Rene And Georgette Margritte With Their Dog After The War
戦争が終わり…、犬を連れたルネとジョルジェット・マグリットは
アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」第8曲
アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」の中でもひときわ目立つ歌。
それがこれです。
Rene and Georgette Magritte With their dog after the war
長いタイトルです。日本語に訳す必要などないけど、しいて記載すると「戦争が終わり、犬を連れたルネとジョルジェット・マグリットは…」となるでしょう。
ルネ・マグリットとはベルギー生まれの画家。ジョルジェットは妻です。
※このサイトにマグリットの略歴が載っています。そこに掲載されているジョルジェットの写真を見た第一印象。美人だ……、とオヤジ的感想です。スミマセン
ポールは、一枚の写真にインスパイアされ、この歌を書いたといいます。
マグリットの人生のどこに触発されて創った歌なのか、詳細はわかりません。
詩に歌われた内容と二人の実の人生がどう重なるかも定かではない。けれど、とても心にしみるドラマになっていて、感動させられるのです。ゆったりしたワルツのリズムにのって歌われるメロディに言いようのない暖かみを感じませんか。
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このアルバムが、サイモンとガーファンクルのアルバムとして発表されるという情報が飛び交い、ポールはアートとのデュオを意識していくつかの曲を書いたといわれています。そういう計画があったと、ファンたちが信じる端的な歌がこの歌であると、もっぱらの評判です。
問題の箇所はサビ。Side by side They fell asleepの部分。確かに、ポールの通常の歌にしては高音であり、アートの歌声にぴったり、といえなくもありません。けれど、実際ポールがアートの声を意識して書いたかはわかりませんし、なにしろポールは次作曲については本当に寡黙で、ほとんど情報を与えて
くれませんから。でも、こういうミステリアスな点が、また、彼の魅力なのでしょう。
前奏なしにいきなり始まる歌。
ホテルの部屋に戻るふたり。映画のシーンをイメージさせる演出で始まります。
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Rene And Georgette Margritte With Their Dog After The War
戦争が終わり…、犬を連れたルネとジョルジェット・マグリットは
Copyright:1981 Paul Simon 迷訳:musiker
Rene and Georgette Magritte
戦争が終わり
With their dog after the war
犬を連れたルネとジョルジェット・マグリット
Returned to their hotel suite
ホテルのスィートに戻り
And they unlocked the door
部屋のドアを開ける
Easily losing their evening clothes
夜会服をするりと脱いだふたりは
They danced by the light of the moon
月明りの中で踊りはじめた
ギターとベースだけのシンプルだけど印象的な伴奏。バックに聞こえるエレクトリックギターのちょっと電気ちっくなアルペジが効いています。ホテルの部屋に入るやいなや、二人服を脱ぎ、ヌードで踊るなんて、少しゾクゾクする表現ですが、むしろ二人の愛情の深さが、静かに伝わってくるではありませんか。
何かのイベントか、会合か、それともパーティの後でしょうか。いずれにして
も数日前に戦争が終わったのは確実です。戦争が終わった、言葉で言い尽くせ
ない喜びが、月明かりの中でのダンスに象徴されています。BGMは?二人が
大好きで、ずっと聞けなかった音楽。現代、私たちがオールデイズと呼んでい
る音楽でした。
To The Penguins
ザ・ペンギンズ
The Moonglows
ザ・ムーングロウズ
The Orioles
ザ・オリオールズ
And The Five Satins
ファイヴ・サターンズ
The deep forbidden music
禁じられていた音楽
They've been longing for
恋い焦がれた音楽
Rene and Georgette Magritte
With their dog after the war
四つのバンドの演奏をイメージさせるため、バックコーラスが聞こえます。こ
の部分AMラジオっぽくて趣がありますね。禁じられた音楽を数年ぶりに、躊
躇なく聞ける喜び。我々が想像するのは不可能かもしれません。二人は、恋い
焦がれた音楽を聞き、涙を流したに違いありません、きっと。
四つのグループの名前が、以後歌詞の要となり、繰り返されます(あ、もちろ
ん、タイトルが歌詞として、全コーラス最初と終わり必ず入ってきます)。毎
回、意味合いは少し違うので、聴きながら想像するとよいでしょう。第一コー
ラスはもちろん「禁じられた音楽」の象徴。
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Rene and Georgette Magritte
With their dog after the war
戦争が終わり
犬を連れたルネとジョルジェット・マグリット
Were strolling down Christopher Street
クリストファー通りをぶらぶらと歩く
When they stopped in a men's store
ふと立ち止まった紳士服店で
With all the mannequins
Dressed in the style
お洒落に着飾ったマネキンを見ると
That brought tears to their
Immigrant eyes
移民の二人の目から
