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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
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Vol.4 2002年11月23日(土)
「お体を大切に」 Run That Body Down
「ポール・サイモン」第4曲
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冬も近づいてきましたから、風は冷たいし、気温は上がらないし、これでは体
も悲鳴をあげるのも無理もない気候の毎日です。日差しはあるんですが、やは
り冬ですから仕方ありませんか。
そんな時、人から行ってもらえれば嬉しい言葉が「お体を大切に」。
そう、今日のポール・サイモンの歌の題名です。
Run That Body Down
(現題は「体をいじめながら生きるって?」のような意味か?)
Went to my doctor yesterday
昨日医者へ行ってね
She said I seem to be OK
「良好です」って言ってはくれたものの
She said
彼女はこう付けくわえるんだ
Paul you better look around
ポールさん、よく考えてみてくださいね
How long you think that you can
Run that body down?
いつまでも体を酷使し続けられるものじゃないってこと
How many nights you think you can
Do what you been doin
昔のように続けられるものじゃないんですよ
Who you foolin?
これ、真面目なお話ですからね
体の変調を訴えて主人公は医者に通っているんですね。今回は二度目?三度目
の訪問なのでしょう。医者が「大丈夫」と告げていても彼は素直に喜べません。
なぜなら自分がどれほど体をいじめ抜いてきたかを知っているから。だから、
OKと言われても、不安なんでしょう。
「気休めじゃないか?どこかが悪いに決まっている」
と思い込んで、疑う気持ちが消えません。
この作品では前奏無しでいきなり歌が始まります。珍しいですね、ポールの歌
としては。曲のリズムも軽いくてリラックスできます。メトロノーム的な単調
なリズムだという記述もあるけれど("The Biography- Simon & Garfunkel"
by VIctoria Kingston)、落ち着きがあって逆にカッコイイです。
I came back home and I went to bed
家に帰りベッドへ潜り込んだ
I was resting my head
頭を休めるため
My wife came in and she said
妻がやってきて優しげな言葉でいう
What's wrong sweet boy what's wrong?
あなたどうしたの?ねえ、具合が悪いの?
Ah, I told her what's wrong
僕はどこが悪いか説明し、
こう告げた
I said Peg you better look around
ペギー、君もよく考えなよ
いつまでも無理し続けられるはずはないんだ
あとどの位昔のように動き回れるかわからないよ
冗談いっているんじゃないさ、本当だって
第2コーラスでは、妻であるペギーへ向かって医者と同じことを語ります。よ
ほど懲りたんでしょう。自分の身の程知らずを肝に銘じて、人にも教示する。
人間っていつもこんな感じですね。
メロディもコード進行もこれといって複雑でもないごく普通の歌。覚えやすい
いい歌ではありませんか。
でも、書籍『ポール・サイモン』(音楽之友社刊、パトリック・ハンフリーズ
著 野間けい子訳)154Pには、
ちっぽけなアイディアを三番までの歌詞に引き伸ばし、特徴のないメロディ
をつけたものだ。
という記述があります。
私は大人の歌としての気品も感じられて好きです。
医者からポールへのアドバイスは→妻ペギー→若者へ、と同じ詩で移り変わる
のもおもしろいし。「引き伸ばし」たという解釈はどうかな? 詩や音楽は、
これはクラシック音楽でも同じだけれど、「引き伸ばす」のはテクニックでも
あるし。「特徴のないメロディ」っていうけれど、淡々としていていい味をだ
している気がします。
ちなみにこの歌のメロディはバッハの「プレリュード」からヒントを得ている
そうです。具体的な曲はわかりませんが、そういえば、「二声のためのインヴ
ェンション/プレリュード」の雰囲気に似ていなくもありません。具体的にご
存じの方がおられればお知らせ下さい。誌上でご紹介いたします(※掲載の場
合は基本的にイニシャルのみの記載にします)。
第2コーラスが終わると、間奏が入ります。Jerry Hahnによるソロ・ギター。
少しワウが入っているけどアコースティックな雰囲気もある音色はカッコいい
な。歌全体に流れるバックのアコースティックギターの伴奏もいい。アクセン
ト的に奏でられるベースラインのようなフレーズが印象的です。
Kid you better look around
若者たちよ、よく聞きな
無茶ができるのは、若い今のうちだけだって
大人になってたら体がきかなくなるんだよ
本当だって(オヤジのいうことも聞きなよ、数十年後にはわかるって)
ポール・サイモンは、この歌を書いた頃、健康にやたら興味を持っていて、書
物を読みあさっていたらしいです。この歌のテーマも文字通り「健康」です。
ただ、彼はお説教調の歌にはしたくなかったようです。だから、シンプルな
リズムと、バッハから触発されたわかりやすいメロディを使い、また詩そのも
のも「こってりとした」理屈っぽい内容ではなく、さらりとした内容にしたの
ではないでしょうか。この淡泊な印象が、私は好きです。
前号でも述べたとおり、彼は麻薬や煙草などをこの時期に止めています。音楽
的には民族音楽や、オーケストレーションなどの勉強もしていたようで、より
充実したサウンドを目ざして精力的に活動したんですね。
アルバムの前曲「いつか別れが」と、続く「お体を大切に」の繋がりの絶妙さ
がこの頃強く感じます。ポール・サイモンのファースト・アルバムは本当に
ていねいに曲を構成していたんだ、と感じます。いかがでしょうか?
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【あとがき】
前号の「いつか別れが」について、書籍『ポール・サイモン』では、ポールが
「パラフォエネイリア/妻の財産」という言葉を使いたかったから
と記述がありました。この書物が家の中で行方不明だったのですが、今日発見
できてその記述内容を見ました。
妻との離婚のための財産分けね。ポールがこの歌を書いた時は、ペギーさんと
の幸せの日々だったはずで、新聞やニュースをにぎわす世間の離婚騒動を痛ま
しく感じていたんでしょう。そういう視点で詩を読むと、また別の印象をあの
歌に対して持ちますね。
彼もまた1975年に離婚の経験をすることになる。皮肉なものです。
今日は「勤労感謝の日」。んん、、、。感謝されていますか?皆さん。
次号は「休戦記念日」です。お元気で!
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