Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.41  2003年10月22日(水)

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 オー・マリオン
 Oh, Marion
            アルバム「ワン・トリック・ポニー」第5曲

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この曲は、映画のポールが息子と共に遊ぶシーンで流れた子供と無邪気に遊ぶ
場面で流れます。野球、映画、ゲームに遊ぶ父と子。別れた夫婦、そして彼ら
の子供との哀しい交流が映画の要所要所で描かれます。でも、この歌が流れる
シーンにおけるポールと男の子の雰囲気は暖かくて、微笑ましく、そして泣け
てきます。

一方、歌は彼が別れたかつての妻に対する独白のように聞こえます。タイトル
もズバリ彼女の名前マリオンですし。

男という生き物が女性から見るとどうしようもなくだらしのない人種であるこ
とを自ら皮肉り、自暴自棄に語る歌です。

ノリの良い前奏、ギターのフレーズがカッコイイです。この歌、何風という表
現はできません。もっともポールの歌は、このアルバム以前から既にジャンル
を区分けできなくなっているけれど、特に表現が難しいです。ブルース、ジャ
ズの要素が複雑に絡み合い、メロディも難しいものになっています。

  Oh, Marion

  The boy's got brains
  男だって脳はある
  He just don't use 'em that's all
  使わない、ただそれだけ
  The boy's got brains
  男にも脳はあるんだ
  He just refuse to use 'em and that's all
  使うのを拒むんだ
  He said "the more I got to thinkin
  男はつぶやく。「頭を使わなければなくなると、
  The less I tend to laugh"
  無性に笑いたくなる」と
  The boy's got brains
  脳はあるけれど、
  He just abstains
  使うのはゴメンだね、と言う
  
いきなり脳の話です。脳とは生物学的意味あいの脳というより、理屈を考える
頭脳のことを言っているのでしょう。「当たり前のこと。考えてみればわかる
でしょう?」ってあなたのパートナーに言われた経験のある男性、たくさんい
るのではないでしょうか。言い訳がましいけれど男は理屈っぽい面と、全く信
じられないような子供じみた行動をする面、両面をもっています。それをポー
ルはあっさりと、はっきりと、詩に表現しました。つまり、男は本能のままに
生きている、ということかも。そして次は心臓です。

  The boy's got a heart
  男にも心臓はある
  But it beats on the opposite side
  でも心拍方向が逆なんだ
  It's a strange phenomenon
  おかしな事象さ
  The laws of nature defied
  自然法則に逆らうんだから
  He said "its a chance I had to take
  奴はいう「チャンスさえあれば、
  So I shifted my heart for it's safety sake"
  できれば正常に戻したいんだ」と
  The boy's got a heart but it beats on
  心臓はある、でも今は
  His opposite side
  逆流するんだよ
  
心臓と生物学的な表現が出てくるけれど、これも象徴ですね。心のことをいっ
ているに違いありません。血液が逆流すればろくなことがないのは当然ですか
ら、生きているのだって不思議です。心は思っている方向へではなく、逆方向
へいく。まずいと自覚しているけれど、どうしようもない。理性では解決でき
ない心の拠り所のようなものですね。

難しい書物でもないただの歌の歌詞なのに、 phenomenon(現象、事象)なん
て言葉が出てくるのも驚きです。ここまで、ジャンル不明のメロディ展開と、
和音、そして伴奏が続きます。サビは比較的馴染みやすいメロディが現れます。
ポールのファルセットもなかなか味があります。バックコーラスもポール自身
のようですよ。

  Oh, marion,
  おお、マリオン
  I think I'm in trouble here
  もう駄目だ
  I should have believed you
  君を信じなきゃならなかったとは思う
  When I heard you saying it
  君がそう望んでいたからね
  The only time
  ただいえるのは、あの頃は
  That love is an easy game
  愛はたやすいゲームだった時代
  Is when two other people
  君と僕、他人同志の二人が
  Are playing it
  愛で遊んでいたんだ
  
かつての女房への言い訳です。夢のような恋愛時期から、結婚という実に現実
的な日常の中で、男は時にはその生活の煩わしさを感じるようになります。そ
してかつてあれほど愛したパートナーの存在さえも次第に煩わしいものになる。
そんな哀しみをこのサビの部分でポールは表現しています。愛し合い燃えたあ
の時間は、二人で単にゲームをしていただけ(?)。あまりにクール、あまり
に虚しい。でも、男と女の関係がいかにはかないものかを、歌が語っています。

次の詩もはっとさせられます。声が真実を語らないとは……。

  The boy's got a voice
  男にも声はある
  But the voice is his natural disguise
  でもその声は、彼の本性、そしてごまかし
  Yes the boy's got a voice
  そう、男にも声はあるけれど
  But his words don't connect to his eyes
  言葉は彼の心の目を語るわけじゃない
  He says "oh, but when I sing
  彼は言う「オオ、でも歌なら
  I can hear the truth auditioning".
  偽りのない心を自分でも聞けるのに」
  The boy's got a voice
  男には声がある
  But the voice is natural
  でも声が語るものは、彼自身

間奏のフリューゲルホルン(オーボエの親分のような楽器)のイカすメロディ
とポール自身のファルラルラルラの競演が妙に心に染みます。また終盤で出て
くるトランペットの音色も味があり、少し地味ですが、この歌はなかなか存在
感がありますね。

リズミカルなパーカッションとベースの演奏に比べ、コード進行とメロディが
少し怪しげ。しかも切実な内容なのに、それほど深刻さを感じさせず、コミカ
ルにさえ思える詩の展開。全世界の男の言い訳を見事に代弁している内容を知
ると男なら誰もが苦笑するに違いない。女性は顔をしかめるでしょう。そのば
つの悪さを、間奏のフリューゲルホルンとポールの競演が代わりにごまかして
くれているようです。かなり奥行きが深い歌ですよ、これは。



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