Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

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Vol.17  2003年3月15日(土)

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アメリカの歌 American Tune

  アルバム「ひとりごと」 There Goes Rhymin' Simon 第6曲

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米国では第二国歌ともいわれているそうな「アメリカの歌」。メインメロディ
はバッハの「マタイ受難曲」の中の楽曲(原曲はバッハ自身の作曲ではないよ
うです)のメロディを使用しています。

アコースティックギターとベースというこのアルバムにしては実にシンプルな
伴奏で始まります。

  American Tune

  Many's the time I've been mistaken
  数え切れない過ちを犯し
  And many times confused
  何度も何度も途方に暮れた
  Yes, and often felt forsaken
  やめてしまおうって、思うことは日常茶飯事
  And certainly misused
  たぶんとんでもない事もしでかしているさ
  But I'm all right, I'm all right
  でもいいんだ、まあいいんだ
  I'm just weary to my bones
  骨の髄まで疲れ果てたよ
  Still, you don't expect to be
  それでも君はまだ夢見ているのかい
  Bright and bon vivant
  明るいナイスな人物になろうなんて所詮無理さ
  So far away from home, so far away from home
  こんなに家から遠く離れてしまったんだから

、、、。
アメリカのことを歌う前向きな内容かと想像していただけに、このウルトラ後
ろ向きな詩に唖然とします。人間ですから間違いも犯すし、何をするにも迷い、
やめたい、やめたい、と考えているのは誰も同じ。歌のメロディはたいへん美
しく澄み切っています。でも、どこか悲しげなのは、原曲が短調のせいかもし
れません。ポールは長調のコード進行で歌をすすめましたが、many times
confusedのあたりはマイナーな雰囲気が残っていますから、どこか哀愁を帯び
た感があります。伴奏には第一コーラス途中からキーボードが加わります。

  And I don't know a soul who's not been battered
  打ちのめされたことのない魂なんてあるのかい
  I don't have a friend who feels at ease
  気のおけない友などこの世にいるのか
  I don't know a dream that's not been shattered
  Or driven to its knees
  夢は必ずうち砕かれ、人は夢の前で挫折する
  But it's all right, it's all right
  でも、まあいいさ
  We've lived so well so long
  僕らはこんなに長い間なんとかやってきた
  Still, when I think of the road
  We're traveling on
  旅先で道を選ぶ時に
  I wonder what went wrong
  どっちが正しい道かと考えたところで
  I can't help it, I wonder what went wrong
  結局はどうにもならないんだ

静かなドラムが加わり伴奏はやや賑やかになってきます。でも歌の内容はます
ます深刻になります。このままだと夢も希望もない歌です。ここでは打ちのめ
され続けた魂と気を許すことのできない友のいない悲しい主人公がいます。夢
に対してもきわめて懐疑的。

でも、これまでもこうやって生きてきた。これからだって生きられる、生きて
いこう、という決意のようなものをも感じさせられます。自分が選んだ道を、
後になってから変えることはできない。でも、選ぶ時にそれが正しい道かどう
かなんて誰もわからない。つまり自分を信じ、後悔せずに歩くしかないという、
あきらめと覚悟が表裏一体になった気持ちが入り乱れているようです。

歌がサビの部分にさしかかろうというのに、ここまできてもまだアメリカとい
う言葉は出てきません。本当にこれはアメリカの歌なのか?

サビではさらにストリングスが加わります。

  And I dreamed I was dying
  死の淵にいる夢を見た
  And I dreamed that my soul rose unexpectedly
  魂が突然宙に浮かび上がり
  And looking back down at me
  その魂は僕を見おろしている
  Smiled reassuringly
  「元気だせよ」といいたげに微笑んだ
  And I dreamed I was flying
  空を飛ぶ夢を見た
  And high above my eyes could clearly see
  空高く、僕の目にはっきりと見えたのは
  The Statue of Liberty
  自由の女神像
  Sailing away to sea
  遠い海の彼方へ向かっている
  And I dreamed I was flying
  僕は空を飛んでいた

サビの部分は「マタイ受難曲」のメロディではなくポールの作によるものでし
ょう。イマジネーション豊かなこの歌詞に不思議な気持ちにさせられます。
主人公の魂は天井から主人公を見下ろし勇気づけているのです。空を飛ぶ夢に
出てくるのがクリアな自由の女神像。アメリカの象徴ともいえるその女神像が
遠い海へ向かうというのは不思議な描写です。この点疑問なのですが、『'The
Biography-Simon & Garfunkel' by Victoria Kingston/サイモン&ガーフ
ァンクル伝記(ヴィクトリア・キングストン著・日本未刊行)』にも次のよう
な記述があります。

  自由の女神像は海で出航する。人々とかつての理想を見捨て、、。

歌は最初個人的な夢への絶望を歌います。次に友たちとその夢。そして、ここ
でアメリカという国の夢へと広がっていきます。しかし、夢は個人の夢と同じ
ように決して希望に満ち溢れているわけではない。それはなぜか?自由の女神
が象徴する「自由の精神」を受け継ぎ生きてきたアメリカ人を見捨てて旅立つ
というシーンは何を意味するのでしょうか?

理解が難しいサビの歌詞に続き、再びメインメロディに戻ってきた時、アメリ
カの歌ということばがようやく登場するのです。

  We come on the ship they call the Mayflower
  僕らはメイフラワーという名の船に乗り
  We come on the ship that sailed the moon
  僕らは月へ向かう船に乗り
  We come in the ages most uncertain hour
  僕らは不確実な時の流れる時代へとやってきた
  And sing an American tune
  そして、アメリカの歌を歌っている
  But it's all right, it's all right
  でもいいんだ、まあいい
  You can't be forever blessed
  いつまでも讃えられ続けるはずがない
  Still, tomorrow's going to be another working day
  また明日の仕事が待っている
  And I'm trying to get some rest
  だから少し眠らなければならない
  That's all I'm trying to get some rest
  今は眠るだけさ

不確実な時の流れる時代でもやはり「アメリカの歌」を歌う。「アメリカの歌」
とはアメリカの精神のようなもの。それはかつてフロンティアスピリッツ(開
拓者精神)と呼ばれていたものかもしれません。

ポール・サイモンはこの歌に込めた願いとは、かつてのように夢がすべて実現
するアメリカではなく、マイナス要因を抱えたアメリカに対する、ささやかな
警告ではありませんか。いつまでも「アメリカの歌」をばかのひとつ覚えのよ
うに歌っていられる時代ではない。再び原点に戻るべきだと。

テーマが広がってきたところで、ポールは水をかけるように、全く個人的なモ
ノローグに戻してしまいます。「明日は仕事があるから、この辺で、おやすみ
なさい」というわけです。ポールらしいエンディングですね。

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ポール・サイモンは「アメリカの歌」でアメリカを讃えているわけではなく、
逆に夢が失われた悲しい国と見ています。こういう内容にもかかわらず、第二
国歌的な扱われ方をされ、1986年「自由の女神像100周年記念式典」でもこ
の歌が流されたのは、やはり米国人の心に強く訴えるものがあるのでしょう。
歌は「ダメだ、ダメだ」という絶望に終わらずに「希望を持て!」と勇気づけ
る役割、そして自らの襟元をただせという忠告の意味も備えているからでしょ
う。誰もがポール・サイモンの作品の中で最高傑作のひとつとして疑わないこ
の歌。今宵再び、静かにしみじみと聞いてみてください。


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