musiker21.com since Feb 2002 updated on 05 OCT


アイ・アム・ア・ロック I Am A Rock

日本語にすると「私は岩」という意味のタイトルである。変な歌だな。それが第一印象。
ギターによる短くシンプルな前奏。つぶやくように歌い始めるポール。

  ある冬の日
  深く暗い12月
  僕は一人
  窓から下の通りを見ている
  静かに降るまばゆい雪を
  僕は岩
  僕は島

寒い寒い冬、部屋に閉じこもっている主人公。窓から外を見ている。外の光景は彼にはどう映っているのだろう。

  壁を造ろう
  深く頑丈な要塞を
  貫けるものが何もないほどの
  友情なんていらない
  友情は痛みを生むだけ
  お笑い草だし、愛おしいほど軽蔑したくなる
  僕は岩
  僕は島

軽快なリズムに乗っていて、親しみやすい歌だが、内容は実に孤独だ。自分はひとりぼっちだと感じる事は、思春期やるせない時代には誰もが経験しているはずだ。そんな、やや「むくれ加減」の繊細な気持ちを、にぎやかなアレンジで、しかもさらりと歌うのだ。

  愛なんかを語るな
  そういえば前に聞いたことはあるけれど
  記憶の中でそれは眠っている
  そのまどろみを呼び覚ますつもりなどない
  死に絶えた感情など
  愛さなかったから
  泣くこともなかった
  僕は岩
  僕は島

ドラムとベース、キーボード、エレクトリックギターの伴奏が騒がしく妙に楽しげなことに驚く。孤独な気持ちが潜んでいることを逆に強調しているようだ。

  僕には本があるんだ
  僕を守る詩だって
  鎧甲が身を護ってくれる
  部屋の中に隠れ
  僕の母胎の中で安全に過ごすのさ
  人に触れることはなく
  人も僕に触れることはない
  僕は岩
  僕は島

  なぜなら岩は痛みを感じないし
  そして島は決して泣くことはないから
  

人恋しくて堪らない若者が(若者でなくとも、悲哀溢れる中年男性でもいいけど)、強がりを言っている歌です。結局最後の二行が最も言いたいこと。岩なら痛みも感じないし、島は決して泣きはしないから、と。こんなことを、人に話せば、相手にされなくなる。でも、歌なら、同じ気持ちを共有できる。不思議なことだ。

アルバム「サウンド・オブ・サイレンス」最終曲に収録されているこの歌は、フォークロック調のアレンジが、ポールの孤独な歌にパンチをきかせ、更にこの歌のもつ「寂しさ」を逆に際立たせたといえるのではないか。ポールのギターのみの演奏の方が数段良いと、コメントしがちの私も、「アイ・アム・ア・ロック」だけは、このアルバムバージョンが最も優れていると感じている。

ホーム | クラシック音楽夜話 | サイモン&ガーファンクル | ベートーヴェン音楽夜話 | プロフィール