Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.24  2003年5月5日(月)

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「マイ・リトル・タウン My Little Town」
            アルバム 「時の流れに」第2曲 1975年

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1973年発表になったアート初のソロ・アルバム「天使の歌声 Angel Clare」
には時のシンガー・ソングライターの最新作やトラディッショナルな名曲、ハ
イチの民謡、バッハの旋律を元にした作品などが収められており、アートのヴ
ォーカルが光る秀作です。特にランディー・ニューマンが書いた「老人 Old
Man」は静かな曲調の中にも力がみなぎる傑作で、アートの歌声がその作品の魅
力になお一層輝きを与えています。このアルバムに残念ながらポールの作品は
入っていないのですがアルバム裏に記載の参加ミュージシャン・リストの中
(しかもメインではなく「その他」のミュージシャンの欄)のギター担当の最
後にPaul Simonの名があるのです。

このようにソロ活動後もサイモンとガーファンクルの二人はかつての親友とし
ての交友は続いていました。共同作業はしなくなりましたがお互いの音楽は意
識し合っていたのでしょう。

アートがセカンドアルバム「愛への旅立ち Break Away」を録音していた同じ
時期、ポールは「時の流れに Still Crazy After All These Years」を録音し
ており、別々のスタジオではありましたが二人は同じ建物の中でそれぞれの仕
事に励んでいました。

1975年、そんな事は知らない一般ファンが「あっ」と驚く作品がシングルでリ
リースされました。

題名は「マイ・リトル・タウン My Little Town」、しかもサイモン&ガーフ
ァンクルの作品として発表されたのです(正確にはポールとアートそれぞれの
シングルヴァージョンがありB面は各々の作品が納められているようです。
※日本版がどうであったかについては私の手元にはシングル盤レコードが残っ
ていないため不明)。

元々これはポール自らの意志でアートのために書いた作品です。
「マイ・リトル・タウン My Little Town」についてポールはこんな風に
語っています。

  この歌は僕が彼にプレゼントするつもりで作ったんだ。アートにはこう
  言ったんだ、、
  「君の取りあげる歌は良い歌なんだけど、甘めの歌が多いね。それが
   ちょっと不満なんだなぁ。少し毒気のある歌を書くから君のアルバム
   用にプレゼントさせてくれ」

アートはたぶん嬉しかったと想像するのですが、少しクールなコメントを残し
ています。
  「提案を受け入れよう。ちょうど次のアルバムには色々な形式の歌を取り
   あげようとしているところだ。きっとポールの歌が最も僕の興味深いも
   のになるさ、、」

ポールはアートに歌を教えます。その過程でアートはこう考えるのです。中間
部分はハーモニーにする方が効果的だと。それはまさにかつてのS&Gのサウ
ンドにぴったり。まるでポールと一緒に歌っていた時の感覚みたい、、、だと。

こうして「マイ・リトル・タウン My Little Town」は久々のサイモン&ガー
ファンクルの作品として世に出ることになります。

歌は二人のアルバムにそれぞれ収録されます。アートの「愛への旅立ち 
Break Away」ではB面の第1曲目(CDでは7曲目)に、ポールの「時の流
れに Still Crazy After All These Years」では第2曲目に。同じ歌がそ
れぞれのソロアルバムに収録という珍しいスタイルに、ファンは驚きました
が、ポールとアート二人のアーチストが各々特徴あるアルバムを楽しみ、しか
も一曲のみとはいえS&G再結成という出来事に感無量だったのです。

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以下は前のメールマガジンall simon and garfunkelの文面をもとに加筆した
たものです。内容が重複する部分もありますので以前の読者の皆様はご了承く
ださい。
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ところがサイモン&ガーファンクルの歌というのに、聞こえてきた曲は、全く
想像を超えた別のサウンドでした。ピアノ低音部をまるで打楽器のように使用
した印象的なイントロが力強いです。アコースティックギターのストロークは
入り、厚みのある二人の声が聞こえてきます。

  In my little town
  僕の小さな街で
  I grew up believing
  ずっとこう信じて成長した
  God keeps His eye on us all
  人は神様に見守られていると
  (※見張られている?という意味もこめているとも思える、、、)
  And He used to lean upon me
  でも時々神様は圧迫してくる
  As I pledged allegiance to the wall
  壁に向かい忠誠を誓うとき、そう感じた
  Lord I recall
  神よ、僕は思い起こす
  My little town
  あの小さな街を
  
