とても変わった人 A Most Peculier Man
「とても変わった人」についてのみホームページでしばらく公開できなかった理由。それはこの歌が一番心に残っていたからに他ならない。
最初に聞いた時期は正確に覚えていないけど中学2年生の頃だろう。まず「ガス自殺」をした人に対しショックを受けた。自殺という行為から無縁だった自分がいる。さらに人とコミュニケーションを絶つ人間がいることの信じ難さ。
人間のいかにも哀しい嵯峨が、大人になればわかる。特に現代社会ではとりわけ顕著だろう。
私たちは生きている。でも、ただ単に生きているだけで、人間が本来もっていたもっとも美しい人間関係、大小さまざまなコミュニケーションという点では希薄になっている。これはここ数年の傾向ではなく、ポール・サイモンが「とても変わった人」を書いた1960年代から次第に泥沼へと突入していったのだ。
印象的な、というより変な前奏。前奏のリズムにのり淡々と唱われる歌だ。
A Most Peculiar Man
He was a most peculiar man
彼は本当に変わった男だった
That's what Mrs. Reardon said and she should know
リアドンさんが言っていたんだ、彼女はよく知っているからね
She lived upstairs from him
だって彼の上の階の住人
She said he was a most peculiar man
リアドンさんがいうには、風変わりな男だったって
He was a most peculiar man
彼は本当に変わった男だった
He lived all alone within a house
いつもひとりきりで家の中にこもり
Within a room within himself
部屋の中、彼だけの中に住んでいた
A most peculiar man
変な男さ
He had no friends he seldom spoke
友達もいないしめったに口をきかない
And no one in turn ever spoke to him
彼に話しかけた人を見た人なんかいないし
'cause he wasn't friendly and he didn't care
だって彼は親しみやすさなんてなく、人に対して無関心
And he wasn't like them
普通の人とは全く違う人物なのさ
Oh no he was a most peculiar man
ああだから、変なヤツ呼ばわりされていた
He died last Saturday
あいつが先週の土曜日死んだってさ
He turned on the gas and he went to sleep
ガスの元栓を開けベッドに入った
With the windows closed so he'd never wake up
窓は閉め、二度と目覚めることはなかった
To his silent world and his tiny room
そのちっぽけな部屋から旅立ったのさ、静寂な彼の世界へと
And Mrs. Reardon says he has a brother somewhere
リアドンさんは言っていた、確か兄弟がいたはずだ、と
Who should be notified soon
急いで探さなくちゃって
And all the people said what a shame that he's dead
誰もがいう、死ぬなんてなんて馬鹿なことをしでかしたんだ!って
But wasn't he a most peculiar man?
でも、とにかく変な男だったね、と
いつも1人で他人との関係をもとうとしない。言葉も交わすこともない男。周囲の人々は、彼を奇妙な男だと思っている。変なやつ変なやつと陰口をいっている。そのうち、ガス自殺で死んでしまう。
周囲の人々は、「なんて事をしたんだ」と嘆きながらも、「でも本当に変な奴だった」とある意味、冷酷につぶやく。
彼の悩みや悲しみは誰も知らないし、知ることもできない。人は「馬鹿なヤツ」という言葉だけで切り捨てるだろう。でも、複雑怪奇な社会で、十分な人の愛を知らないまま、あるいは知っていてもそれが心に届かない人間は、多かれ少なかれ精神的に追い込まれるのである。もちろん彼自身の心の弱さもある。でも、一概に彼個人のせいばかりだともいえない。心の弱さだなんて誰が言える?それが難しいところだ。
こういう孤独心を満たすため自殺を企てる人、極端な対局にあるのが犯罪を犯す人だろう。一連の奇妙な殺人事件等(表立っていない多くの奇妙な事件も)は、心の病からくるものに違いない。もっとも多くは事件も起こさず俗世間の中で何らかの解決策を見いだし、ひっそりと生きているだろうが。
深刻な事情を、本当にあっさりと歌っているところが、サイモン作の歌らしい。そしてサイモン&ガーファンクルのデュエットに見事にはまっている。曲も淡々と進んでいるのが、妙におかしい。
当時、おかしな歌だと子供心に感じていたが、実はこんな現象は、昔からあったはずだ。社会から取り残された疎外感、孤独感。
人間の孤独をテーマにしたサイモンの歌は、いつの時代も私たちの心に、強いメッセージを送っている。
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