Song, Paul Simon ソング・ポール・サイモン

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      SONG, PAUL SIMON/ソング・ポール・サイモン

         Vol.40  2003年10月14日(火)

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 想いこがれて
 How The Heart Approaches What It Yearns
            アルバム「ワン・トリック・ポニー」第4曲

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第四曲目のこの歌は、題名をどういう日本語にするべきかを悩みました。

直訳すれば「心はその望むものへどう申し出るべきか…」という感じでしょう。
(学生時代の直訳調でなかなか雰囲気が出ているでしょう?笑)
これだとわかったようでわからない。オフィシャルの題名は「想いこがれて」
となっているようで(私の手元に日本語版レコードがないので不明)、これは
雰囲気が出ていてうまい題名だと思います。私はもう少し具体的にしてみたの
ですが、いかがでしょう。

この歌が映画で流れる場面は、ポール扮するジョナが、旅先で知り合った女の
子と一夜を共にしホテルへ戻った早朝に、彼の別れようとしている妻に電話を
するところなのです。

「いやな夢を見て目が覚めたんだ。  (←嘘つけ!)
 無性に君の声が聞きたくなってね……」

と彼女にいう彼の台詞は女性からすれば理解不能かもしれません(なにしろ他
の女性と一夜を共にした直後ですからねぇ)。しかし男の心には一種の虚しさ
のようなものがあった、それをポールは表現しようとしています。

妻は何があったのか、執拗に問いかけるけれど、彼はただ「声が聞きたかった」
と繰り返すだけ。彼の心には何かとっても大切な「想い」が生まれたのですが、
その「想い」が何か、どうやって相手に伝えたらいいか、がわからないのです。
人を真に恋いこがれるとこんな状態になるものなんですね。

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と映画のストーリーの話はまた改めてするとして、この歌について語っていき
ます。

前三曲とは曲の雰囲気ががらりと変わり、素晴らしいバラードに仕上がってい
です。特にポールのナイロン弦ギター(日本流にいえばクラシックギター)の
フレーズが特に効いています。


  How The Heart Approaches What It Yearns
  想いをどううち明けようか

  In the blue light
  青い灯り
  Of the Beverly Motel
  ビヴァリー・モーテルの部屋
  Wondering as the television burns
  映りの悪いテレビのように彷徨っている
  How the heart approaches what it yearns
  この想いをどううち明けようか

冒頭で述べた通り、ホテル(歌ではモーテル)の一室。
第二コーラスもまさに映画のストーリーの通りです。

  In a fever?
  熱にうなされて
  I distinctly hear your voice
  君の声が無性に聞きたくなる
  Emerging from a dream, the dream returns
  夢は醒め、再び夢へ
  How the heart approaches what it yearns
  この想いをどううち明けようか

ここまでのしんみりとしたメロディとコード。しかしリズムが変則なことに気
が付きます。なんと8分の5拍子(ポールは8分の10拍子と呼んでいる)!
この新しい試みは彼の音楽指導者の薦めだったということです。

映画ではここで歌は終わるのですが、この歌のクライマックスはこの後のサビ
の部分です。

  After the rain on the Interstate
  雨上がりのハイウェイ
  Headlights slide past the moon
  ヘッドライトは月の前を横切る
  A bone-weary traveler that
  くたびれた旅人よ
  Waits by the side of the road
  道ばたで待ち続ける彼は
  Where's he going?
  どこへ行こうというのか

疲れ果てた旅人はポールそのものなのでしょうか。寂しい光景が目に浮かぶよ
うです。

リズムは8分の6へと転じ、メランコリックでしかもハイトーンのメロディが
とても印象的なサビに仕上がっています。間奏のナイロンギターソロの響きが
泣かせます。

  In a dream we are lying on the top of a hill
  夢の中、二人は丘の上に寝そべり
  And headlights slide past the moon
  ヘッドライトが月の前を横切る
  I roll in your arms
  僕は君の腕の中に
  And your voice is the heat of the night
  君の声は夜の熱
  I'm on fire
  僕は炎に抱かれる

夢の中の恋人との場面。セクシャルな描写なのですが、妙に寂しげな感じがし
ます。哀愁帯びたメロディが更に寂しさを増長させています。

  In a phone booth
  公衆電話ボックス
  In some local bar and grill
  見知らぬバーで
  Rehearsing what I'll say, my coin returns
  言い出し方を稽古しては、何度もコインを戻す
  How the heart approaches what it yearns
  この思いをどううち明けようか
  How the heart approaches what it yearns

電話ボックスでコインを入れ、相手が出るまでの間、言い出し方の稽古をする
ものの、ためらって受話器を置く。コインは戻ってくる。そしてもう一度コイ
ンを入れる。その繰り返し。言いたいことをどうやってうち明けるか悩む気持
ちは、昔も今も変わりはありません。

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寂しさ、行くあてのない哀しみ。ポールはこの歌で、人間が生きていく上で遭
遇する、あるいは経験する言葉では表現できない「心の彷徨い」のようなもの
を歌おうとしたのではないでしょうか。さまよう心は、愛する人、最も大切な
人へと向かうのですが、その人の心をつかむのは、言葉ではありません。あく
までも心。でも、真の心を相手に伝えるのは意外に難しいことを、語っている
ような気がします。

彷徨いを変則リズムという新兵器を投じて表現し、なおかつ寂しさをナイロン
ギターで表す。ポール・サイモンの音楽は新たな方向へと向かっています。

それにしても寂しい歌です……。


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