アイ・アム・ア・ロック I Am A Rock
日本語にすると「私は岩」という意味のタイトルである。変な歌だな。それが第一印象。
ギターによる短くシンプルな前奏。つぶやくように歌い始めるポール。
ある冬の日
深く暗い12月
僕は一人
窓から下の通りを見ている
静かに降るまばゆい雪を
僕は岩
僕は島
寒い寒い冬、部屋に閉じこもっている主人公。窓から外を見ている。外の光景は彼にはどう映っているのだろう。
壁を造ろう
深く頑丈な要塞を
貫けるものが何もないほどの
友情なんていらない
友情は痛みを生むだけ
お笑い草だし、愛おしいほど軽蔑したくなる
僕は岩
僕は島
軽快なリズムに乗っていて、親しみやすい歌だが、内容は実に孤独だ。自分はひとりぼっちだと感じる事は、思春期やるせない時代には誰もが経験しているはずだ。そんな、やや「むくれ加減」の繊細な気持ちを、にぎやかなアレンジで、しかもさらりと歌うのだ。
愛なんかを語るな
そういえば前に聞いたことはあるけれど
記憶の中でそれは眠っている
そのまどろみを呼び覚ますつもりなどない
死に絶えた感情など
愛さなかったから
泣くこともなかった
僕は岩
僕は島
ドラムとベース、キーボード、エレクトリックギターの伴奏が騒がしく妙に楽しげなことに驚く。孤独な気持ちが潜んでいることを逆に強調しているようだ。
僕には本があるんだ
僕を守る詩だって
鎧甲が身を護ってくれる
部屋の中に隠れ
僕の母胎の中で安全に過ごすのさ
人に触れることはなく
人も僕に触れることはない
僕は岩
僕は島
なぜなら岩は痛みを感じないし
そして島は決して泣くことはないから
人恋しくて堪らない若者が(若者でなくとも、悲哀溢れる中年男性でもいいけど)、強がりを言っている歌です。結局最後の二行が最も言いたいこと。岩なら痛みも感じないし、島は決して泣きはしないから、と。こんなことを、人に話せば、相手にされなくなる。でも、歌なら、同じ気持ちを共有できる。不思議なことだ。
アルバム「サウンド・オブ・サイレンス」最終曲に収録されているこの歌は、フォークロック調のアレンジが、ポールの孤独な歌にパンチをきかせ、更にこの歌のもつ「寂しさ」を逆に際立たせたといえるのではないか。ポールのギターのみの演奏の方が数段良いと、コメントしがちの私も、「アイ・アム・ア・ロック」だけは、このアルバムバージョンが最も優れていると感じている。
|