Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.46  2004年6月13日(日)

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  Long , Long Day 長く、長い一日
            アルバム「ワン・トリック・ポニー」終曲

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アルバム「ワン・トリック・ポニー」の最後の作品です。アルバムのラストに
あるということは、ポール自身が最も重要視ししている歌であることがわかり
ます。また、このアルバムと映画のテーマが凝縮されているともいえるでしょ
う。

映画で、ポール演ずるジョナは、この歌を二度歌います。

一度目は、レコードプロデューサーに呼ばれ、彼の前で持ち歌を披露する場面。
エレクトリックギターを抱えるジョナは、まず、「エース・イン・ザ・ホール」
を歌います。電話が鳴り何度か中断させられた後にこの「ロング・ロング・デ
イ」。アンプなしのギターを弾き語るポールの映像はしみじみとして、とても
いいものです。できればこのしんみりとしたバラードをじっくり聞きたいけれ
ど、プロデューサーは、非情なことに再び中断させるのです。二十位以内に入
るには、強烈な歌でなければ(Strong Materialと彼はいう)ならない。バラー
ドでは弱い、というのが彼の持論でした。

二度目はクラブでバンドをバックにした生演奏。CDに入っているヴァージョ
ンと違い女性ボーカルなし。ここではリチャードがポールとデュエットしてい
ますが、女性ボーカルの時の歌詞は入っていません。

三拍子の彷徨うような前奏。渇いたギターの音色と、ベースの動きに注目して
ください。
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  Long Day, Long Day 長く、長い一日

  It's been a long, long day
  長い一日だったよ
  I got some run-down shoes
  靴はボロボロ
  Ain't got no place to stay
  休めるところが欲しいんだ
  But any old place will be okay
  どんな古宿でもいい
  It's been a long, long day
  本当に長い日だった

  Good Night
  Good Night
  Oh my love

shoesの箇所はポールのファルセットです。一日働き続けた主人公は、くたび
れ果てています。労働で疲れたのか、精神的ダメージによるものか、定かでは
ないけれど、「どこでもいい、眠れるとこなら」という感じの気持。たぶん、
この歌の主人公もミュージシャンで、それも旅回りが続いている。のでしょう。

「おやすみ」という相手は遠くにいる妻か恋人か、または別れたかつてのパー
トナーを想像し心の中で呼びかけているのでしょう。

ポールは、先にメロディを作り、詩を後でつける曲作りをすることも多いと語
っているけれど、この歌は、メロディと詩が同時に湧き出たような感じがする
ほど、ぴたりと合っています。It's been a long, long day、ローング、ロー
ングデイの部分などは絶妙のバランスです。
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次のラインは、ミュージシャンとしての道のりについてのつぶやきです。

  I sure been on this road
  この道でやってきて…
  Done nearly fourteen years
  もう14年になるね
  Can't say my names well known
  有名になったとはいえないし
  You don't see my face in Rolling Stone
  ローリング・ストーン誌に顔が載ることもない
  But I sure been on this road
  でも、この道を歩いてきたことだけは真実

  Good Night
  Good Night
  my love

檜舞台に出ることのないミュージシャンは大勢いる。脚光を浴びるのはほんの
わずかなチャンスをものにした人々だけです。他は、日々の糧のために四苦八
苦し、もがきながら生きているのでしょう。ただ音楽を仕事としているという
誇りは皆同じ。I sure been on this road. 自信をもって「この道一筋やって
きた」と語れる人はどれほどいるでしょうか、どんな職業でも。2年や3年で
はなく、14年続けるのは、並大抵の努力ではありえません。
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サビでは、女性ボーカルが登場します。別の歌詞が重なるのですが、歌詞カー
ドには記載されていません。http://www.paulsimon.comにも載っていませ
ん。また、私の乏しいヒアリング力では理解できません。どうも、うらびれた
バーの一角で、見ず知らずの女と男が出会っているようなシーンが目に浮かび
ます。

サビの歌詞は訳不能なので、英文だけ記載します。明らかに女性のボーカルが主
メロディであることがわかります。ポール担当の次のフレーズは、女性ボーカ
ルの歌を補う断片的イメージの役割でしょう。二人のボーカルは、cornerでユ
ニットとなります。知らない同志が意気投合した、そんな感じでしょう。二人
はこのバーで各々孤独に飲んでいる。孤独同志がお互いの心を慰めるために、
二人は目線を相手に注ぐ。その様子をshooting to killという物騒ぎな表現で
表しているように思えます。50セントは、ジュークボックスに入れるコイン
でしょうか。

