Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.37  2003年8月24日(日)

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 追憶の夜 Late In The Evening
            アルバム「ワン・トリック・ポニー」第1曲

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前作「時の流れに」以来実に五年ぶりの新アルバム。しかもポール自ら台本を
書き主演をした映画と同タイトル「ワン・トリック・ポニー」。ということで、
このアルバムはそれまでと少し意味合いが違うような気がします。映画を主体
に考えるとこれはサウンド・トラックということになります。現に英文歌詞が
掲載されているジャケット兼リーフレットには映画からのカットが入っていま
す。

映画は日本では非公開だったようですから(ようです、と書くのは私自身「時
の流れに」以後しばらくポール・サイモンの音楽から遠ざかったためこのアル
バムの存在も映画の事も知らなかったからです)、このアルバムを日本のファ
ンたちは映画とは切り離して聞かざるを得なかったでしょう。実際当時リアル
タイムで「ワン・トリック・ポニー」を手にしたファンの皆さんの心境はどん
な感じだったんでしょう?米国まで飛んでいって現地で映画を見たという熱烈
ファンもいるかもしれませんが、ほとんどは悔しい思いをしながらあきらめざ
るを得なかったんでしょうね。

アルバムの第一曲として聞こえてくるのは「追憶の夜」Late In The Evening。
ポールのソロ曲のレパートリーの記憶が途中からすっぽりととぎれている私で
もこの歌は知っていました。そう、サイモン&ガーファンクルの「セントラル
・パーク・コンサート」でポールが歌っていましたね。この曲、あの復活コン
サートで聞いたとき古くからのS&Gのファンは唖然としたに違いありません。
ポールの歌ではあるけれど、およそ想像を絶する曲想です。リズミカルで、ノ
リがいい作品ですが、これを作り歌っているのがあのポール。「え?」って感
じですよね。

昔話はこれくらいにして曲について説明を始めましょうね。

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  Late In The Evening    written by Paul Simon

  The first thing I remember
  最初に思い出すのは
  I was lying in my bed
  ベッドに横になっている僕
  I couldn't of been no more
  Than one or two
  まだ1〜2歳の小さな頃のこと
  I remember there's a radio
  確かラジオがあって
  Comin from the room next door
  隣の部屋のドアから聞こえてくるのは
  And my mother laughed?
  ママの笑い声
  The way some ladies do
  女の人特有のあの笑い方でさ
  When it's late in the evening
  それは深夜のこと
  And the music's seeping through
  音楽がいつも流れていた

前奏だけを聞いてもほれぼれとします。ギターとベースが単音リズムきざみの
同じフレーズを弾くという珍しいアレンジ。ドラムのパンチがきいています。
控えめなバックコーラスも効果的です。ポールのまるで喋っているようなヴォ
ーカル、一語一語ていねいな発音、言葉が滑らかに聞こえます。時々音程をは
ずすのも粋ですね。

場面は主人公が幼い頃。I couldn't of been no more than one or two1の
部分は正直言って意味不明だったのですが、訳詞を参照して1歳か2歳の頃と
しました。この年齢の頃の記憶って残るものなのか、自分を例にとるとまった
く信じられないんですが、まあ、とにかく幼い頃って意味でしょう。お母さん
が隣の部屋で笑っている。「キャハハ」「オホホ」、古きよき時代のアメリカ
の女性は普通どんな風に笑ったんでしょう?こういう場面にお母さんがさりげ
なく登場するのがポールの詩の暖かさです。ラジオが流れていた。そう音楽と
いえばラジオだった、そんな時代です。music seeping throughという言葉
が見事!音楽が何気なくいつも空気のように漂い、料理の匂いみたいに隙間か
ら入り込んできたみたいです。

歌はほとんど語り口調、終始ギターとベースの単音リズムきざみのフレーズ。
時折横入りしてくるさまざまなパーカッションが面白いです。

  The next thing I remember
  次に思い出すのは
  I am walking down the street
  通りを歩く俺
  I'm feeling all right
  最高の気分でね
  I'm with my boys
  友達をひきつれている
  I'm with my troops, yeah
  そう俺の一味を従えて歩いてるみたい
  And down along the avenue
  道を渡ると
  Some guys were shootin pool
  ビリヤードに遊んでいる奴らがいる
  And I heard the sound of a cappella groups, yeah
  ア・カペラグループの歌が聞こえてきた
  Singing late in the evening
  夜中の歌声
  And all the girls out on the stoops, yeah
  女の子たちはみな家から飛び出てきた

