updated on 18 AUG 2006




プーランク 「グローリア」
これが宗教曲か? 驚きの迫力

 宗教曲と聞くと、少し後ずさりしてしまうかもしれないが、クラシック音楽の一つとして、純粋に音楽として楽しんでみると、これとても心休まるいいものなのだ。

 昔会社の同僚のカメラマン(今はカメラマンを兼ねたジャーナリストをしているらしい)が、合唱団が宗教曲を歌うことに対して、「宗教心もないのに、ミサ曲を歌うなんて、邪道だ。信じられない。」と怒っていたことを、不思議に思っていた私。彼のいうことはもっともだが、何の違和感もなくミサ曲を受け入れていた私には理解に苦しむ言動だった。

 確かにミサ曲は、キリスト教の教会で、祈りの時に使用されるものである。歌詞も、おおむね、ラテン語で共通。キリストを称える内容だ。各国様々な言語に翻訳もされているが、内容は同じ。宗教曲は、音楽の発展に最も寄与したジャンルでもある。

 もともと音楽の発祥として、グレゴリオ聖歌が例としてあげられているし、かつて、作曲家の就職先は教会であり、そこに所属して収入を保証されながら音楽をせっせと書いていた。バッハが教会のオルガン奏者だったことは誰も知っていることだし、モーツァルトもザルツブルク時代は、ザルツブルクの大司教に雇われていた。教会お抱えの作曲家でなくても、18世紀までの作曲家は宗教曲を書いている。

 宗教曲が音楽を育ててきたことは否定できない。しかも、優れた音楽が数多い。もっとも芸術はいずれも作者の心から湧き出てくるものだから、すべてが宗教を根元としているといっても間違いではないだろう。

 ということで宗教曲を純粋に音楽として聞くことは何も特別なことではないと私は思っている。
 今、かつての同僚がが目の前にいたら、ゆっくりと時間をかけて説明してあげるのだが、残念だ。

 ミサ曲の構成は、おおむね
   キリエ(Kyrie)
   グローリア(Gloria)
   クレド(Credo)
   サンクトゥス(Sanctus)
   ベネディクトゥス(Benedictus)
   アーニュス・デイ(Agnus Dei)

となっていて、これで一作品のユニットになっている。(モーツァルトの戴冠式ミサ曲や、ベートーヴェンの荘厳ミサ曲などを、CD売り場で見てみてください)

 だが、グロリアのように、単体で一作品として作られている例もあり、ヴィヴァルディ、そしてこのプーランクの作品がそれにあたる。

 なにしろ歌詞、もとい、典礼文が長いので十分作りごたえがある。と前置きが長くなったけれど、「クラシック音楽夜話」でも今後ミサ曲をはじめとする宗教曲を取り上げるので、予備知識として書いてみた。

 プーランク(Poulenc)はフランスの作曲家で、独特の作風がある。ピアノ曲も器楽曲も他の作曲家とは違った不思議な音楽である。まだ聞いたことのない方はどれか聞いてみていただきたい。おお!っと驚きますよ。
 
 彼は若い頃から才能を発揮し、精力的に作曲活動をおこなった。さまざまな作曲家の様式にのっとた面もあるということだが、やはりその音楽における独特な色が印象的だ。
 35歳位の頃から宗教曲に情熱を捧げたらしい。「グローリア」は、晩年1959年の作品で彼の最後の宗教曲となった。
 第一曲「グリーリア」冒頭。高らかなトランペットの雄叫びとオーケストラ!一斉に全員合唱が始まるのかと思うと意表をついて、ささやきのようなグローリアの合唱から始まる。そのメロディも、私がこれまで聞いてきた宗教曲のそれとは全く違う。その合唱はもちろん、やがて次第に大きな声になるのだが、不思議な和音とメロディが頭を離れない。
 第二曲目、「ラウダムス・テ」は映画音楽のよう。軽快なメロディ。途中で静かな「神に感謝」の女性合唱、そして再び冒頭のメロディ。
 第三曲「ドミネ・デウス」は艶やかな(宗教曲なのに、失礼!)ソプラノソロによる美しいソロで始まり合唱が加わる。美しい。途中のホルンソロがいい。
 第四曲「ドミネ・フィリ・ウニ・ジェニテ」、お茶目な弦と木管の掛け合いで始まる、楽しい曲想。「主なる御ひとり子」という内容の歌詞なのだが、その喜びをこんなに明るく軽く表現しているのも珍しい。
 第五曲「ドミネ・デウス・アーニュス・デイ」も映画音楽のようだ。暗い森から湧き出てくるような前奏の後、これまた不思議なメロディでソプラノソロの歌声。森から大草原へだんだんと出ていく光景のような音楽。うう、聞かせるなぁ。
 無伴奏で始まる第六曲「クイ・セデス・アッ・デクストラム・パトリス(父の右に座りしたもう御方)」。しばらく高らかな合唱が続く。第一曲のメロディの繰り返しもある。ソプラノソロが加わりハープの伴奏で、これまた美しいメロディとハーモニー。静かだが体から力がみなぎってくる感じがする。
 最後のアーメンは、冒頭のトランペットと同じフレーズ。そしてまた期待を裏切るかのように消えるように「アーメン」の合唱、そしてソプラノの声で幕を閉じる、、、。
 絶妙な演出だ!つい熱が入り長い文になりました。

 宗教曲ではなく、ドラマチックな物語の音楽として聞くといい、おすすめの作品です。(私は、バーンスタイン指揮、ニューヨークフィル、ウエストミンスター合唱団、ジュディス・ブレゲン(ソプラノ)のCDで聴いています)



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