なぜか涙がこぼれ落ちてきた
たぶん紳士服店には、前からマネキンがあったはずです。
しかし、戦争中は、お洒落どころではなく、誰もそれを気に留める心の余裕な
んかなかったはず。二人の目から涙がこぼれ落ちたのは、誰に遠慮することも
なく、これからはお洒落に気を配れる、そういう普通な生活が戻ってきたこと
、そういう平和な世界が訪れたことへの安堵感によるものでしょう。
Just like The Penguins
まるで、ザ・ペンギンズや
The Moonglows
ザ・ムーングロウズ
The Orioles
ザ・オリオールズ
And The Five Satins
ファイヴ・サターンズの音楽のように
The easy stream of laughter
のんびりとした笑い声があたりを流れ
Flowing through the air
ふわふわと浮かんでいる
Rene and Georgette Magritte
With their dog apres la guerre
第二コーラスでは、バンド名は「街角に聞こえる自由に満ちた笑い声」を象徴
します。街の人々すべてが喜びを分かち合っている様子がよくわかる歌詞です。
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Side by side
They fell asleep
ふたりは並んで眠りについた
Decades gliding by like Indians
インディアンのように過去っていった歳月
Time is cheap
時はなんてはかないのか
When they wake up they will find
やがて、目を覚ませば、
All their personal belongings
いつしかふたりの人生は
Have intertwined
すべてがひとつになっていた
ベッドでいつしか眠りについた二人は、夢の中で、それまでの、それぞれの人
生を走馬燈のように観ます。たぶんわずか数十分の短い眠り。しかし、数十年
もの時が流れたような気がするでしょう。時が短いとはよく言われますが、ま
さにその通り。ここでポールは'short'ではなく'cheap'と、やや投げやりな言
葉を使いました。時が決して「とるに足らない」ものではないだけに、逆に過
ぎ去った時間がいかに貴重なものだったか、を際だたせています。
足早に過ぎ去った年月は、二人が特に意識していたわけではなく、自然に絆を
強めていました。苦しみも楽しみもすべてを分かち合ってきた、ということで
しょうか。
問題の(笑)高音メロディはさてどうでしょうか?
アートの歌声をあなたは想像できますか。デュオのハーモニーが聞こえますか?
いや、こんなずるい問いはやめましょう。
私はポールの声だけのままがいいと思っています。この歌は、ポールのぬくも
りのある歌声で聴きたいのです。
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Rene and Georgette Magritte
With their dog after the war
Were dining with the power elite
パワーエリートたちとの会食の最中に
And they looked in their bedroom drawer
やつらはふたりの寝室の箪笥を調べ上げた
And what do you think
ふたりが隠していたもの
They have hidden away
それが何かわかるかい?
In the cabinet cold of their hearts?
寒々とした心のキャビネットにしまったものは
さて、ここからは言い訳に終始します。この部分の状況がどうもわかりません。
パワーエリートたちとの会食は良いとしましょう。マグリット夫妻はそれなり
にもてなしをうけていたとして、さて、彼らの寝室を調べ上げたのは、誰のこ
となのか?そこがわからないのです。スパイ映画や政治がらみのサスペンスド
ラマなら、食事中に、手下たちが部屋を調べ上げる、なーんてシーンを思い浮
かべます。
でも、ポールの歌ですからね。そんな小細工をするのかな〜?と迷い迷い続け
ました。ここはサラリと流すのが無難ですが、それでは公式訳と同じになる。
ということで、えいやっ!とサスペンスドラマ調に仕上げました。
ここでは、二人が何か重要物(エリートたちの政治生命を危うくする何か)を
部屋に隠しているという情報を得た、エリートが、手を回し隠密者を送り、部
屋をあら探しした、という想定です(考えすぎかな?←どこかで聞いたことの
あるフレーズですね 笑…)。しかし、何も見つからなかった。
ザ・ペンギンズ
The Moonglows
ザ・ムーングロウズ
The Orioles
ザ・オリオールズ
And The Five Satins
ファイヴ・サターンズ(の音楽)
そう、二人は確かに隠したものがあったが、それは寝室のたんすにではなく、
寒々とした心の奥底のキャビネット。なんとそれは「禁じられた音楽の思い出
と憧れ」だった、というストーリーです。
音楽を聴けぬやるせない想い、音楽を聴ける自由への憧れ、そして音楽への恋。
For now and ever after
今も、そして未来も
As it was before
ふたりは、これまでのように、生きていく
Rene and Georgette Magritte
With their dog
After the war
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アルバム中、この曲が最もお気に入りというファンも世界には大勢いそうです。
何度聴いても、また聴きたくなる。心が温かくなる歌とはまさにこれ。
傑作をB面のちょうど真ん中に配置したポールの絶妙な構成力にも脱帽です。
素晴らしい愛の歌が終わると、いよいよアルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」
も佳境に入っていきます。
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