━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Vol.8 2002年12月25日(水)
「パパ・ホーボー」 PAPA HOBO
「ホーボー・ブルース」 Hobo Blues
album「ポール・サイモン」第8・9曲
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
三拍子によるギターコードストロークで始まるPapa Hobo。またもや違った味を
出しているユニークな作品です。このアルバムでポールは本当に楽しませてく
れます。のどかで楽しげ、カントリー風というか、ブルース調というか、ジャ
ンルの特定不可能なメロディとコード進行。バスハーモニカとハーモニウムが
微笑ましい。
30秒弱も前奏が続く曲なんて珍しいです。
タイトル「パパ・ホーボー」の意味はよくわかりません。
実はこの文を書くまでは、父親の事を歌う心温まる歌なんだと、完全に思いこ
んでいました。
理由は歌の中盤に出てくる歌詞が
sweet pap=愛しのパパ
と聞こえていたからでした。
笑いものですね。全くの勘違い。
レコードについてきた歌詞カードをよく読むと
sweep up(かたずける)
全然違いますよね。思いこんだらまるで一直線のまま勘違いを続けてしまいま
した。
さて歌詞をまた読んでみましょう。
−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
PAPA HOBO パパ・ホーボー
It's carbon and monoxide
それは一酸化炭素という
The Ole Detroit perfume
デトロイト・ブランドの有名な香水
And it hangs on the highways
In the morning
朝からハイウェイに現れ
And it lays you down by noon
昼までには君を気絶させること請けあい
Oh Papa Hobo
オー パパ・ホーボー
You can see that I'm dressed like a schoolboy
僕は学生みたいな出で立ちをしているけど
But I feel like a clown
実はまるで道化師
It's a natural reaction I learned
この格好なら、そう思わなきゃなってられないよ、普通の感覚さ
In this basketball town
結局この街で飼い慣らされているわけだし
自動車産業で有名なデトロイトに育った少年のつぶやきですね。
排煙の充満する街、人は皆とんでもない環境であることはわかってはいるもの
の、生活を支えている産業に文句もいえません。だってそのお陰で日々の暮ら
しを送っているのですからね。
真ん中でタイトルの「パパ・ホーボー」が出てきます。呼びかけですから誰か
のことか、それとも抽象的な何かでしょうか?
ホーボ(hobo)とは浮浪者という意味もあるようです。
主人公の少年がいつの間にか知り合いになった乞食のおとっつあんかもしれま
せんね。彼の自由な生活にどこか憧れも頂いているのかも。
「学生みたいな格好」とはつまり労働者の作業着のことをいうのでしょうか?
「バスケットボールの街」は自虐的に街を称しているほどの意味あいのような
気がします。
さて、問題の(?)次の箇所。
Sweep up
きれいに
I been sweeping up the tips I've made
稼いだわずかの金は全部毎日使い切る
I been living on Gatorade
そんな風に、ゲイトレードで暮らしてきた
Planning my getaway
逃げ出す日を企てながら
Detroit, Detroit
デトロイト、デトロイト
Got a hell of a hockey team
とほうもないホッケーチームを獲得した街
Got a left-handed way
汚いやり口でさ
Of making a man sign up on that
人を引きずり込むため
Automotive dream, oh yeah
自動車の夢へと
Oh Papa Papa Hobo
オー パパ・ホーボー
Could you slip me a ride
内緒で僕を連れて行ってくれない?
Well, it's just after breakfast
ちょうど朝飯も済んで
I'm in the road
道に出たところなんで都合がいいや
And the weatherman lied
でも、残念なことに、天気予報は外れちゃった
その日暮らしの生活で生きてきた少年は、いつかこの街を出ようと思っている
わけですね。
デトロイトが偉大な素晴らしい街なことは周囲の誰もが否定しないけど、少年
は懐疑的のようです。ほら、我々も自分の故郷を一度は捨ててみたい願望を抱
いたことがあるはず。外に出て、その気持ちは間違いだったと気づくのは何十
年も後なんですが。
大規模なホッケーチームを買収した街です。日本でいえば金にまかせて選手を
あさる某野球球団のようなもの。恥ずかしい。「汚い手口で」とさえコメント
を添えていますね。
そして人を上辺だけの夢へと誘う街の、ばかばかしさを少年は強調したいよう
です。
とにかく「パパ・ホーボ」に一緒に連れて行ってほしい少年。結局そのささや
かな願望は果たせなかったのかもしれませんが、、。
歌は間髪いれず、一気に進みます。「ダンカンの歌」のような語り歌ですが、
メロディや曲調が、本当に微笑ましい雰囲気を醸し出す歌ですね。
−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
このギターコードストローク。どこかで聞いた感じがしました。
あ、ビートルズの"Rocky Raccoon"(通称ホワイトアルバム「ザ・ビートル
ズ」収録)ですね。ビートルズの歌もカントリー風な仕上げですが、サイモン
の方がより雰囲気が出ています。
力強いギターの音で歌はエンディングを迎えます。
そしてほとんど間隔がなく、次の「ホーボー・ブルース」に移ります。
私はこの二曲が一曲だとばかり思っていました。それほど違和感のないつなぎ
なんです。
ステファン・グラッペリーの見事なヴァイオリンとサイモンのギターの共演。
本当に素晴らしい曲ですね。この曲のコメントとしては短かすぎますか?いや
コメントの必要なんてないでしょう。
ポール・サイモンは、この歌で、
「自動車産業は人に夢を与えてくれる存在だけれども、自動車自体が出す一酸
化炭素は人を死に至らせる、皮肉な存在である」ことをいわんとしていたと語
ります。
この歌が発表された1972年から30年経過した今、どんな世の中になっている
んでしょうか?アメリカばかりでなく、日本、そして世界は?
楽しい歌の底に、さりげないけれど、スパイスの利いたポールの主張が要所
要所にこめられていることを、改めて知りました。
でもね。最後まで「パパ・ホーボー」が何かわかりません。
どなたかご存じなら教えてくださいね!
|