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SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン
Vol.27 2003年5月24日(土)
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「ナイト・ゲーム」 Night Game
アルバム 「時の流れに」第5曲 1975年
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妙に沈んだ感じのするこの「ナイト・ゲーム」。物憂げなポールの歌声とエレ
クトリック・ギターによるアルペジオの響きが頭に残ります。
Night Game
There were two men down
2アウト
And the score tied
スコアは引き分けだだった
In the bottom of the eight
8回の裏までは
When the pitcher died
でも、ピッチャーはやられた
down、diedなど、英語の歌詞だけ聞いていると、何か物騒ぎな雰囲気が漂い
ます。よく聞くとどうも野球のことを歌っているとわかり、少しホッとしま
す。
And they laid his spikes
選手らは死んだピッチャーのスパイクを
On the pitcher's mound
マウンドに置く
And his uniform was torn
奴のユニフォームは破れ
And his number was left on the ground
背番号だけがグラウンドに残った
といってもこの第二コーラス部分は悲愴感あふれていますね。死んだピッチ
ャーというのは極端な表現ですが、スパイクをマウンドに置き、運ばれてい
く彼のユニフォーム引き裂かれていて背番号の部分だけがグラウンドに落ち
る、なんて映画のシーンを見るようです。その昔漫画で「アストロ球団」とい
うのがあり、野球のゲームなのに、一試合で何人もの選手が討ち死にする壮絶
なストーリーに度肝を抜かれました。ちょうどあんな感じでしょう。
ここまでの曲調は6/8拍子と4拍子が混ざった少し変則的リズムであるもの
の、コード進行もちょっとだけジャズ的なだけでごく普通。沈んだ声を演出す
るのはやや低めのキーのメロディです。
ところが後半はとんでもないコード進行に変化していきます。よくこれだけ巧
みに転調させたものだと感心します。メロディとコード進行の変化に伴い歌詞
の内容もさらに怪しげな雰囲気へと変化していくのがおもしろいです。
Then the night turned cold
夜は急に寒くなった
Colder than the moon
月よりも冷たく
The stars were white as bones
星は白い、まるで骨のように
The stadium was old
古びた球場
Older than the screams
どの歓声よりも
Older than these teams
どのチームよりも
冷たい夜を「月」と「骨のような白い星」という表現を使うなど見事だと思い
ませんか。聞いているだけで身震いしてきます。歓声やチームより古い球
場、って何だろうと思いました。この古い球場は何十年もの間「数々の歓声と
野球のチームを見守ってきた」という意味なのでしょう。球場という施設その
ものに人生をダブらせています。ポール自身の野球場に対する深い愛情も感じ
られます。
不安げな曲調は再び冒頭の静かなムードへ戻ります。白熱したゲームはやがて
終わりシーズンも終了です。
There were three men down
3アウトチェンジ
And the season lost
シーズンは終わった
And the tarpaulin was rolled
防水シートがころがされている
Upon the winter frost
冬の霜の上で、、、
楽しかったシーズンの終わりに妙に寂しさを感じます。最後のライン「冬の
霜」が心に残りますね。
歌はいったん終了なのですが、ここで味のあるハーモニカの間奏が入ります。
素晴らしい!曲調としては月と星の箇所のコード進行と同じ、めまぐるしく変
わる和音に合わせたハーモニカのメロディはまさにジャズです。目立ちません
がベースギターのラインもエレクトリックギターのアルペジオをひときわ際出
せる渋い役割をはたしています。オクターブ上の声はきっとポール自身による
歌声なのでしょう。
大昔、スタジアムでは、戦士同士どちらかが死ぬまで闘う試合が行われていた
そうな。ポール・サイモンは野球というゲームに、同じ壮絶なイメージをダブ
らせています。「アストロ球団」ではないのですから、野球の試合で死に至る
ことなどないけれど、すべてのスポーツ、勝負の世界には必ず勝者と敗者がい
る。それは生と死を意味する。身近なスポーツが行われる「野球場」と、生と
死の闘いがくりひろげられる古代の「戦闘場」とをオーバーラップさせるため、
あたかも静かな葬式のような演出を曲に施したポール。まったく見事に私たち
を引きこみますよね。
また、競技そのものだけでなく、球場を主役に据えているのも、いい視点です。
球場を中心に行き来した地域のファンたち、年代を超えた人々の心がひとつに
なる象徴としての球場です。まさに「時の流れ」を感じませんか。
暖かくて、とってもいい歌です、、、本当に。
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