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ラトル指揮 ベートーヴェン「交響曲第九番」

ベルリン・フィルの音楽監督に就任したばかりのサイモン・ラトル指揮による「第九」だ。ただしオーケストラはウィーン・フィル。年末に合わせたリリースということで絶妙のタイミング。期待して手に取る人も多いだろう。
最初聞いたとき、「なんて軽い音」だろうと率直に感じた。薄っぺらという意味ではない。
ベートーヴェンが命をかけた大作であり、古今の大指揮者が名演を残した作品。どうしても構えて聞かなければならないという緊張感漂う演奏が多い。事実これまで私が聞いた第九とは、第一楽章冒頭から眉間にしわをよせてしかめっつらで、ハアハア言いながら聞くものであった。バックグラウンドミュージックになぞできない。第二楽章ではティンパニーの音に怒られているように、ビクッとしてしまう。第三楽章はその緊張感をややほぐしてくれるこの世の音楽とも思えない(あの世の音楽はまだ聞いたことがないのであくまでも想像です)美しさ。そして、第四楽章。おお、人間賛歌!

が、ラトルはそんな既成概念を完全にとっぱらって、ライトで人間味溢れる音楽を聞かせてくれる。解説によれば、曲についてはモーツァルトよりもずっと前のバロック時代の修辞法の観点で捉え、かつ演奏自体はロマンチックに情緒たっぷりと表現したとある。音が軽く感じられるのはこのバロック的なアプローチによるからか?と書いたところで訳のわからない理屈である、もちろん私だってよくわかっていない。でも聞きやすいことは事実だ。また、確かに要所要所の細かい表現が、妙に叙情的であることは感じる。そこが心くすぐるのだ。

「ちょっと違うな、、。」と、たぶんこれまで他の「第九」を聞いた経験のある方は感じるかもしれない。それを忌み嫌い拒絶するか、新鮮と感じて好きになるか、きっと両極端の反応を示すに違いない。「第九」を初めて聞く方々にとっては、比較的聞きやすい演奏だと思う。

合唱団にラトルの前任地のバーミンガム市交響楽団合唱団を起用したのも注目である。ドイツ系の合唱団による演奏とはひと味もふた味も違うので、合唱好きの皆さんは要チェック!

テンポや強弱など今までの演奏とは違うので、多少の違和感を感じつつも、こういう新しい「第九」を我々に聞かせてくれたラトルに心から感謝したい。ラトルはやはりクラシック界の風雲児である。

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(※この文章はrecosell.com用に執筆したものです)

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