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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
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Vol.3 2002年11月16日
「いつか別れが」 Everything Put Together Falls Apart
「ポール・サイモン」第3曲
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本メルマガ第一の試練、いわば第一関門です、この歌を語るのは。
30年前に初めて聞いた時の感想。何がなんだかわからない変な歌だ、という
印象を抱きました、これ正直な話。ギターはカッコイイし、ブルース調のメロ
ディも部分部分はいい歌なんだけれど、そのつながりが、中学生の耳にはなん
とも受け入れがたく必要以上に難解に感じたのです。これは私だけの感覚かも
しれませんが、何度も繰り返し聞きたいとはどうも思えなかった。
でも歳月の流れ、色々な音楽を聞く経験を経たからかかもしれません、この歌
の深い味わいのようなものがだんだんわかってきました。
伴奏はポールのギター一本。素晴らしい!こんなギターが弾ければいいな。ギ
ターそのものが語り、歌と絶妙なコンビネーションで、真の一体になっていま
す。そして耳を澄ますと後半には小さな音でハーモニウムとピアノが入ってく
るのが聞こえます。ひかえめだけれど、強烈なカラーを添えています。
歌詞を何度読んでも、意味はわかりにくいのですが、私の迷訳でお読み下さい。
Paraphernalia
その小道具か
Never hides your broken bones
そんなもので折れた君の骨(心)を隠せはしない
And I don't know why
You want to try
もう止めなよ、まだ続けるつもりかな?
It's plain to see you're on your own
しょせん君の問題だけれど
Oh, I ain't blind, no
僕はにだって見る目はあるんだよ
Some folks are crazy
狂った奴はいる
Others walk that borderline
でも皆すれすれのところを歩いているだけ
抽象的でしょう?何のことを言っているのか、「止めろ」というのは何か?
これがわからないと、歌の意味はわかりません。まあ、歌ですから無理にわか
る必要は必ずしもなく、聞き手それぞれが「何」に自分の「何」をあてはめる
といいんですけれど。それでは話はここで終わってしまうので、ポールが言わ
んとしてることについて少しだけコメントしましょう。
Paraphernaliaとは道具一式、備品一式、身回り品などを表現することばのよ
うですがこの歌の場合は「ドラッグ」を暗示しています。本で読んだのですが
ポールもアートもS&G時代には他のアーチストと同様にドラッグを使ってい
たといいます。60年代の洋楽アーチストについてよくご存じの皆さんは「アー
チストがドラッグを常用していた」ことはある意味では常識で驚かないでしょ
うが、S&Gもそうだったとは私は少し驚きました。美しい曲の数々と澄み切
った歌声、ピュアなサウンドとドラッグを結びつけるのはかなり違和感があり
想像もつきません。
そう、この歌はかつてのドラッグ常習者ポール(彼はソロ活動の頃からドラッ
グ、そして煙草も止めました)の目による常習者に対する警告なのです。この
背景を念頭に入れると歌詞の全体を包んでいる抽象的なムードが、具体的イメ
ージになってきます。
Paraphernalia、、、とつぶやくポールの声が最初からややかすれ気味、張り
もありません。
「ドラッグかい?」と、語ってしばらく考え込むポールみたい。
そして続く歌は、まさに「語り」そのものです。
語りをひきたてるメロディのようなメロディでないような曲と和音のめまぐる
しい変化に注目しましょう。中学校時代頭が混乱したのはこのコード展開のせ
いでしたけれど、今聞くとスリリングで本当に味がありますね。
Fm7-Cadd9
F7-Cm7-Bb
B-Bb-A-E
E7-A-Am-Em-F#m-E-A-E7
ギターを弾く方やポピュラー系ピアノを弾く方はおわかりでしょうしょうが、
このコード進行は、かなり個性的です。ジャズではありそうですけれど、およ
そポール・サイモンの書く曲のコード進行ではありませんよね。この和音にメ
ロディをつけるとすると本当に難しいはずなのに、ポールは何食わぬ顔で(か
どうか真実はともかく)歌っています(昨日から今日の早朝にかけて「クラシ
ック音楽夜話」で書いたモーツァルト「ピアノ協奏曲第24番」第1楽章冒頭の
複雑な和音展開と通ずるものがあります)。
この歌には第一コーラス、第2コーラスというような明確な区分はありません
が力強いギターの間奏が入る次の部分の語りは通常の人生へのアドバイスのよ
うにも聞こえます。
Watch what you're doing
目を覚ますことだね
Taking downs to get off to sleep
立ち止まっては休み
And ups to start you on your way
再び歩き始める、あくまでも君流に
After a while they'll change your style
束の間の休息が生き方を変える
I see it happening every day
日々その繰り返し
立ち止まって考える。できそうでなかなかできません、この忙しい毎日では。
でも人間は知らないうちにそれを繰り返しています。みんな束の間の休息は
常にとりますしね。多忙な人も何らかの安らぎのひとときがあるはず。それ
は生まれたばかりの赤ちゃんとの短時間の触れあいかもしれないし、パート
ナーとの会話かもしれません。好きな音楽を聞くことだったり、散歩、スポ
ーツ、ドライブ、読書、料理、胸一杯空気を吸うことかもしれません、ひと
それぞれ。そんなささやかな時間にこそ、自分のライフスタイルを一新する
ような気持ちが突然芽生えることだってある。
そんな普遍的ともいえるアドバイスにも受け止められる上のフレーズ、歌で
はドラッグとの訣別をも意味しています。「捨てろよ」という警告を、ポー
ルはこんな優しくて、辛辣な表現をしています。
Oh spare your heart
だから、心をいたわって
Everything put together
出会いには、必ず
Sooner or later falls apart
いつか別れがくる
There're nothing to it, nothing to it
どうすることもできないものさ
And you can cry
泣けばいい
You can lie
嘘を並べるのもいい
For all the good it'll do you
とにかく好きなようにしな
You can die
死ぬのもいいだろう
But when it's done
でもそんなことをしたら
And the police come, and they lay you down for dead
警察がやってきて、君はただの死体扱いになるだけ
Just remember what I said
僕のいった言葉を覚えておくんだね
(「いつか別れが」"Everything Put Together Falls Apart"
Music and lyric by Paul Simon)
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「出会いにはいつか別れが来る」
なんて深い言葉でしょうか。出会い、つまり人の出会いだけでなく、「母と子
の絆」のモチーフとなった愛犬やなど、人が遭遇するものすべて。それらには
常に終わりがある。ドラッグとの訣別をポールはこんな風に優しいことばでメ
ッセージを送ります。
反面、その後には、突き放すように、「死にたければ死ねばいい」と吐き捨て
るのです。自ら死ぬことは、単なる屍になるだけだよと。なんと厳しく冷たい
言葉だろうか。もちろん裏には「死ぬなんて考えるなよ、死ぬに比べたら、
ドラッグを止めることなんてどうってことない」という愛があることは、いう
までもありませんね。
"Everything Put Together Falls Apart"のテーマは「出会いと別れ」です。
そしてこの歌の主題はそのままアルバム「ポール・サイモン」の主題でもあり
ます。あ、そういえば、彼はわずか一、二年前に音楽の長年のパートナーであ
るアートと訣別していますね。まるでそのことを歌っているようにも思えてき
ませんか。
演奏時間わずか二分のこの不思議な歌の存在感の大きさをこの頃強く感じてい
ます。感動的な「ダンカンの歌」、そして大人の雰囲気漂う「お体を大切に」
の間に挟まったこの間奏曲(?)。しかしこの歌こそポールの主張が詩の上で
も、音楽にもぎっしりと凝縮されているのではないでしょうか。
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