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「パンキーのジレンマ」 Punkey's Dilemma

 ギターの軽やかなフレーズ。メジャー7の神秘的なコード。一風変わった詩で「パンキーのジレンマ」は始まります。
 
  Wish I was a Kellogg's Comflake
  ケロッグのコンフレークだったらいいな
  (※「ケロッグ」ではなく、「ギャラン」のように聞こえますが、
  paulsimon.comでもkelloggになっているのでこのままにします)
  Floatin' in my bowl takin' movies
  ボウルに浮かびながら映画を撮るんだ
  Relaxin' while, livin' in style
  ちょっとリラックスして、豪勢な暮らしを楽しむ
  Talkin' to a raisin who occasionly plays LA.,
  たまにLAの真似をするレーズンに話しかけてみる
  Casually glancing at his toupee
  奴のカツラをちらちら眺めながらね
 
 とっても微笑ましい歌で、楽しくなります。ギターの軽快な伴奏もはえているし、ポールの歌声も不思議なほど澄んでいて、美しいです。でもこの詩の内容をよく読むと戸惑いますね。私たちの思い描く彼の詩のイメージと全く違う印象です。
 
 ケロッグのコンフレークになりたい?
 あれ、ポールはイッちゃったんだろうか?
 支離滅裂な詩だなと最初は思いました。
 
 『ポール・サイモン』(パトリック・ハンフリーズ著 野間けい子訳 音楽之友社刊)によると、この歌は、米国西海岸の人々の人生観を東海岸側の観点から皮肉っている、と記載されています。
 
 ボウルに浮かび映画を撮る、今なら豪華な自宅のプールに浮かんで、デジタルビデオカメラで撮影する風な感じでしょうか。まさにカリフォルニアの、金持ちの家を想像します(そういえば映画『卒業』のベンジャミンの親の家も豪邸だった)。
 
 第二コーラスも同じ雰囲気、今度はイングリッシュ・マフィンです。
 
  イングリッシュ・マフィンだったらいいな
  トースターの中で、飛び出す寸前まで
  ずっと体を沈めてるんだ
  小麦色になるまでね
  塗るならボイゼンベリーのほうがいいな
  どこにでもあるようなジャムじゃなくってね
  僕はだんぜんボイゼンベリージャム派だから
 
 小麦色に焼けるまでトースターに入っているパン(イングリッシュマフィン)の例え。プールや海岸で、サングラスをして昼寝をしている人々の光景が目に浮かびますね。
 
 イングリッシュ・マフィンという名称を意識したのは本日初めてです。これは丸形のパンで、イングリッシュ(英国風)という名前にもかかわらず、米国のパンだそうです。水平に半分に切り、ジャムを塗ったり、ピザ風、オープンサンド、甘いお菓子風にしたり、といろんな食べ方が楽しめるよう
 ですよ。
 (料理に興味のある方は以下のサイトを覗いてみてください
     http://www.pasconet.co.jp/products/mafin_seri.html)
 
 ここまでコーラスも登場しますが、どうもポールの多重録音のように聞こえます。
 
 次は、短いけれど、アートの歌声。
 時折ポールのギターは、フラメンコギター奏法のように四本の指で、力強く連打するストロークになります(フォークギターでもよく使います)。
 
  Ah, South California
  ああ、南カリフォルニア
 
 第三コーラスではアートのバックコーラスが小さく聞こえます。
 なんとなくしみじみしてしまうのが第三コーラスの前半。
 
  If I become a first lieutenant
  僕が中尉になったら
  Would you put my photo on your piano?
  僕の写真を君のピアノの上に飾ってくれるかい?
  To Maryjane
  メリージェーンへ
  Best wishes, Martin
  心をこめて、、、マーチンより
 
 徴兵で兵士になった男性から恋人(妻)への手紙の末文です。軍で出世したら写真を飾ってくれるかい? 写真などはじめから飾ってくれそうですが、昇格するとそれだけ前線に出る可能性があるから、死を予感して、お別れの思いを込めた悲しい手紙なのかも、と想像します。
 
 法に従って前線の兵士になった男と対照的に、徴兵を拒否した人物が登場します。ここではポールの歌声がやや小声になり、ドアを開ける音などが効果音で使われています。
 
  (Old Roger draft-dodger 
  (あの徴兵忌避者ロジャーが
  Leavin' by the basement door),
  地下室のドアから出てくるぞ)
  Everbody knows what he's
  みんな知っているのさ、奴が
  Tippy-toeing down there for
  こそこそとあそこに降りていく理由は
 
 歌の後は、伴奏と全く同じ曲想と口笛による演奏。そしてフェイドアウト。歌終了後、ポールが「Oh really ?」(本当かい?)と誰かに返事しながら問いかけている声が聞こえます。ロジャーの顛末話を聞いた、という演出でしょうか?
 
 西海岸への東海岸側の人間からの皮肉?ってなんだろうと考えました。タイトルからして謎です。punkyは、よた者や未熟者を意味し、dilemmaは日本語でもわかる通りジレンマ、二者択一に困てしまっている状況ですね。「ジレンマに陥っている小市民」と解釈できそうなタイトルで、徴兵に悩む
 若者の葛藤を歌っているのかもしれません。
 
 そうだ!
 西海岸の人々のように、おおらかに物事をとらえられればいい、というある手の憧れと、俺はそんなに脳天気ではないぞ、という軽蔑の両面の心が根底にあり、それをコンフレークやイングリッシュマフィンに例えて歌った。ひとときの休暇(徴兵中、前?)を西海岸で過ごす空想と交差させている。こう考えてみましたが、いかがですか?
 
 明るく気持ちの良いメロディと対照的に、切なくて悲しい意味合いを込めた詩との見事なバランス。アルバム「旧友」のテーマにもぴったりと合っています。口笛がなかなかいい味を出しています。ギターも相変わらずカッコイイですし。
 
 この歌は、「モンタレー国際ポップスフェスティバル」の第一回大会(1967年)で、演奏されました。派手なバック伴奏を伴う他の歌手やバンドの中でサイモン&ガーファンクルのギターだけによる演奏は逆に新鮮に聴衆に受けとめられ、絶賛の拍手を浴びたと言われます。当時のコンサートでは必ず演奏したほどサイモン&ガーファンクルお気に入りの作品だったのでしょう。

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