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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
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Vol.10 2003年1月11日(土)
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パラノイヤ・ブルース Paranoia Blues
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今号より再び楽曲の解説へ戻ります。
アルバム「ポール・サイモン」の曲目もいよいよ大詰め。今回は第10曲目の
「パラノイヤ・ブルース」となります。この作品も、およそS&G時代のポー
ル・サイモン曲と比べると彼の作品らしくない、代表曲ですよね。
パラノイヤ(Paranoia)って何?ということで早速調べてみると、精神病の
一種で「偏執病」と呼ばれています。他人の敵意を想像し、妄想を抱き、心理
的な葛藤を他人に投影する病気です。要は自分に被害を及ぼされることを、常
に想像し心配している状態で他人を見る状態。絶大な信頼感があればこんなこ
とはないのですが、何が起こるかわからない現代社会には、多かれ少なかれパ
ラノイヤ的精神状態にならざるを得ません。
基本的に「人を信ずる」か「人を疑う」か人間の態度は二分されると思います
けれど、以前欧米で仕事をしていた頃は後者で「疑う」心を持たざる得ません
でした。日本に帰ってくると「信ずる」方でいられ安心して日常生活を送られ
たことを幸福に感じていました。でも最近はそう安心しても居られない社会に
日本もなってしまった。本当に悲しいことではありませんか。
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さて、楽曲の歌詞をまたいつものように見ていきましょう。
Paranoia Blues
Lyric and Musiker by Paul Simon 1972
I got some so-called friends
あたかも友達のような顔でやってきて
They'll smile right to my face
面と向かえばニコッとしてくれる人
But, when my back is turned
でも背を向けると
They're like to stick to me
刺されるかもね
Yes they would
そんな可能性大だよ
Oh no, no, oh no no
ああ、いやだ、いやだ
There's only one thing I need to know
これだけは知りたいのさ
Whose side are you on
君は僕の味方かい?
ギターのボディを叩いたパーカッション代わりの前奏。どこか不気味な雰囲気。
沈み気味で歌いかけるポール。イエーイというかけ声が似合いそうなロック、
ブルース調の歌ですが、不思議なイメージです。バックにはボトルネック・ギ
ターによる粋な伴奏、というか、これもこの曲の主役でもあります。この歌は
このギターと歌のかけあいでもあります。これをラスト曲の前にもってくるな
んてなんと大胆な。
※ボトルネック・ギターという名称は初めて知ったのですが、スチールギター
的奏法のようですが、スチールの代わりに瓶を使うんだそうですね。普通左手
でギターの弦を押さえますが、その代わりに瓶を使うらしいです。だからこん
な独特の音が聞こえるのか、、。
オーノーノーノーのフレーズがたまりません。カッコイイな。
それにしても友達のように思っている人をも、疑わなければならないって、
実に悲しいけれど、こういう状況が既に30年前のニューヨークではあったとい
うことですか。都会は今恐ろしく、パリやフランクフルトも油断なりません。
次のコーラスでは空港での話題。
I fly into J.F.K.
ケネディ空港に着くと
My heart goes boom boom boom
毎回心臓はドキドキさ
I know that customs man
また税関の奴らが
He'll going to take me
To that little room
僕をあの狭い部屋へ連れて行こうとするだろうから
Oh no, no. Oh no, no
いやだ、いやだ、ああいやだ
教えて欲しいよ
君は僕の味方かい?
ポール・サイモンをはじめあの頃のミュージシャンは皆髪の毛を長く延ばして
いました。髪が長い=あぶないやつ、というレッテルが貼られていたんですね。
(髪の毛が長いと、許されないなら、、という歌詞の歌が日本でもありました
ね。認知されるまで長い年月が必要でした。私もあの頃髪を長くのばすことに
憧れていたな)
おまけにポールはいつもギターを持ち歩いていたから、怪しまれたわけです。
中にドラッグか何か入れているのではないかと。だから別室に連れられ、まる
で犯罪の容疑者のように取り調べめいたことをされていたらしくそのことを歌
っています。
そうした恐怖や屈辱への憂さ晴らしがサビの部分。どこかやけ気味な面もあり
ますが、音楽も痛快で楽しいですね。
ここからは金管楽器やドラムも加わります。ちなみにこの曲でポール・サイモ
ンはギターを弾いていません。ステファン・グロスマンのボトルネック・ギタ
ーに任せ、ポール自身はパーカッションを担当しています。パーカッションっ
て何の?まさかギターのボディが楽器だろうか????
I got the paranoia blues
「被害妄想ブルース」
From knockin around in New York City
ニュー・ヨークをうろつくなら必需品
Where they roll you for a nickel
ここじゃグルグル巻きにされ
And they stick you for the extra dime
小銭欲しさの奴らに刺されるかもしれないのさ
Anyway you choose
とにかく君は選んだのさ
You're bound to lose in New York City
ニューヨークでさらされる死の危険をね
Oh I just got out in the nick of time
俺は無事帰ってきたよ、すれすれのところで
Well I just got out in the nick of time
そうさ無事帰れたんだ
少し大げさな詩のようですが現代では決して大げさではありません。私なんか
は恐ろしくてニューヨークをはじめ世界の大都市へいく勇気はありません。
歌の最後は、刺されるよりはましな、それでも驚くべき光景をユーモラスに語
ります。
前にチャナ・タウンへいったときのこと
「林さんのチャーハン」を食べていた僕は
ちょっとよそ見をした
ほんのつかの間、そのすきに
僕の食べていたチャーハンがなくなっているんだ
ああ、いやだ、いやだ
これだけは教えてくれよ
君は僕の敵じゃないよね
レストランでよそみしたすきにテーブルから食べ物がなくなるなんて、本当に
見事というか、どうやって盗むんでしょうね。これはポール一流のユーモアで
しょうけれど、、。
終わったかと思うと、突然ボトルネックギターによる演奏が続き、フェードア
ウトで曲は終了。楽しい歌でしたね。
だからこそ次のまたしみじみとした歌が心に染みるのかも。
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