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CD・レコードと生演奏のはざまで

 「コンサートに行きたい」と思っても、クラシック音楽の場合日本では毎日演奏会が行われているわけでもないから、無理な話だ。たまたま良さそうなアーチストが、運よく住んでいる土地に訪れることがあれば良いが、そんなチャンスはそうない。
 アマチュアの演奏会ならけっこう頻繁に行われているが、こちらは音楽を楽しむというより、演奏している知人の晴れ姿を見て、両者で感動を共有する、友情(親族であれば愛情か?)という側面もある。中にはプロ顔負けの素晴らしい演奏をする団体もある。そんな演奏会が聞けるあなたは、幸せ者ですよ!
 それでも!それでも、CDで聞く音楽より、やはりライブで、会場で音楽を聞く方が数倍素晴らしいのだ。私はこの頃強くそう感じている。
 指揮者フルトヴェングラー氏も自著「音と言葉」の中で、「メカニカルな音」の音楽の問題を語り嘆いている。時は1930年代。「メカニカルな音」という意味がわからなく、戸惑ったがこれはつまりレコードとラジオのことだ。レコードとラジオで音楽を聞くのがごく普通の現代人には、ぴんとこないかもしれない。しかし、これは本質をついている。
 クラシック音楽とは本来生演奏できくべきものだった。当たり前の話だが、ベートーヴェンの時代には生演奏以外に音楽を聞ける手だてはなかったはず。だから演奏会場で、演奏者と聴衆が同じ音と空間を共有した。
 一方録音という技術は人間に途方もない恩恵を与えただろう。演奏者がそこにいなくても音楽を聞けるのだから画期的だ。しかし、この技術は、生で音楽を聞く機会を減らしていった。
 レコードの存在を否定するのは現代ではナンセンスだ。技術の進歩で確かに音は格段に良くなっている。コンサート会場で聞くのと同じ臨場感や音質を感じさせる質はすでに手に入れている。だからどちらで聞いてもいい。
 ただ、私たちは両者の違いを知るべきだ。コンサートつまり生演奏による音と、録音された音とは全く違うものなのだと。どう違うのか説明することは難しいが、それは演奏者と聴衆が共有する空間と空気の中における音の響のせいだろう。演奏者の息づかい、聴衆の息づかい(演奏中にはもちろん聞こえないけれど)。
 先日実に10年ぶりにプロによる生演奏を聞いた。あの時聞いた音は、CDやアナログレコード、MP3による音とは全く違った。あまりにも当たり前の話で、読者の皆様は笑うかもしれないが、本当に感動した。
 フルトヴェングラー氏の発言の受け売りかもしれない。しかし、私の独断的発 言を許して頂くとすれば、生音は、メカニカルな音の数倍、時には数十倍の付加価値がある。だってクラシック作曲家達は本来メカニックに録音されたものではなく、あくまで、生による演奏を想定して音楽を書いたに違いないから。

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