Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

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Vol.13  2003年2月2日(日)

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 君のやさしさ Tenderness
  アルバム「ひとりごと」 There Goes Rhymin' Simon 第2曲

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  Tenderness

  What can I do
  どうしよう
  What can I do
  どうすればいいんだ
  Much of what you say is true
  君のいうことは正しいさ
  I know you see through me
  君は僕のすべてをお見通し
  But there's no tenderness
  でも思いやりがない
  Beneath your honesty
  その真面目さのわりには

エレクトリックギターのコードによる短い前奏に続き、エコーがかかったポー
ルの歌声で始まるTenderness。バックにはDixie Hummingbirds によるコー
ラス。まるで1950年代のオールデイズを思わせるようなアレンジ。そう、映
画「バック・トゥー・ザ・フューチャー1」で出てきたパパの時代のバンド、
あの雰囲気ですね。

またもやポールはこれまでと全く違うイメージの曲を持ってきました。フォー
ク的な音楽ではなく、まるで昔でいえばムードミュージックのよう。バックの
ピアノもいい味を出しています。

詩では、どうも、親しかった友人に対して、心をぶちまけているようです。
自分を本当にわかってくれている、ナイスな奴。自分のためを思い、色々苦言
してくれる。でも、主人公は友の言い方や言動に少しカチンときています。

優しさ。ここでは「思いやり」と書きますが、これは友人関係だけでなく、会
社や家庭でも、同じですよね。実力社会ですから甘えは許されない時代。でも、
人はこういう何気ない思いやりに日々助けられています。

  Right and wrong
  正解と不正解
  Right and wrong
  白黒はっきりさせることとだけで
  Never helped us get along
  うまくいくわけはない
  You say you care for me
  君は僕を気遣っているっていうけど
  But there's no tenderness
  思いやりのかけらもないじゃないか
  Beneath your honesty
  その真面目さのわりには

学校、会社、社会。いつも規則がつきまといます。その中で規定される正しい
ことと間違は明確です。でも、こういう白黒をはっきりする以上の事が日々、
色々なケースで起こります。まして友達なら、白黒以外のグレーの部分をどれ
だけ理解するかがポイント。家族も同じですね。娘の結婚に本心は反対だけれ
ど、でも心の底では娘の幸せを祈っている父親のやるせない気持ちを癒すのは、
ちょっとした思いやり。娘だけでなく、父親自身だって必要です。

  You and me were such good friends
  君と僕はこんなにいい友達同志だった
  What's your hurry?
  なぜそんなにあせるんだい?
  You and me could make amends
  もう一度やり直せるさ
  I'm not worried
  心配ないよ
  I'm not worried

さびの部分のポールの歌いぶりは、往年のオールデーズ歌手のように、実に堂
々としていて、シビレます。メロディラインをしみじみと言葉にのせ、熱唱し
ています。ここから入ってくる管楽器セッションもまた味があります。ここの
箇所の詩は、まるでアートに対して言っているみたいに思えるのは、サイモン
&ガーファンクルを懐かしく思うファンとして偽らざるを得ない気持ちです。
ポール自身そんなコメントは一切していませんが。

最後のフレーズは Honesty という言葉が主人公になります。「真面目」なこ
とが必ずしも人の心を動かすことにはならない。人への心は、真面目さから遠
い所にあることもある。だから時には恥も外聞も捨ててそれを表すべきだろう。
タイミングを逸するときっと一生後悔することになるのでしょう。

  Honesty
  誠実
  Honesty
  誠実
  It's such a waste of energy
  労力の無駄だよ
  No you don't have to lie to me
  僕に嘘をつく必要などないさ
  Just give me some tenderness
  ただ思いやりをくれないか
  Beneath your honesty
  君の誠実さに似合うだけの思いやりを

後奏ではピアノ主体によるコーラスが主役を演じます。最後 tenderness の
部分のコーラス。低音が効いていて心染みますね。

この歌は、人間関係に疲れた金曜日の夜、スコッチウィスキーを片手に聞く
ミュージックにふさわしいかもしれません。

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【あとがき】

第二作「ひとりごと」と第一作「ポール・サイモン」との違いは、ハーモニー
にあるといいます。確かに、第一作ではコーラスがありません(バックコーラ
スではなく、本メロディでのハモりという意味です)。でも、この第二作では
いたるところでハモりが登場します。時には多重録音によるポール自身の声、
時には他の歌手やグループを起用した上でのハーモニーですね。

第一作では多分にサイモン&ガーファンクル時代のサウンドを意識し、極力そ
れとは違うものにしようとした意図。その最たるものがハーモニーにあったの
は明らかです。だからハモリを排除したのでしょうか。

でも、こういう片意地はった姿勢から飛び出て、よりリラックスしたポールに
必要だったのは人の声によるハーモニーだった、と思えば、なんだか心がとて
も暖かくなるではありませんか。

このアルバムでは暖かい歌が続きます。
ではVol-14、「夢のマルディ・グラ」で!


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