Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.26  2003年5月17日(土)

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「恋人と別れる50の方法 Fifty Ways To Leave Your Lover」
            アルバム 「時の流れに」第4曲 1975年

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ポール・サイモンの作品は個性的なものばかりですが、一風変わった題名と、
スティーヴ・ガッドの見事なドラムが曲全体に流れている、摩訶不思議な雰囲
気たっぷりのこの歌。特に題名が興味をそそられませんか?出会いがあれば別
離も必ずやってくる。人類永遠のテーマのひとつ。

ワンパターンのドラムの繰り返し。エレクトリックギターの乾いた音色と相ま
って妙に寂しい幕開けを前奏から演出しています。このコード進行のやるせな
さ、、、。

ポールの詩にしては珍しく女性の語りです。

  50 Ways To Leave Your Lover

  The problem is all inside your head
  問題は貴方の頭の中にあるのよ
  She said to me
  彼女が僕にいう
  The answer is easy if you
  簡単な答えよ
  Take it logically
  理論的に考えてみれば
  I'd like to help you in your struggle?
  もがき苦しむあなたを
  To be free
  助けてあげたいと思っているの
  There must be fifty ways
  恋人と別れる方法は
  To leave your lover
  50の方法があるの

どんな場面設定なんだろう?と考えてみます。
ある男がいて、彼は恋人と別れたいと思っている。でもどうしたらいいのか、
わからず迷い悩み苦しんでいる。それを見ているのは恋人とは別の女性のよう
です。そうか、、。こういうシチュエーションってよくあるパターンかもしれ
ません。

何気ないコード進行ですが普通のメジャーやマイナーのコードではなく、6th
やー9、dimなどが必ず入る一筋縄ではいかないサウンド。ドラムパターンにの
って淡々と進む伴奏、メロディラインも決して複雑ではないのですが、ポール
の巧みな語り口調が詩と見事にフィットし聞いていて爽やかです。

ポールは歌を作る際、イマジネーションにあわせてまずコード進行をあれこれ
試し、メロディラインを決める。そしてメロディが決まった後、詩を書いてい
くパターンが多いと語っています。実に意外に思いました。詩とメロディが一
体となっている歌が多いからです。でも時には曲と詩が一度に思い浮かぶこと
もあるらしいです。この「50の〜」は朝シャワーを浴びている時に頭に浮かん
できたということですが、その時にはきっとメロディも同時に生まれたはずだ、
と私は勝手に信じています。

  She said it's really not my habit?
  To intrude
  でしゃばるのはいやだし
  Furthermore, I hope my meaning
  あなたを迷わせたり
  Won't be lost or misconstrued
  誤解させたくはない
  But I'll repeat myself
  でももう一度いうわ
  At the risk of being crude
  遠慮ない云い方になるけど
  There must be fifty ways
  恋人と別れるための
  To leave your lover
  50の方法
  Fifty ways to leave your lover
  恋人と別れる50の方法

相手を気遣っているんですね、彼女はきっと。それに心の思うまま、歯に衣
着せぬ云い方をすることを少しためらっている。でも、そうしないと男は目
が醒めないから、自分を飾らずに直言するんです。

それまでポールの語り口調が主導でジャズ的なコード進行だった歌が、中間部
ではロックンロールあるいはブルース調のコード展開になります。女性のコー
ラスも加わりノリのよい曲調、体が思わず動きます。

  CHORUS:
  You just slip out the back, Jack
  こっそり出ていくのよ、ジャック
  Make a new plan, Stan
  新しいプランをたてなさい、スタン
  You don't need to be coy, Roy
  恥ずかしがらなくていいの、ロイ
  Just get yourself free
  ただ、自由になるの
  Hop on the bus, Gus
  バスに飛び乗りなさいよ、ガス
  You don't need to discuss much
  話し合いはほどほどにするべきね
  Just drop off the key, Lee
  鍵を捨てなさいよ、リー
  And get yourself free
  そして自由になりなさいって

歌詞が妙に調子いいのは、もちろん語尾の発音。
back, Jack
plan, Stan
coy, Roy
bus, Gus
key, Lee
キーワードと男の名前を巧みに合わせています。いわゆる言葉遊びですね。

ポールはこの種の言葉(韻)遊びが好きでよく息子と遊んでいました。それは
息子に大受け、ポールがそれを始めるとハーパーはいつも笑い転げていたそう
です。

いやあ、こういう展開になると、迷訳をつけるのが本当に邪道にさえ思えてき
ます。訳(というより英語の詩をもとにしたmusikerの全く勝手な創作のつも
りですが、、、)はあくまで歌の内容と雰囲気を伝えるため、毎回記述してい
るものの、特に今回の場合は日本語にしてしまえば元もこもありません。

  She said it grieves me so
  こんな痛みでうちひしがれている
  To see you in such pain
  あなたを見ているのはつらい
  I wish there was something I could do
  何か私にできることはない?
  To make you smile again
  また微笑んでほしいのよ
  I said I appreciate that
  ・・・ありがとう、、、
  And would you please explain
  だったら、ぜひ教えてくれないかい?
  About the fifty ways
  その50の方法ってやつ

優しい言葉ですね。男の方は恋人と別れるための方法を教えてくれるという申
し出に少し戸惑いながら、彼女の言葉を聞き入ります。長く話をした後なので
しょうか、一晩寝て考えることにします。

  She said why don't we both
  ねえ、このことは
  Just sleep on it tonight
  一晩寝て考えることにしない?
  And I believe in the morning
  朝になればきっと
  You'll begin to see the light
  光も見えてくるから
  And then she kissed me?
  そして彼女は僕にキスをした
  And I realized she probably was right
  きっと君の言うとおりだろう
  There must be fifty ways
  50の方法があるはずさ
  To leave your lover
  恋人と別れる方法
  Fifty ways to leave your lover
  恋人と別れるための50の方法

  CHORUS

ポール・サイモンはこの音楽を、リズム・エースというドラムマシーンを使っ
て書きました。このマシンを使うと緊張感がありややぎこちなくもあるリズム
が作られます。同じパターンのリズムが曲中ずっと繰り返され、最後は徐々に
消えていきます。まるで行進が遠ざかるようなイメージを思い浮かべます。

ヴィクトリア・キングストンは著書の中でこう語ります。
  まるで人間関係が遠くへ行進して去っていくようで、どきっとさせられる。
  ドラムの音がなくなった瞬間の静けさは、人間関係の消滅(死)を感じる。
  恋人との関係が荒涼とした砂漠のようになってしまった時の(心の)静寂
  感のように、、、。

最初、恋人とは別の女性と書きました。それは別の女友達だろうと勝手に解釈
ていたのですが、主人公の男性のよき相談相手でたとえば叔母さんや姉さんか
もしれません。いえ、実はこの女性が恋人その人なのかもしれないとも思えます。
どんな登場人物かは、あなたのイマジネーションで自由に設定してください。

アルバム「時の流れに/Still Crazy After All These Years」の中で主題曲
に勝るとも劣らぬこの歌の存在感は並々ならぬ物があります。とことん個性的
な歌を投入してくるポール・サイモンのこのアルバムは、聞き手に常に新しい
提案をしていて、本当にハラハラさせられますね。中でもこの歌は、曲、伴奏、
詩、いずれも申しぶんのない、傑作といえるでしょう。ポール・サイモンの歌
の中で、私としては間違いなくベスト10に入れたい曲です。みなさんはいかが
でしょうか?


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