Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

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Vol.21  2003年4月12日(土)

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母からの愛のように Loves Me Like A Rock

  アルバム「ひとりごと」 There Goes Rhymin' Simon 第10曲

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  Loves Me Like A Rock 岩を愛するように

  When I was a little boy
  僕がちっちゃな男の子の時のことだけど
  (When I was just a boy)
  And the devil would call my name?
  悪魔がやって来て、僕の名を呼んだような
  (When I was just a boy)
  I'd say "now who do...........
  え? だ、誰?
  (Who?)
  Who do you think you're fooling?
  からかわないでくれよ

  I'm a consecrated boy
  僕は聖なる男の子
  (I'm a consecrated boy)
  I'm a singer in a Sunday choir
  日曜日の聖歌隊のメンバーだからさ
  My mama loves me, she loves me
  ママは可愛がってくれる、本当にね
  She gets down on her knees and hugs me
  ひざまづいてぐっと抱きしめ
  She loves me like a rock
  まるで岩みたいに愛してくれるんだ
  She rocks me like the rock of ages
  千歳の岩(キリスト)のように勇気を与え
  And she loves me
  猛烈に愛してくれる
  She loves me, loves me, loves me, loves me
  そりゃたっぷりと

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音楽開始前に聞こえる短い会話は"groove"という単語がわかるものの、どん
なことを言っているかはわかりませんが、「じゃあ、そんな調子で、よろし
く!」ってな感じでしょうか。Dixie Hummungbirdsのハーモニーがいきな
り聞こえ、「ジャン、ジャン、ジャジャジャジャ」という調子の良いアコース
ティックギターの伴奏の前奏。ポールの"When I was a little boy"で口火を
切ると応えるようにコーラスが"When I was just a boy"。曲調は典型的な
アップテンポのロックバラード。あるいはゴスペルというのか、ステージ上で
右側にポールが立ち、その左側にハミングバーズのメンバーが並んでいる様子
が目に浮かぶ、いや〜、なんとも楽しい歌ではありませんか。

ちょうど今ゲーテ『ファウスト』で格闘中なところ、、ポールのこのアルバム
最後を飾るこの歌でもデビル(悪魔)が出てくることが可笑しくて一人笑って
います。(※「クラシック音楽夜話」で三週連続で取りあげているマーラー
「交響曲第八番」第二部で『ファウスト』終幕のテキストが使用されており、
先週からこの本をずっと読んでいるんです)

悪魔は歌の主人公が子供の頃から大人になっても時折現れるようです。純情な
男の子、あるいは青年になって正しい道(?)を進む彼の耳元で「悪魔のささ
やき」をするのです。

主人公が「悪魔のささやき」にのってもいいかな?と心奪われるその瞬間、必
ずママが現れる。とにかく強烈に猛烈な愛情で、主人公を煙に巻きこっちの世
界へ戻してくれる。理屈も何もあったもんじゃない。けど誰もが母親の理屈で
はない「深いその愛情」の中に人間は皆生きているはずです。

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今度は青年になった主人公のお話、、、。

  When I was grown to be a man
  大人になってからも
  (Grown to be a man)
  And the devil would call my name?
  悪魔がまた僕の名を呼ぶ
  (Grown to be a man)
  I'd say "now who do........
  え、またかい?
  (Who?)
  Who do you think you're fooling?
  いったい誰がからかっているんだい?
  (Who do you think you're fooling?)

  I'm a consummated man
  もう僕はれっきとした男
  I can snatch a little purity
  ちょっとした悪さもできる歳になった
  My mama loves me, she loves me
  でもママは愛してくれる
  She gets down on her knees and hugs me
  (こっちがこんな歳になっても)ひざまづいてぐっと抱きしめ
  She loves me like a rock
  まるで岩みたいに愛してくれるんだ
  She rocks me like the rock of ages
  千歳の岩(キリスト)のように勇気を与え
  And she loves me
  猛烈に愛してくれる
  She loves me, loves me, loves me, loves me
  そりゃたっぷりと
  
大人になれば、少年時代のように純粋無垢のままでいられるはずはない。やろ
うと思えば誰だって大小はともかく悪事は働けるし、そういう願望もある。で
もほとんどの人がそんな側面などおくびにも出しません('I can snatch a
little purity'の部分の迷訳ですが、最初もう少しストレートな表現にしたの
ですが、歌の雰囲気をぶちこわすためやめました)。こういう人の悪魔的な心
情を消し去ってくれる、それが母の愛なのかもしれません。大人になっても
「ぐっと抱きしめ」て、なんて、アメリカ映画によく出てくるモーレツお母さ
ん(すごい巨体でねぇ)を想像します。日本の母親だって負けてはいませんが
少し控えめ。とにかく母親の愛は万国共通で本当に暖かいものです。

