少しラフな箇所もありますけれど、それがまたいいです。
Tears can't bring him back to me
ピアニッシモでかみしめるように歌い、そして
He was my brother
の部分では二人で、まさに絶叫するように歌い上げる。
アートが、「ワオ! カーネギーホールだ」と静かに語ります。この偉大なホールに立っていることに放心状態、、、的な演出か?会場には笑いが。
アートが自分の名前の変遷を説明するという少々くどい自己紹介(これも、ジョークだろう)に続き、ポールの紹介。そして『木の葉は緑』。
ギター伴奏のところどころにmajor7の和音が加えられている点が、レコード
と違い新鮮だ。
ポールがさらりと語る
「何の関連性もありませんが、次は『すずめ』です。」
まさか、この歌をライブで聞けるとは思わなかったですね。感無量です。見事なギタープレイが楽しめる伴奏。特にベースがわりの親指の動きに注目。
すぐに『早く家に帰りたい』前奏が始まるとすぐに大拍手。しみじみとしたハーモニーだ。
ポールが、また短く「ほとんど完成しているんだけれど、、、」と語り、始まる『君の可愛い嘘』。レコード版のサビの部分はまだできていないようだ。
サイモン&ガーファンクルはここまで曲間の語りをごく最小限として、一気に歌い続けている。
少しだけチューニングをしながら、ポールがやや長めに語るのは『とても変わった人』を作った時のこと
「この歌はロンドンに住んでいた頃に書きました。歌の種が蒔かれた(歌のアイデア)きっかけは、ロンドン新聞に載っていたある男性の自殺についての記事でした。わずか四行の記述です。死についての知らせにしては気の毒な追悼文だと感じました、四行ですよ。題名は『とても変わった人』です。」
「四行」と二度繰り返すあたりにポールのショックぶりが伝わります。歌の内容がしんみりしているだけに、シンプルなギターのアルペジオと、二人のユニゾン、ハーモニーがいっそう効果的。淡々と歌は進むが、男がガス元栓を開けて眠りにつき、死のうとするあたりの描写では突然激しい歌いぶりになりハッとさせられる。しかし再び淡々とした様子になり歌は終わる。ポールが最後ギターの一音のみでしめくくったのが強く印象に残る。
割れんばかりの拍手!
『五十九番街橋の歌(フィーリング・グルーヴィー)』
お互いに顔を見合わせて笑いながら歌っている様子が聞きながら伝わってきて微笑ましい。
アートが「これは書くのも録音にも長い時間をかけ、また最もお気に入りの歌です。」と語り続くのは『夢の中の世界』。時間をかけた曲だけあり、手慣れた歌いぶり。またこの歌のハーモニー進行の素晴らしさを改めて知らせてくれる。途中ギター伴奏が乱れる箇所があるのはご愛敬。
再びアートが「二枚目のアルバム「サウンド・オブ・サイレンス」からの歌で、ずいぶん昔のE.A.ロビンソンの詩、僕も中学時代に勉強した詩を脚色したものです。詩の題名は『リチャード・コリー』。」アートが語る間に、ポールは変則チューニングの準備をするのが聞こえる。かなり表情豊かで言葉をていねいに扱い、そして感情をこめて歌っている。
拍手が終わると、すぐにギター前奏が。『冬の散歩道』だ。ビートの利いたドラムやオーケストラの伴奏がつかないこの歌もまたいい。
この歌もライブで聞けるとは思っても見なかった『ベネディクトゥス』。ギターとデュオのシンプルな構成に最も相応しい、また名曲である。コメントなど何も必要はない、美しい。
次は三枚組「旧友」にも収録されている三曲が続く。
変則チューニングが栄える『ブレスト』。アルバムではどちらかというと、聞くのをパスした曲も、こうしてライブで聞くと、味があっていいものだ。
『地下鉄の壁の詩』この歌の前にアートの長いコメントがある。「旧友」をお持ちでない方のために短く紹介する。第一作アルバム「水曜日の朝、午前三時」のジャケット用写真を撮影した時のエピソード。地下鉄の駅にたたずむ二人のショットのために五百枚もの写真を撮影をした。ジェームズ・ディーン調の満足のいくショットをとりたかったのだが、完成した写真を見ると地下鉄の壁の落書きが写っている。それはニューヨークの落書きライターたちが書く古典的ともいえるもの(?)、四文字言葉だった。ブロック体の文字で、しかも美しいイラスト入りで(何でしょうね??ご想像下さい)。二人はこの落書きがバックに写っている写真をぜひ使いたい、これこそ、僕らのアルバムジャケットに相応しいと、コロンビア・レコードに主張したが、却下されてしまった(アートの話に聴衆が爆笑するタイミングが、おもしろい。ポールが横で、そんな話忘れろよ!とつぶやくのも楽しい)。、、という話。
この話に続き、ポールがこの時の出来事をモチーフに二年後書いた歌が、『地下鉄の壁の詩』と紹介する。
ポールのギター・ソロで『アンジー』。続いて『アイ・アム・ア・ロック』。
このあたりでコンサートはクライマックスを迎える。
お馴染みの前奏に続き『サウンド・オブ・サイレンス』。「水曜日の朝、午前三時」に入ったオリジナルヴァージョンの歌声、しみじみとしてくる。サイモン&ガーファンクルの原点だ。
やはり割れんばかりの拍手!会場から女の子たちが何か叫んでいる。騒がしくてよく聞き取れないが、ポールがそれに対し
「あなたはまだ子供でしょう、(略。CD解説には「そんな大声を出さない
の」とあるが意味がいまひとつわからない。) ヘイ・スクール・ガール!誰がそんなこと言ったの?」
『エミリー・エミリー』こちらは「グレイテスト・ヒット」収録版とは違いテンポも雰囲気もレコード版に近い。
『教会は燃えている』、ポールが「ポール・サイモン・ソング・ブック」に収録しただけで、S&Gとしてはリリースされていない作品だ。
これでコンサートは終わりなのか?拍手が止むと会場はまた騒がしくなる。
「静かにしてくれないか!」というポールの一喝で会場はまた爆笑。アートも横で笑っている。静まった会場を前に、ポールが得意げに「フム、、」。会場とのこうした対話がとっても楽しい。
ポールの「あ、僕のソロかと思った」というジョークの後、最後の曲は、『水曜日の朝、午前三時』。コンサートの最後にこの歌を持ってきたことに感動する。
歌が終わり、ギターが続くが、歌の後奏フィンガーピッキングに混じり、なぜかアメリカの民謡を弾く。どうやって弾いているのか?気が付いた会場からもちろん笑いが、、。
全部で60分弱のコンサート。編集のせいもあるだろうが、曲間のテンポがよく、しゃべりも程良い長さで、飽きさせない。CDだが、まるで私たちも一緒にカーネギー・ホールにいるみたいに、聴衆と一緒に楽しめる。
黒一色のCDジャケットには、S&Gが歌うショット(横から)、開演前の会場(ステージの後ろに椅子が設けられそこにも聴衆が埋まっている。客席、そしてステージ後方の聴衆の間にマイクが3本(1本はギター用)、椅子が二脚)、バックからの2人のショット、会場上から見下ろしたショットが掲載されている。解説(北中正和氏)、英文解説(アントニー・デカーティス、対訳:内田久美子氏)、英文歌詞、歌詞和訳(曲間の語りも含む)がまとめられた小冊子。盛りだくさんだ。
(※この文は、メールマガジンall simon and garfunkel Vol-41に掲載したものと同一です。)
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