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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

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Vol.7  2002年12月14日(土)

  「平和の流れる街」 Peace Like A River
                  album「ポール・サイモン」第7曲

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またまたギターのカッコイイ曲の登場です。
CDかレコードをお持ちの方はまず曲をかけてみましょう。

ギターソロの主導でベースと控えめなドラムが一定のリズムを刻んでいます。
ギターのボディを叩きながらリズムをとっているのも聞こえます。

歌は歌詞の前に「アーーーーーーーー」と2小節もまえぶれのようなあります。
このアルバムではポール・サイモンが歌詞の合間にこういうフレーズを入れる
傾向が多いのはひとつの特徴でしょう。

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  Peace Like A River

  Peace like a river ran through the city
  町をつきぬける川のように、平和が流れていく
  Long past the midnight curfew
  遠い昔 外出禁止時刻
  We sat starry-eyed
  僕らは空想の世界に
  We were satisfied
  満ち足りていた
  

一行目はタイトルにも使われているなかなか洒落た表現ですね。
川が街の真ん中を流れている。世界中どこにもたくさんありそうですが、きっ
と住む人々には特別な思いがあるでしょう。そこで住んだ人にはそれぞれの想
い出が川に込められているはずです。必ずしもその想いは幸福と結びつくとは
限りませんが、淡々と流れる川を見ると知らず知らず平静な気持ちになるもの
です。

タイトルをそのまま訳すと「川のような平安(な心)」というような意味にな
ると思いますが、街を結びつけ「平和の流れる街」としたのは、なかなかうま
い表現ですね。ただ日本語タイトルを見た瞬間、私は「反戦の歌」だろうかと
誤解してしまいました。この歌に出会ったのが1972年という時期のせいもある
でしょうが。

midnight curfewという聞き慣れない言葉が出たので、調べたのですが、ど
うも決め手がありません。curfewとは時刻を知らせるための鐘の音、その昔
は消灯の合図にも使われていたようです。さらに夜間禁止令という意味もある
そうです。

私はこう解釈しました。夜間禁止令の頃、遠い中世の時代、あるいは戦争で戒
厳令がひかれた時代には、夜は眠るか暗闇の中で夢想するしかなかった。その
頃はテレビやラジオ、電話、ましてゲームやインターネットもなく、ただ空想
の世界で遊ぶしかなかったはず。乏しい光の下で(あるいは月光で?)本を読
むなんて庶民には無縁の行動でしょう。そんなことができたのはファウスト博
士などの学者だけだったでしょう。

ポール・サイモンはこの第一コーラスで夢想の楽しさを少しだけ懐かしんでい
るようにも思えます。

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  And I remember
  覚えておくべきなのは
  Misinformation followed us like a plague
  虚報が僕らを追ってくること まるで疫病神のように
  Nobody knew from time to time
  If the plans where changed
  If the plans were changed
  予定は刻々と変わっていく 誰も予想なんかできない
  
一見抽象的な言葉が並んでいますが、これは現実世界における混沌や喧騒その
ものを歌っているに違いありません。静かな川の流れを見ている主人公。彼は
考え事をしています。その思いは日々のあわただしい時間に及んでいます。

ビートの効いたギターのフィンガリング、チョーキング、幻想的な音階による
アルペジオで終始淡々と流れる伴奏にのり、ポールの歌は相変わらず歌詞と見
事にマッチして進んでいきます。

ギターが先導し短調から長調に転じるサビのメロディを導きます。

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  You can beat us with wires
  僕らをワイヤーで叩くがいい
  You can beat us with chains
  鎖で打ちのめすことだってできるだろう
  You can run out your rules
  せいぜい君たちの規則で、したい放題すればいい
  But you know you can't outrun the history train
  けれど覚えておいてほしい
  歴史の列車は追い抜かせないのさ
  I've seen a glorious day
  僕には見える、光り輝いたあの日が

ここは誰かに向かって憤りをぶつけています。
ワイヤーや鎖という恐ろしい道具が出てくるのは穏やかではありませんが、見
えない何かで人間の心を痛めつけるもの全てに対して怒っていることがわかり
ます。それは一般民には政府、子供なら大人の社会、組織に所属する一般人な
ら組織側の人間、とにかく何か具体的な敵をあてはめてみるといいでしょう。

