━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Vol.16 2003年3月8日(土)
−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
お前の床は俺の天井 One Man's Ceiling Is Another Man's Floor
アルバム「ひとりごと」 There Goes Rhymin' Simon 第5曲
−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
やさしげな歌の次には今度はワイルドな雰囲気のこの曲。コーラスも入り、マ
ッスル・ショールズのミュージシャンたちの秀逸なバック。スローだけれど、
ビートの効いたOne Man's Ceiling Is Another Man's Floorです。
ドシラソファミレド〜。
前奏部ピアノのメロディの基準がこのウルトラ単純な音階によるのも驚き。カ
ッコイイピアノのアドリブも入るのが憎いですよね!この前奏だけで充分楽し
めます。うんざりするように歌い始めるポールの歌声は、、。
お前の床は俺の天井
One Man's Ceiling Is Another Man's Floor
There's been some hard feelings here
まったく気分が悪いぜ
About some words that were said
ここで飛び交う言葉のことさ
There's been some hard feelings here
本当にうんざりだ
And what is more
それに話はまだあるんだよ
There's been a bloody purple nose
紫色に染まった鼻血面
And some bloody purple clothes
血染めの服がさ
That were messing up the lobby floor
ロビーじゅうに散らばっているんだぜ
It's just apartment house rules
いいか、アパートでの常識くらい覚えておけよ
So all you 'artment fools
愚かな隣人たちよ
Remember: one man's ceiling
お前さんにとってそこが床でも
Is another man's floor
他人の天井でもあるってな
Remember: one man's ceiling
もう一度いうぜ
Is another man's floor
お前の床は俺の天井
すさんだ雰囲気のニューヨークのアパートの光景が目にうかびます。暴力が日
常的に起こる場所で住む人のつぶやきとでもいいましょうか、この住人は心で
怒っているものの、それを外に向けて発することなんかできません。そうすれ
ば何をされるかわからないからです。1970年代のニューヨークは既にこれだ
け荒廃していたわけで、本当に怖い場所だな、と感じます。
曲は常にスローなロックンロールのリズムとコード進行、メロディ。ポールの
歌にしてはかなり異色の部類ではないでしょうか。バックバンドの演奏も見事。
ピアノやエレクトリックギターがいい味を出していますね。
There's been some strange goin's on
見たこともない奴らが入ってくるかと思えば
And some folks have come and gone
顔見知りも行き交う
And the elevator man don't work no more
エレベータ係は開店休業
I heard a racket in the hall
ホールで騒いでいる音が聞こえるかと思えば
And I thought I heard a fall
誰か倒れたような音も聞こえる
But I never opened up my door
でも俺は絶対ドアを開けない
It's just apartment house sense
それがアパートに住む心得
It's like apartment rents
それがアパートの住人ってものさ
Remember: one man's ceiling
お前の床は
Is another man's floor
俺の天井だってこと
Remember: one man's ceiling
覚えておけよ
Is another man's floor
お前の床は他人の天井だってことをさ
エレベータが開店休業ということは、エレベータという個室が危険きわまりな
いことを意味します。ここでは部屋の中だけが危険から守られる聖域。だから
外で何が起こっていようと、誰も見知らぬ顔をして関わろうとはしません。
考えてみれば日本だって少しづつこんな傾向にありますね。暴力に溢れた状況
でないにせよ、この頃の国内で起こる事件は、きわめて密室的です。昔なら考
えられないほど人間関係が希薄になってきています。
ポールはこの歌に、ニューヨークでの生活は疑心暗鬼との共存であると、皮肉
な思いをこめています。皮肉にしては妙にリアルで、血に染まった衣類が散在
する光景など、目に浮かぶようです。人によってはこの歌は駄作とするらしい
けれど、それは過小評価すぎるという人もいるのが興味深いですね。
また、天井と床ですから、表と裏の関係。どんな物事にも表と裏があります。
この歌の奥底には、物事の表と裏について良く考え直してみよというメッセー
ジもあるような気がしませんか。自分のことになると、人間ある意味では他の
ことが目に入りません。自分の行動が人に与える影響。自分がよかれと思って
いることも、他人には迷惑なことだってある。
And there's an alley
小道があるんだ
In the back of my building
俺の住む建物の裏には
Where some people congregate in shame
人々がこそこそ集まる場所だ
I was walking with my dog
犬を連れて歩いていると
And the night was black with smog
夜は霧で真っ暗
When I thought I heard somebody
誰かが呼ぶ声が聞こえる
Call my name
俺の名前をさ(ぞっとするぜ)
最後に「フー」とポールが吐き捨てるのは、うんざり度が強調されています。
後ろから誰かが自分の名前を呼んだような気がする、、、、。
自分を知る人間はいないはずなのに、、、。
なんとなく火曜日9時からのサスペンスドラマのような戦慄が走りませんか?
またもやカラーの違う曲をもってくるポール・サイモンには本当にいつもはら
はらさせられます。ポールの歌いぶりや、バックミュージシャンの演奏を堪能
しながら、何度も聞きたい歌のひとつですね。特に前奏と後奏が光っていると
私は感じているんですが、いかがですか?
|