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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

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Vol.5  2002年12月1日(日)

    「休戦記念日」 Armistice Day
                  album「ポール・サイモン」第5曲

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※公式アルバムのタイトルが「休戦記念日」になっているためこのように記載
します。日本語の意味合いとしては「終戦記念日」としたほうが、わかりやす
いと思いますので本稿では「休戦」=「終戦」のつもりで文を進めます。あら
かじめご了承下さい。

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この歌で最も印象的なのはなんといっても、変則チューニングされたアコース
ティックギターでしょう。曲は最初から歌声とギターとのデュエットで始まり
ます。両者は違うメロディですので、まさにデュエットと呼ぶにふさわしい。

でも主役は歌とギターのどちらか、と問われると、もちろん両方主役ではある
ものの、私は「ギターが主役」と明言してしまいます。なぜならこのギターだ
けを聞いても十二分に楽しめる曲だと思うからです。

このギターはアルペジオでもないし、フィンガーピッキングでもない。またコ
ードストロークでもありません(もちろんそれぞれのテクニックを巧みに使い
分けている)。伴奏的なギターの使い方ではなく、見事な主役なのです。
「いつか別れが」Everything Put Together Falls Apart でもそうでしたが、
ポール・サイモンはこのアルバムで今まで以上にギター演奏に工夫をしていま
す。

さーて歌詞の意味は?
う〜ん、、、、。正直言いますが、よくわかりません。一応いつものように迷
訳を添えて進めますけれど、、、、。

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「Armistice Day 休戦記念日」

  On Armistice Day
  休戦記念日には
  The Philharmonic will play
  オーケストラの演奏があるけれど
  But the songs that we sing
  僕らの歌は
  Will be sad
  哀しい歌
  Shufflin' brown tunes
  茶色の音が交錯して
  Hanging around
  うろついている

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ここまではわかります。休戦記念日(=終戦記念日)にオーケストラが高々に
奏でるメロディと自分たちの心は違って、薄暗い音色が、行き場をなくしてさ
まよっているという詩的な内容ですね。確かに日本もそうですが、戦争を終え
た記念日は、同時に過去の戦争による悲劇を思い出すべき日なのですから。

Armistice Day=終戦記念日ですがこの名称は旧称です。現在ではVeteran's
Day=退役軍人(たいえき ぐんじん)の日という名称になっています。第一次
および第二次世界大戦の終結を記念する日で、11月11日。

ギターの主導に乗り、不思議なメロディが上の歌詞で歌われています。
珍しくポールの高音の「うー」という歌声が裏声で聞けます。ハミングを加え
ているのも珍しい。ギターの見事さは何度も言いますが素晴らしい。チョーキ
ングが効いていますね。間奏の切れ味も抜群です。

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さて、歌の意味でわからないのは第二コーラスの前半です。

  No long drawn blown out excuses
  長く無意味な言い訳など
  Were made
  もういらない
  When I needed a friend she was there
  そばに誰かいてほしい時、あの娘がそこにいてくれた
  Just like an easy chair
  まさに安楽椅子のように
    (→彼女がいてくれたから真にくつろぐことができた)

No long drawn blown out excuses were made
この部分を理解しようとして、特定な意味などを考える必要はないかな? 何
か「鬱屈した精神状態」、例えば戦争という恐怖の状況。これは戦争を知らな
い私の世代には理解しがたい状況でしょうが、とてつもなく不安な気持ちであ
ることは確かでしょう。そんな中ではさまざまな確信のない憶測が周囲を取り
巻くでしょう。そういうものを心配する必要はない「喜び」と「開放感」を歌
っている。現代の日常生活での毎日の「不安」に当てはめるのもいいでしょう。

ポール・サイモンは「終戦」という意味合いを、特定の戦争を想定しているわ
けではなく、国家や個人などそれぞれのレベルにおける「争い」全般を歌って
いると語ります。

どん底の時に一人の女性がそばにいてくれたことの喜びと安堵。「安楽椅子」
という言葉を使っていますが「一緒にいて真にくつろげる人」という意味合い
がこめられていると思います(言葉尻だけ追えばその種の団体からクレームが
来て現代だと大問題になりそうな大胆な表現ですね)。

  休戦記念日
  休戦記念日だよ?
  That's all I really wanted to say
  いいたいことはただそれだけ

ここで主人公は、歌の気持ちを聞き手に託します。あとは「考えろ」と言って
いるんでしょうね。

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さあ、ここから歌のイメージが変化していきます。
まずアコースティックギターが主体だった演奏に、エレクトリックギターのコ
ードストローク、パーカッションと管楽器が加わり曲調の基本は同じなのです
が、賑やかになります。聞き方によって後半は別の作品のようにも聞こえます。

ポールにしては珍しく、「Oh」と最初に絶唱しています。

  Oh I'm weary from waiting
  待たされてうんざりしている
  In Washington D.C,
  今、首都ワシントンにいるけど
  I'm coming to see my Congressman
  知り合いの議員に会うためにここまで来たのに
  But he's avoiding me
  その人は会おうとはしてくれない
  Weary from waiting down in Washington D.C.
  首都ワシントンで僕は待っているけれど、心底疲れた

エレクトリックギターのコードストロークの調子がよく、それと絡み合う他の
楽器群、そして変則チューニングのギターの音色がカッコよくて、何度も聞き
たくなります。このサウンドは絶品だと思いますよ!

  そこの女性議員さん
  彼に伝言してください
  こんなに長い間待たされているんですって
  これが限界ですよ、って
  どうか女性議員さん
  伝言お願いします

議員に会って何を直訴しようとしているのか、よくわかりませんが、会ってく
れない苛立ちを二コーラスに渡って歌っています。

歌が終わると
ンナッナ ナッナ ナナナナナーナ
ンナッナ ナッナ ナナナナナーナ
と言葉のないメロディをポールが裏声でノリノリで歌いながら、楽器の演奏が
続きます。やがて、冒頭のアコースティックギターソロが再現され、少し消え
入るようにフェードアウトしていきますが、最後の低音のギター1音をチョー
キングで鳴らすのが聞こえます。まるで不本意な気持ちを象徴するかのように。

Copyright 1972 Paul Simon (BMI)
Translated by musiker
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書籍『ポール・サイモン』(音楽之友社刊、パトリック・ハンフリーズ著 野
間けい子訳)155pには

 「休戦記念日」は1968年あたりから考えていた曲で、最初は過激なまでに
 反ベトナム色の濃いものだったが、レコーディングする段になって、奇妙に
 信頼感のあるラヴ・ソング、失われた理想主義を賞賛する歌へと姿を変えた。

と記述があります。

ラヴ・ソングね。あの安楽椅子の部分のことでしょうが、あれだけでラヴ・ソ
ングなんでしょうか?理想主義を賞賛?そんな意味合いが込められているので
しょうか?よく考えてみてまたコメントしましょう。

この歌を初めて聞くと、不思議な印象を受けると思います。何て言いますか、
ギターはカッコイイし、アコースティックな面が心地いいんですが、どこか
中途半端なんですね。でも強烈な印象が残るけれど、その印象は行き場のない
余韻になる。

当時はアナログLPのレコードですので、ここでA面が終了。
さて、不思議な余韻が消えないまま、、B面へ針を落とすと、次は底抜けに
楽しい次の歌が始まります。


Song, Paul Simon/ソング・ポール・サイモン (マガジンID:0000098355)

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