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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
Vol.39 2003年9月18日(木)
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ワン・トリック・ポニー
One Trick Pony
アルバム「ワン・トリック・ポニー」第3曲
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今日はアルバム、そして映画のタイトル曲「ワン・トリック・ポニー」です。
ワン・トリック・ポニーって題名を最初聞いたとき「変な題名」と正直思いま
した。深く考えなかったけれど、とっさに「奇術の馬」を連想しました(トリ
ックだからねぇ。関係ないって?)。もちろん全く無関係。一つの芸だけをす
るポニー(小さな種類の馬)のことでした。
一つの芸=一芸。日本語では「一芸を極める」という言葉がある通り、秀でた
芸のこと。つまり達人だけができる優れた芸です。この歌も、歌詞のみを読み、
無理矢理こじつければ、「一芸を極めたりっぱな馬」と解釈できなくはありま
せんが、映画のストーリーと照らし合わせるとそうではなさそうです。
映画の主人公は馬ではありません(当たり前だ!)。ましてやサーカスを舞台
にした愛とロマンスのお話でもありません。ポール・サイモン自ら演ずる物語
の主人公は、かつて活躍したロックンロールのシンガー。彼は1960年代に一
世風靡したスターなのですが、今は第一線から外れ、仲間とバンドを組んで地
方のクラブまわりをしています。
落ちぶれたスターのどさまわり。どさまわりを共にするメンバーたちはポール
以外に4人。リチャード・ティー(キーボード)、スティーブ・ガッド(ドラ
ム)、エリック・ゲイル(ギター)、トニー・レヴィン(ベース)。ロック好
きのオヤジ(失礼!)なら誰もが知っている(はず)蒼々たる面々ですね。
彼らがいくら映画における役とはいえ、雀の涙ほどのギャラのためにクラブ回
りをして生活費を稼いでいるわけですが、映画を見て、違和感を感じてはいけ
ませんぞ(笑)。
話が映画に及ぶと前置きが長くなるので、肝心の歌に話題を移します。
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この歌、飛行機で目的地に着いたポールらのグループはホテルにチェックイン
後、雇われたクラブへ向かいます。そこでの演奏の第一曲がこれ。CDでもラ
イブで収録されています。
ベースギターの歯切れのよい音が印象的な前奏。そのノリのいい前奏に続くポ
ール・サイモンのヴォーカルは、サイモンとガーファンクルのポールのイメー
ジではない別のポールです。
One Trick Pony
He's a one-trick pony
あいつはワン・トリック・ポニー(一芸の馬)
One trick is all that horse can do
一芸がすべて、でも、馬なら皆できる芸
He does one trick only
あいつはひとつの芸しかしない
It's the principle source of his revenue
それがやつの主な収入源
And when he steps into the spotlight
でも、スポットライト内に現れれば
You can feel the heat of his heart
君も感じるはずさ
Come rising through
あふれ出る、あいつの熱い心意気
そのポニーはひとつの芸だけで飯を食っています。馬なら皆できる芸なわけで
すから別段珍しくもない。「またかよ〜」って感じで皆に飽きられそうです。
でも、歌の語り手は一目をおいています。ステージに登場したとたんに、観客
すべてを虜にする見事な芸を見せるからです。
See how he dances
あのダンスを見てみなよ
See how he loops from side to side
ステージを墨から墨へ駆け巡る姿
See how he prances
意気揚々とした歩き方
The way his hooves just seem to glide
まるで蹄のスケートじゃないかい?
He's just a one-trick pony (that's all he is)
やつはワン・トリック・ポニー(ただそれだけ)
But he turns that trick with pride
でも、体を張って芸を売る姿は誇らしげ
この第二コーラスでは、ポニーの芸の素晴らしさを具体的に説明します。彼は
一芸に命をかけているし、芸を極めることに対しプライドを持っている。まさ
に体を張って生きているのです。
「他のことはなにもできないが、これだけは負けねぇ……。」
といいながら寡黙に仕事を続ける職人を思い起こさせますね。
サビの部分で彼の芸の素晴らしさをポールは高らかに賛美し歌い上げます。そ
して、語るように続くのは彼自身のつぶやき。
He makes it look so easy
いとも軽々と
He looks so clean
洗練された
He moves like God's
神のような動き
Immaculate machine
まさに精巧なマシーン
He makes me think about
考えさせられるんだ
All of these extra moves I make
僕の余計な行動
And all this herky-jerky motion
ぎこちない動き
And the bag of tricks it takes
鞄一杯に芸を詰め込んで
To get me through my working day
忙しい仕事の一日が過ぎる
One-trick pony
ワン・トリック・ポニー
一芸を見事に極め、プライドをかけて毎日真剣勝負。そのポニーに比べ、自分
はとても極めたとは言い難い芸をあれこれ揃え、それを使うことで毎日を過ご
している。はたして自分はこれでいいのか。もっとスリムにパワフルに生きら
れないのか?とつぶやくよう。まさに自問自答です。彼は心の底でワン・トリ
ック・ポニーに憧れているのです。
短い間奏はギターソロ。エリック・ゲイルのギターが冴えています。歌は、第
三コーラスになります。
He's a one-trick pony
やつはワン・トリック・ポニー
He either fails or he succeeds
うまくいく日もあれば、失敗する日だってある
He gives his testimony
報告が終われば
Then he relaxes in the weeds
やっと草の中でリラックスさ
He's got one trick to last a lifetime
一生を一芸に捧げる
But that's all a pony needs (that's all he needs)
でも、それが馬の宿命
この後再び間奏、そしてサビ、第三コーラスが続き、以下の繰り返し。
One-trick pony, one-trick pony
One-trick pony, one-trick pony
One-trick pony (take me for a ride)
ワン・トリック・ポニー(乗せてくれよ)
One-trick pony
コーラスにかぶさりリチャード・ティーが"take me for a ride"と歌うのが、
アクセントになっていていいですね。
あっけなく終わるエンディング。拍手が入っているのがライブっぽいですね。
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おちぶれたスターはかつての自分の栄光を忘れてはいない。でも、自分がレコ
ード界から取り残されたあわれな存在であることも自覚しています。時代は変
わりロック界も変わった。流行のレールから外れもどかしさを感じながらも彼
は独自の道を歩みます。彼はかつて自分をスターにした60年代のロックシー
ンと、現在(映画の場合は1970年代後半)のロックシーンとの狭間にいます
。彼はどちらへもいけない宙ぶらりんの状態にいることを薄々感じています。
なすすべもないのです。
彼には彼の音楽しかできない、というより、しないんですね。流行に迎合しよ
うなんて気持ちは起きません。たとえ日々の暮らしに困ろうとも、自分の音楽
の最低限のプライドは守っています。他人から「ワンパターン」とか、「時代
遅れ」と揶揄されながらも。それが彼の生き方であり、ロマンでもあります。
ここまで読めば、おわかりになったでしょう?
ポール・サイモンはこうした主人公ジョナの生き方を「ワン・トリック・ポニ
ー」のポニーの生き方に重ねているんですね。
擬人的な考え方をすれば……、
ポニーは多芸な馬を見に来る見物人の心をつかもうなんて思っていません。こ
の歌の語り手のように、たったひとつの芸しかできなくとも、彼を見に来る見
物人さえいてくれればいいのです。その希有な見物客のために自身の芸を磨き
極め披露するのです。必ずしもお金だけのためではなく、彼のプライド、そし
て観客の喜びのためだけに……。
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