musiker21.com since Feb 2002 updated on 15 JAN 2003


「ご機嫌いかが?」 Keep the Customer Satisfied

 これ、サイモン&ガーファンクルの歌?
 
 最初聞いた時に正直、こう思いました。確かシングル盤の「明日に架ける橋」のB面に入っていた記憶があります。1〜2回聞いて、あとは聞くことがなかったなぁ。32年前の話ですけれどね。
 
 伴奏無しでいきなり始まる歌。
 
  Gee but It's great to be back home
  やっぱり故郷はいいなあ
  Home is where I want to be
  いつも故郷にいたいもんだ
  I've been on the road so long my friend
  なにしろしばらく旅に出てたからね
  And if you came along
  僕と一緒に旅に出てみれば
  I know you couldn't disagree
  君だって、この気持ちをきっとわかってくれるさ
  It's the same old story
  まあ、よくある話だけどね
 
 「よくある話だから、まあ珍しいことでもないか、、」
 ポールのつぶやきでしょうか。

 各コーラス後半は次のフレーズの繰り返しです。
  Everywhere I go
  どこへ行っても僕は
  I get slandered, Libeled
  誹謗中傷され
  I hear words I never heard in the Bible
  聖書にも書いていないような(とんでもない)言葉をきかされた
  And I'm one step ahead of the shoe shine
  僕は靴磨きよりワンステップほどましなだけ
  Two steps away from the county line
  州境から二歩進めば
  Just trying to keep my customers satisfied
  ただひたすら、お客様にご満足いただけるよう努力を続けるだけ
  Satisfied
  ご満足いただけるように
 
 有名であるために、どこへ行っても、どんな行動や発言をしても、陰口をたたかれる宿命。それを精一杯笑い飛ばして、じゃなくて歌い飛ばして(こんな言葉ないか?)、「お客様を満足させる」歌を書き続けるソングライターの心情が、ひしひしと伝わってきます。
 
 とんでもない言葉を「聖書にない言葉」と表現するなんて、さすがですね。よく、欧米の文学や詩、文化全体を理解するためには、聖書を読まなければならないと、昔聞かされました。ポール・サイモンの歌にもよくバイブルからの引用がありますし。この歌の場合は、まあ、聖書に対する一種の皮肉でもあるんでしょうが。
 
 第二コーラスでは、いきなり保安官が出てきて物騒ぎな様子
 
  保安官代理が言うんだ
  「きみぃ、何しに戻ってきたんだ
   鞄を持って、さっさと逃げなさい
   君には問題が巻き起こっているんだ
   ますます厄介なことに巻き込まれるから、とにかく行きなさい」
 
 故郷にも入れてもらえない、まるで厄介者扱い。まあ、ポールお得意のジョークなんでしょうが。
 
 第三コーラスでは、繰り返し部が、さらに高らかに歌われ、
 
  I' so tired
  ああ疲れた
  I'm so so so tiered
  本当に、本当に、本当に疲れた!
  Just trying to keep my customers satisfied
  とにかく、お客様にご満足いただけるよう努力を続けるだけ
  Satisfied
  ご満足いただけるように
  
 32年前に買ったアナログ版「明日に架ける橋」の解説文には、「デパートのキャッチフレーズみたい」と記載されていたことが妙に頭に残って、この歌は単なるにぎやかなサウンドの歌という程度の捕らえ方でした。その解説文では、さらに「いくらいじめられてもへこたれない主人公」と、まるで「ボクサー」の主人公と重ねていてウツクシク評価しようとしていた。でも、そんなきれい事ではない、少し投げやりな気持ちがこの歌の根底には流れていると感じます。(昔の解説文を読むと、やたらとサイモン&ガーファンクルの曲作りについて美談的観点から書いているものが少なくありません。こんな傾向は、洋楽に限ったことではなく、クラシックも同じですが、、。本当のファンは、もっと生々しいアーチストを知りたいはずです。彼らは人間として音楽を創出したのだから。)
 
 ポールはその投げやりな気持ちを、マイナス思考ではなく「お客様を満足させるしかないんだ(しょうがない、それが僕の仕事だから)」という商売の鉄則を宣言することで、笑い飛ばし、逆にストレス解消している。憎らしいくらいにカッコイイですね、むしろ。
 
 サウンドとしては、ダイナミックなブラスセッション、ベース、ドラム、そして恐らくポール一人の多重録音によるコーラスがきいていて、思わず踊りたくなりそうなノリ。
 
 最初に、「これサイモン&ガーファンクルの歌?」って疑問を感じたことなんかもうどこかへ吹っ飛んでしまいました。いやあ、気分爽快な歌です!何度もリピートして聞いてしまいます。

ホーム | クラシック音楽夜話 | サイモン&ガーファンクル | ベートーヴェン音楽夜話 | プロフィール