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さて、歌の場面設定は思わぬ展開となり、今度は大統領になった主人公。ここ
はポール自身も語っている通り当時の大統領ニクソン氏を皮肉っています。

偉業を果たした大統領も、悪政を働いた大統領でも、ママはママなんですがね。

  If I was President
  もし僕が大統領だとして
  (Was the President)
  And the Congress called my name
  議会が僕の名を呼ぶんだ
  (Was the President)
  I'd say "who do..........
  え?
  (Who?)
  Who do you think you're fooling?
  誰だい?僕をからかうのは?
  (Who do you think you're fooling?)
  I've got the Presidential Seal
  大統領の印の使用も自由自在
  I've up on the Presidential Podium
  演壇で演説をぶちかませるのさ
  My mama loves me, she loves me
  それでもママは愛してくれる
  ひざまづいてぐっと抱きしめ
  強烈に愛してくれるんだ
  岩のように
  勇気を与え
  相変わらずずっと
  そしてきっと永遠に

  Copyright:1973 Paul Simon

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なお、迷訳では、Rock=岩と解釈していますが、音楽のロック、キリストの象
徴の意味でのロックなど、色々な意味が込められているような気がします。
※私は最初は「ロック好きのお母さん」だと思っていました、ははは。

あと、大切なことは、この歌の歌詞はあくまでジョークであること。あまりシ
リアスに分析するのはかえってポールの策略(?)にはまってしまいます。で
すから今回の迷訳はちょっとおふざけ(いつもじゃない?)の表現にしてみ
ましたが、いかがですか?

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歌や音楽について余計なコメントは必要ないでしょう。ポールのソロと対にな
り聞こえるコーラスの心地よさ。手拍子も楽しいし、もちろんポールのギ
ター、マッスル・ショールズのミュージシャンによるベースとドラムの見事な
調和。ヴォーカルとコーラス(たぶんギターも)を最初に録音し、ベースとド
ラムは後からの重ね録音ということですがぴたりと呼吸が合っていますね。

「母からの愛のように Loves Me Like A Rock」という明るく楽しく、そし
て暖かくて心うつ作品をアルバムの終曲にもってきたポールの心意気。広い意
味での人間の「愛」といういうものを感じそして考えるチャンスを与えてくれ
ているようです。

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これまで10回にわたって各曲を語ってきたとおり、アルバム「ひとりごと」
There Goes Rhymin' Simon の底抜けに明るい雰囲気は、発売以後30年も
経過しているのに、今の時代にもぴたりとはまっています。10曲すべてが、
我々をワクワク、ドキドキ、そしてニッコリさせてくれる曲ばかりです。

また、これまで全く語らなかったジャケットのデザインについてひとこと。

もしお持ちでしたらお手元のCDジャケットをご覧下さい。あ、アナログLP
レコードの方は大きく更に楽しめますね。

ポールのどアップの顔写真だけによるシンプルで暖かい「ポール・サイモン」
と全く違ったイメージです。十代の時のポールの写真、アメリカを象徴するア
イテム、マルディ・グラのお祭りの仮装行列、天井と床の関係を表すイメー
ジ、大きな靴というか、包帯にくるまれた足、七つの石、オレンジと黄色の
円、めくられた壁紙、疑心暗鬼の目、そして子供を抱くポール。このジャケッ
トだけでも楽しいではありませんか。こんな楽しくて奇抜なデザインを考えた
Milton Glaser氏に敬服します。

また歌詞カード部に挿入されているミュージシャンたちの写真も、アルバムの
音楽スタッフの多彩さを象徴し、いい味が出ていますね。こんな素晴らしい
ミュージシャンたちと楽しい仕事ができたポールは本当に幸せだったでしょ
う。そして彼らの音楽が聞けた私たちも!

もしまだこのアルバムを聞いたことのない方がいらっしゃいましたら、いつか
ぜひ聞いてみて下さい。ポール・サイモン「ポール・サイモン」そして、この
「ひとりごと」。永久の友のように、これからもずっと聞き続けたい宝物がふ
たつも手にはいった私たちは本当に幸せものですね!


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