  Slow motion
  Half a dollar bill
  Jukebox in the corner
  Shooting to kill
  And its been a

アルバムでは女性ボーカルの脇役のようなポールのソロも、映画では、はっき
りとメインになっています。リチャードがボーカルに加わり、色を添えていま
す。
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最後のコーラスもこれまた意味不明です。彼は友を利用しなかったのでしょう
か。利用するのは姑息な手段だと考えていたのか。または、利用してしまった
のか。

たぶん利用したわけではないけれど、結果的に友たちの心を傷つけ、友情が崩
壊してしまったのでしょう。

その理由は、映画後半のストーリーと深く結びついています。

ジョナは、紆余曲折あったものの、新曲レコーディングというチャンスを得る
のです。彼は自分のバンドをバックにレコーディングしたかった。ジョナが、
業界からコンサートの誘いを受ける時、彼は決まって「私のバンドで出たい」
と申し出ます。しかし、その思いを受け入れられることはない。「エース・
イン・ザ・ホール」のレコーディングでは、一応バンドメンバーたちの参加も
認められるものの、実際には、リードギターソロもカットされたり、その他さ
まざまな制限を受けます。バンドメンバーたちのプライドはずたずたにされる
わけです。静かに怒るバンドメンバーたちと、プロデューサー側との間にはさ
まり困惑するジョナの哀れなこと。

レコードは出したい。一旗あげたい。でも、その代償として友を失う。彼にと
ってバンドメンバーたちは音楽を一体で表現できるかけがえのない存在だった
のです。彼らの心を踏みにじることなどできるはずはないんです。

  It's been a long, long day
  長い一日だった
  I sure could use a friend
  友を利用することもできたはず
  Don't know what else to say
  他になんていえばいいんだい
  I hate to abuse an old cliche
  使い古された言葉は使いたくないんだ
  But it's been a long, long day
  It's been a long, long day

ここでの、long dayとは、長い一日ではなく、彼の音楽人生のすべて、そして、
仲間たちと共に音楽してきた日々すべて。確執、葛藤、絶望、失望、彼のすべ
ての時(時間)がこの一日で無になってしまった。だから疲れ果て、身も心も、
靴もボロボロなのです。

Don't know what else to say
I hate to abuse an old cliche

この2ラインはますますわからなくなります。ヴィクトリア・キングストン著
「サイモン&ガーファンクル伝」(邦訳なし)には、この部分は、歌の主人公
ではなく、歌の作者ポールのモノローグだと書いてあります。クライマックス
用に選ぶべき言葉があまりにありふれたものしか思いつかない苛立ちです。だ
からI hate to abuse an old clicheとつぶやくのです。

行き場を失った言葉、ポールの思いは彷徨いながら、再び題名を二度繰り返す
ことで、曲を締めくくっているような気がします。
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なんてポールのアルバムの最終曲はいつも意味深なんでしょうか。そして、こ
の Long, Long Day の寂しさはいったい、なぜでしょう。

見事なバラードです。リチャード・ティーの控えめなエレクトリックピアノ、
ジョー・ベックの味のあるリード・ギター、静かな主張のあるトニー・レヴァ
インのベース、スティーヴ・ガッドのしっとりとしたドラム、ファルセットが
冴えるポール、そして二人のシンガー(パティ・オースチン、レイニー・グロ
ーヴ)によるバックコーラス、効果的なオーケストラアレンジ、そしてなんと
いっても考え込むようなポールのヴォーカル、パティ・オースチンとのデュエ
ット。

「ワン・トリック・ポニー」は映画です。ポール自身によるシナリオと企画で
制作されたフィクションです。でも、私はこれが単なるフィクションに思えな
いのは、ポールが主役を演じているせいだけでなく、映画全体に漂うものが、
ポールの音楽人生における経験からのエキスのように思え、生々しく感じるか
らです。決してハッピーな気持になれないこの作品を、何度も見てしまうのは
そのエキスから何かを感じ取りたい共有したい。共有するのはポールが仲介役
となる広い意味での「音楽の世界」ロックだのポップスだののジャンルを超え
た音楽そのもの。

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