Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

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Vol.15  2003年2月22日(土)

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何かがうまくいく Something So Right
  アルバム「ひとりごと」 There Goes Rhymin' Simon 第4曲

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マルディグラでのお祭りのどんちゃん騒ぎ、音楽を楽しむ人々の光景を、しみ
じみとした視線で歌うポール・サイモン。いえ、「視線」というよりも彼自身
その楽しい騒ぎの中に身を浸っている姿が目に浮かぶ楽しい歌の後、ポールは
はまた内向的な歌を持ってきました。

  Something So Right

  You've got the cool water
  冷たい水を持ってきてくれたね
  When the fever runs high
  僕が熱を出したとき
  You've got the look of love light
  In your eyes
  瞳の底あふれる愛の光と共に
  And I was in crazy motion
  僕はうなされていたけど
  'Til you calmed me down
  君が落ち着かせてくれた
  It took a little time
  少し時間がかかったけれど
  But you calmed me down
  君のおかげさ

静かなギターの調べの美しい前奏。さりげないキーボードのバックが効いてい
ますね。そして本当に優しいポールの歌声です。

ここまでは「愛の歌」です。熱にうなされ心細く何かにすがりたい時に、そば
にいてくれる愛する人。現に、この歌のテーマは当時のポールの妻ペギーへの
愛でした。

おお!ラブソングか。と納得です。メロディやアレンジも優しげですからね。
ところがポールのラブソングはストレートに聞き手を安心させてくれません。
暖かくて覚えやすいメロディとは裏腹に詩の中にまた彼の昔からのテーマ「孤
独」が出てきます。

次のフレーズは何度もこの歌で繰り返される重要な部分です。何度も読んでみ
て下さい。

  When something goes wrong
  うまく行かないと
  I'm the first to admit it
  「そうだろな」と僕はすぐに納得する
  I'm the first to admit it
  本当に、すぐにね
  But the last one to know
  そして、最後まで納得できないのは
  When something goes right
  うまく行っているとき
  Well it's likely to lose me
  そうだよ、まるで自分を失い
  It's apt to confuse me
  混乱しそうでね
  It's such an unusual sight
  僕には普通でないのさ
  I can'n get used to something so right
  うまくいくことに慣れていないから
  Something so right
  うまくいくこととなんか、、、

常に最高のケースを予想する、信じる人。いつも最悪のケースを想定する人。
ポジティヴとネガティヴ。日本語では前向きと後ろ向き。極端な区別をする
とすれば人間はこの二通りに別れるそうです。もちろん事はもっと複雑。誰も
がこの両面を心に抱えながら生きています。

うまくいかない事が当たり前だと考えるのは見事な心の処世術かもしれませ
ん。なぜならうまくいくことなど今の世の中は少ないから。うまくいったら儲
けものと思っていれば何も恐れることはないですしね。

何度も出てくる歌詞の中で I'm the first to admit it の歌い方の違いをよく
聞くと興味深いですね。また Something so rightと何度も繰り返される言葉
が強く印象に残ります。

ポールは次の部分で万里の長城を引き合いに出してきます。

  They've got a wall in China
  中国で人々は壁を築き上げた
  It's a thousand miles long
  千マイルの長さの
  To keep out the foreigners
  敵の侵略を防ぐため
  They made it strong
  とにかく頑強な壁を築いた
  I've got a wall around me
  僕も自分に壁を築いている
  You can'n even see
  それは君にさえ見えない壁
  It took a little time
  少し時間が必要だったね
  To get to me
  本当の僕にめぐりあうまでには

自分に壁を作る、、、。

「僕は岩、僕は島」と歌った「アイ・アム・ア・ロック」と全く同じ心情です。
もちろん若い時も心の底では人の暖かさを求めていたはずですが、彼は何度も
自分が「岩」であり「島」であることで強調し、痛みも感じない、泣かない人
間である、ありたいと歌いました。ポールが二十歳前後の頃。

このアルバム「ひとりごと」を書いた時は既に30歳を過ぎています。妻がいて、
可愛い子供もいる。今度の歌では、自分を壁の中に閉じこめていた人間がその
壁の外の人を受け入れています。「アイ・アム・ア・ロック」の時のような頑
さはなくなります。

うまくいかないのが普通だと信じるのは自分を傷つけないため。自分を傷つけ
ないために壁を作っているとも思えます。

サビの部分は少しアップテンポでコードも短調に転じ雰囲気が変わます。そして
「自分をさらけだすことのない」人間の心の底を暴露します。

  Some people never say the words
  「愛している」
  I love you
  そんな言葉を使わない人がいる
  It's not their style
  自分のスタイル(主義)ではないから
  To be so bold
  自分をさらけ出すのはね
  Some people never say those words
  I love you
  「愛している」って言わない人
  But like a child they've longing
  To be told
  でもみな自分では、そう言われたいと願っているんだ
  子供みたいに

確かにこれは、愛の歌、人間の孤独感を語る歌。

それと同時に、ソングライターには孤独が必要あり、外からの侵入者が邪魔に
なる。心を開けるのはごくごく身近な人だけでしかないことをも語っているよ
うな気がします。

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ポール・サイモンは書いた歌には相当な自信を持っているはず。しかし、心の
底では歌が聴衆に受け入れられるかを心配していたでしょう。その気持ちが
「うまく行かないことには納得できる」「うまくいくとなかなか信じられない」
という歌詞に現れているような気がします。

何かを表現するということは、例えは悪いけれど人前で裸になるようなもので
す。「きっとだめだ、受け入れられない」自信喪失感と、「絶対に受け入れら
れる」絶対的自信との両極端の感覚がいつも表裏を行き来します。割合でいえ
ばきっと9対1位、人によってはもっと悲惨な数値でしょう。

でも、ポールがタイトルを"Something So Right"としたのは、「きっとうま
くいく(きっとうまくいくよね?)」と信じているからに他なりません。

この歌は、どんなに孤独でも人間にはちっぽけな希望があること。壁を取り払
うには時間がかかるけれど必ずできる。愛する家族や友がそばにいることを思
い出せ、と語っているのではないでしょうか。

ギター、ベース、キーボード、ドラムなどの楽器に加えてストリングスのアレ
ンジが音楽に彩りを与えています。ポールのヴォーカルが特に光る静かで味わ
い深い歌です。


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