次は少年時代の主人公。自分の一味を形成して街を意気揚々と歩く光景です。
子供の時代ならちょっとませた男の子はだれもがボスになりたい願望があっ
たはず。喧嘩に強い弱い、体が大きい小さいは関係なく、意外に口の達者な
子が子分を従えて一味を作れたんですね。ポールの分身がそんなボスになり
街を歩く光景です。ビリヤードに遊ぶ少年やハモって歌を歌っている少年ら
がまるでその街を征服しているような様子が微笑ましく目に浮かびます。そ
れにしてもこんな夜中の歌声、親たちから叱られなかったんでしょうか?
バックには控えめにアコースティックギターが加わります。

さてギターを覚えた彼は大人の世界に混じってイケナイ事を覚え始めます。こ
のコーラスよりリードギターが活躍。歌と共に渋いリードギターを楽しみまし
ょう。

  Then I learned to play some lead guitar
  それからリードギターを少し練習して
  I was underage in this funky bar
  未成年なのにファンキーなバーに入り浸り
  And I stepped outside to smoke myself a "J"
  マリファナを吸いに外へ出た
  And when I came back to the room
  バーに戻ると
  Everybody just seemed to move
  お客は皆家に帰るみたいだったんで
  And I turned my amp up loud and began to play
  俺はアンプの音を思い切り上げて、弾き始めた
  And it was late in the evening
  夜中のこと
  And I blew that room away
  その部屋をビンビンいわせてやった

ギターを弾くのが目的の少年は、お客がいなくなった後にアンプの音量を上げ
て一人大きな音で弾くのが目的だったんですね。それほどギター、そして音楽
にイカレていたわけです。この部分ギターソロの歌が見事なデュエットになっ
ています。コーラスの終わりからブラスがフェイドインしてきます。この後の
ブラスが主役の間奏は本当にカッコイイの一言。この歌の目玉でしょう!

  The first thing I remember
  はじめに思い出すのは
  When you came into my life
  君が僕の人生に現れた時のこと
  I said I'm gonna get that girl
  No matter what I do
  「あの子は絶対に僕のもの」ってすかさずつぶやいた
  Well I guess I've been in love before
  それまでにも恋をしたことはあるし
  And once or twice been on the floor
  うちのめされて床に伏したことも一度や二度はある
  But I never loved no one?
  The way I loved you
  でも君ほどイカれたことはない
  And it was late in the evening
  それは夜中のこと
  And all the music seeping through
  いつも音楽は流れている

                        (迷訳:musiker)

バックにブラスも加わった最後のコーラス。これは最後ではあるけれど最初、
そして歌のメインでもあります。歌詞では再び The first thing I remember
になっています。彼女との出会いが主人公には最も大切でドラマチックな出来
事だったわけです。そして最後のフレーズ、そう、ここでも音楽が流れている。
しかも、今度は All the musicなのです。
(ここの文脈、興奮気味に書いているので、意味不明かも?)

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幼少から少年、青年、そして恋人との出会いまでの男の成長を飾らない言葉で
の表現。しかも音楽が常に人生の友のようにいつも一緒に歩いてきたと、まさ
にポールの独壇場ともいえる詩には感服です。しかも「ボクサー」「ダンカン
の歌」のような哀愁帯びた雰囲気ではなく、抜群のクオリティのバックバンド
に乗って思わず踊りたくなるような、楽しく力強い音楽で聞かせてくれます。

また、米国という場面設定ではありますが、この歌を聞いていると聞き手の頭
にも自分の思い出、音楽との出会いなどが、映画のように蘇ってくるのは、日
本人の我々でも同じでしょう。

こういうパンチのきいた作品をいきなり一曲目に持ってくるなんて完全に降参
ですね(笑)。5年間のブランクはポールにまた一回り大きな音楽を授けてく
れたのだ、と改めて感じます。あ、もちろん私たちファンへの最高のプレゼン
トとして!


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