  Coming home after school
  放課後家に向かう
  Flying my bike past the gates
  自転車をすっ飛ばし
  Of the factories
  いくつもの工場の門を走り抜けて
  My mom doing the laundry
  ママは洗濯中で
  Hanging our shirts
  僕らのシャツを
  In the dirty breeze
  薄汚い風の中になびかせていた

God keeps His eye on us allの箇所でハーモニーが聞こえ、特に感動したこと
を覚えています。それにしてもいきなりフェイントともいえるコード進行。
印象的な転調に続き、to the wallで、最初のコードに戻るあたりで妙な安心感
を覚えます。

ところが Coming home after school では今度は変則リズムです。
こういう音楽展開をポールは以前決してしなかった。明らかにソロ活動以後の
ポール・サイモンの味が出ていると、わずかここまでの展開でわかるのです。

僕らのシャツを汚い風(dirty breeze)にママが干していたという光景は、映
画のようです。またこの箇所のハーモニーの美しさはさすがサイモン&ガーフ
ァンクルですね。納得し感激したものです。次のフレーズも虹が見えるようで
す。イマジネーションの箇所の三拍子も、曲に変化を与え新鮮な感じがします。

  And after it rains
  雨上がり
  There's a rainbow
  虹が見えた
  And all of the colors are black
  でも色はみな真っ黒
  It's not that the colors are'nt there
  色がなかったわけじゃない
  It's just imagination they lack
  ただ想像力が欠けていただけさ
  Everything's the same
  何も変わっていない
  Back in my little town
  僕の小さな街

虹が黒く見えた。しかもそれはイマジネーションの欠如とは、よほど空が汚か
ったのか、それとも主人公の心に色というものがなかったのか。いずれにして
も考えさせられる表現ではありませんか。

  Nothing but the dead and dying
  死人と死にかけの人しかいない
  In my little town
  僕の街には
  死人と死にかけの人しかいない
  僕の街には

そして歌のサビ、というかこの歌の主題といってもよい次の箇所の意味。重い
意味です。死人と死にかけの人間しかいない町。世界のどこかにはこんな町が
まだ多く存在するでしょう。一方実際の生死の意味ではなくとも、死というも
のを、別の事柄に置き換えて見てみると、考えさせられます。二人の歌いぶり
も、より一層力が込められています。

主人公は栄光を夢見て成長していきます。おそらく彼はこの町を出て、人生を
送っているのでしょう。彼は自分の故郷に戻ってきて、懐かしさと共に、何も
変わっていない絶望感という、ふたつの気持ちが交差します。そして、少年時
代の思いを、再び思い起こしているのです。

  In my litle town
  僕のいた小さな街では
  I never meant nothin
  I was just my father's son
  僕は単に親父の息子という以上の存在じゃなかった
  Saving my money
  お金を貯めながら
  Dreaming of glory
  将来の栄光を夢見て
  Twitching like a finger
  On the trigger of a gun
  銃の引き金にかけた指のように
  ぴくぴくと震えていたんだ
  
この箇所は哀しい。ハーモニーが美しいだけになおさらその哀しさが強調され
ています。しかしSaving my money Dreaming of gloryの部分のやるせなさは
力となって Twitching like a finger On the trigger of a gunという夢へ
と進むのです。少年の希望はどこへ向かっていったのか?ターゲットめがけて
走り続けられたのでしょうか。

今も変わらない故郷にうんざりしながらも、何も変わっちゃいない故郷に安堵
する複雑な気持ちは、最後のフレーズにこめられているような気がします。

  Leaving nothing but the dead and dying
  死人と死にかけの人しかいないまま
  Back in my little town
  僕の町はあの頃と同じ


抑圧され一歩間違えば爆発しかねない少年時代の精神状態、そして将来への不
安と希望、郷愁、母への愛など、さまざまな要素を短い言葉を使って、巧みに
表現するポールの詩。この歌こそサイモン&ガーファンクルで歌うべきだと判
断し提案したアートの優れた洞察力。ダイナミックなメロディとアレンジによ
る重厚なサウンド。そして忘れてならない二人の絶妙なハーモニーとヴォーカ
ル。

「マイ・リトル・タウン My Little Town」はサイモン&ガーファンクルとい
枠を超え、ポール・サイモンとアート・ガーファンクルという二人のアーチス
トの優れた共同作業によるまさに傑作ではないでしょうか。


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