でもいくら叩かれ虐げられても、個人の空想を邪魔はできない。つまり個々の
心まで足を踏み入れることはできません。

「歴史の列車」という言葉はカッコイイ例えです。そして最後の行
"I've seen a glorious day"
はいつまでも忘れられないフレーズです。人には誰にもこのような一日はある
はずだからです。

間奏では「光輝く日」を象徴するような、秀逸なギターソロが展開します。
「、、、」
言葉を失います。言葉なんか必要ないですね。このギターをぜひ聞いて欲しい。
そうです、シンプルです。ただ、聞いて下さい。コメントは本当に不要です。

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  Four in the morning
  朝の四時に
  I woke up from out of my dreams
  夢から目が覚めた
  Nowhere to go but back to sleep
  行くあてなどないしまた眠るしかないけれど
  But I'm reconciled
  あきらめた
  Oh, oh, oh, I'm gonna be up for a while
  もうしばらくこのまま起きていよう
  Oh, oh, oh
  I'm gonna be up for a while

最後のコーラスはまたメインメロディに戻ります。

Four in the morning
どこかで聞いた詩だな?と思い出したあなたは相当なポール・サイモンのファ
ンですね。ポールの歌には早朝の描写がよく出てきます。そうです、グラミー
賞を獲得したアルバム「時の流れに」(Still Crazy After All These
Years)のタイトル曲「時の流れに」のサビの部分と同じです。

歌の主人公は朝の四時に目が覚めたんです。変な時間に起きてしまう。頭の中
に色々と心配が残っていると、よくありますね。本当は何の責任も義務も生じ
ない夢の世界の中でずっと過ごせるといいのですが、夢想に冷や水をかけられ
たように現実へと目を覚まさせられてしまう、その無念。

主人公はあきらめてそのまま起きていることにしたようですね。

前半のシリアスな詩からは、政治的な匂いもした歌でしたが、最後のコーラス
に来れば、「なんだ、眠れないから色々と妄想していただけ?」と、きわめて
個人的なぼやきと解釈できなくもない歌詞。いやあ本当にポール・サイモンは
はらはらさせてくれます。

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 「ポール自ら「人が想像する以上にシリアスな歌」と呼ぶ "Peace Like A
  River" では混乱と不安をうたっている。が、歌は理想主義的でもある」

とVictoria Kingston氏は"The Bopgraphy / Simon & Garfunkel"(S&Gの
伝記で邦訳は出版されていない)で述べています。そこにはサウンドについて
の面白い記述があるのでご紹介します。
↓以下は本の記述の要約
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3分20秒というさほど長くはないこの歌ですが、実はポールの音楽上の興味深
い工夫が施されています。曲の中間からバックにそれは現れるのですが、何か
ノイズのような不思議な音です。ピアノの低音部を叩いた音を録音し、その音
源を逆回転でさらにスピードを二分の一に(つまり遅く)して再生したものを
入れています。彼はこのノイズのような音で「暗色(黒ずんだ色)」や「緊張
感」を表現したといいます。
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↑ここまで

私はヘッドフォンを使いCDとアナログレコードで音量を大きくして確かめて
みたのですが、残念ながらそのものズバリを特定できませんでした。不思議な
ノイズが聞こえているのは事実なのですが、それは他の音に伴って発生してい
るものかもしれないので、なんともいえません。もっとも音を気が付かせる目
的ではなく雰囲気を漂わせるための細工であったでしょう。「平和の流れる街」
か独特のムードを聞き手がそれぞれ感じ取ることで、彼の目的は達成させられ
たといえるでしょう。

「グレイスランド」アルバムのメイキングDVDにも、ポールが逆回転の音源を
使用する場面が出てきます。彼は楽器だけではなく、常に音全般にこういう細
かい工夫をしているのでしょう。ふだん流して聞いているとなかなかわかなら
いものですが、時には好奇心をもって注意深く彼の曲のサウンドを聞くとまた
新しい発見がありそうです。

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