updated on 20 SEP 2004

ヒンデミット ウェーバーの主題による交響的変容(1943年)
Paul Hindemith Symphinische Metamorphosen nach Themen von Carl von Weber


最近とても気になる作曲家がいる。それは、ヒンデミット(Paul Hindemith 1895-1963)というドイツの作曲家だ。 元々彼は優秀なヴァイオリン奏者だった。フランクフルト歌劇場管弦楽団に入り、わずか3年でリーダーになったほど優秀な演奏者で、当時の代表的指揮者メンゲルベルグ、フルトヴェングラー、ブッシュ、シェルヒェンなどに認められた(これらの指揮者たちは後に彼の作品のよき理解者ともなる)。

オーケストラの一員としてだけでなく、ソリストとしても数々の名演奏を残した。ところが彼はやがてヴァイオリンではなく、ヴィオラに転向する。その後、彼は弦楽四重奏で活躍するが、第二ヴァイオリンやとりわけヴィオラの演奏を希望したという。この点がとても興味深い。

そして彼は作曲家としての方向を見いだし、数々の作品を書き残す。わずかの期間に膨大な作品を発表したことは驚きだ。しかもジャンルは多岐に渡り管弦楽、室内楽、声楽、交響曲はもちろん、色々な楽器のソナタを書いたのもヒンデミットの特徴だろう。特に管楽器とピアノのソナタは数多く、例えば「チューバとピアノソナタ」なんて珍しい組み合わせの曲があるのも驚きである。ヴィオラ曲も数曲ある。一般的には弦楽器ではヴァイオリンが主役だが、ヴィオラという地味ながらも、奥が深く、味わいのある楽器を好んだことは、注目に値するだろう。

彼は教育者としても優れた功績を残している。ヒンデミットが米国で教鞭をとっていた頃、あのバーンスタインが彼のもとで学んでいた。

と、書けば書くほど長くなる。ヒンデミットの事は改めて詳しく書くとして、彼の音楽に興味を持つきっかけとなった曲を紹介しよう。

それは「ウェーバーの主題による交響的変容」という作品だ。
奇妙な題名だ。1943年に、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団のために書いた作品で、ウェーバー(Carl Maria von Weber 1886-1826「魔弾の射手」などを書いた)の序曲やピアノ作品のテーマを借りて、ヒンデミット流にアレンジした音楽である。ちなみにMetamorphsen、英語ではMetamorphosisという言葉は、「変容」を意味する。変容とはわかりにくい言葉だが、つまり昆虫の脱皮のような意味だろう。だから、ウェーバーの音楽を拝借しているとはいえ、全く違う音楽に仕上がっているのではないだろうか。こうあいまいに書くのは、私はウェーバーの原曲を聞いていないからだ。

この音楽の特徴を一言で言えば管楽器と打楽器の活躍だ。管楽器をこよなく好んだヒンデミットらしいではないか。特にフルートの一風変わったソロが頭に残る。金管楽器の力強い音も素晴らしい。

第一曲では冒頭から怪しげなメロディが弦楽器で奏でられるダイナミックな音楽である。金管楽器と弦楽器との掛け合いも気持ちがいい。注意深く聞くと、両方が主役を演じているのがわかる。どちらも伴奏的役割ではないのだ。この点は、グレゴリオ聖歌におけるポリフォニー(すべての声部が違うメロディを歌い、それらが絡み合うことによって作り上げられる音楽の形式をいう)と似ている。

第二曲は、チャイムとフルートのソロで静かに始まる。やがて打楽器の導入と共に、弦楽器による主題。そして次々と管楽器に主役をバトンタッチしていく流れが圧巻だ。不思議なメロディだと思ったら、どうやら原曲でウェーバーが採用した「中国のうた」の旋律をもとにヒンデミットが自由にアレンジしているらしい。トロンボーンやトランペット、そしてクラリネット、オーボエなどと絡み合うところは、ジャズの匂いもする。曲の最後では、チャイムをはじめとするパーカッションが主役を演ずる。

第三曲は、クラリネットの哀愁を帯びたメロディで始まり、オーボエ、ファゴット、ホルンの掛け合い。弦楽器がひかえめに、管楽器をひきたてている美しいメロディもいい。メロディはやがて弦楽器へと移るが、やはり管楽器と弦楽器それぞれが主役を演じている。圧巻はこれらのメロディに伴って奏でられるフルート。このフルートソロだけでこの曲を聞く価値はある。

第四曲はマーチ風音楽である。冒頭のメロディがどこかシューベルトの「未完成交響曲」第一楽章を、そしてマーラーの「交響曲第三番」第一楽章を思い起こさせる。金管楽器の静かなファンファーレも気持ちがいい。コントラバス、打楽器が実に効果的に使われている。

オーケストラの楽器すべてに主役を与え、巧みに構成されたこの作品。はじめは「変わっているな?」という印象をもつかもしれないが、聞き続けると病みつきになるかもしれない。演奏時間トータルで20分と、気楽に聞けるのも嬉しい。

ヒンデミットという作曲家の作品を聞く楽しみが、また増えた。

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