車は車 Cars Are Cars

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 Cars Are Cars 車は車
 (Copyright 1983 Paul Simon) 迷訳:musiker

 Cars are cars
 車は車
 All over the world
 世界中どこでも
 Cars are cars
 車は車
 All over the world
 世界中至る所で
 Similarly made
 同じ製造方法で
 Similarly sold
 販売方法も同じ
 In a motorcade
 行列の中
 Abandoned when they're old
 古くなると、スクラップ工場行き

 Cars are cars
 All over the world
 Cars are cars
 All over the world
 Cars are cars
 All over the world

みなさんは、この歌を最初聴いた時、どんな感想を抱きましたか?
私は、唖然としたことを覚えています。
第一印象はとっても失礼な言い方だけれど、
「ポールの手抜きか?」でした。

だって、歌詞はCars are cars All over the worldの繰り返しが多いし、
そしてメロディは…、いえ、メロディと思えないほどそっけないし、同じムー ドのコードに乗った繰り返し。前奏の歯切れのいいギターはかっこいいけど、 少し退屈だな、と。

ああ、車のことを歌っているんだ、とおぼろげにはわかる。「車は車」だよな。 当たり前のことを言ってるぞ。どれどれ、と意味を調べると…、意外に面白い。
世界中にあふれている車が皆同じ。車種は違っても、基本的には形も構造も同 じ。大量生産という工場の仕組みが、アメリカの産業を支えた。その象徴的存 在でもある自動車をポール・サイモンはユーモラスに皮肉っているようにも思 えます。

ギターの歯切れの良いストローク、ベースギター、ドラム、そして手拍子が気 持ちがいいです。コーラスの間に入るコードが効果的。この楽しいリズムに乗 せられてしまいます。

歌は、次のフレーズまで一気に進みます。

 Engine in the front  エンジンは前
 Jack in the back
 ジャッキは後
 Wheels take the brunt
 車輪はいつも矢面に立ち
 Pinion and a rack
 ラックとピニオン
 Cars are cars
 All over the world
 Cars are cars
 All over the world

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一気に進んだ音楽の雰囲気がここで変わります。このサビの部分が、歌のテー マといって良いでしょう。変化するコードが少しメランコリックなムードを演 出しつつも、リズムに大きな変化のないメロディ。しかし、それが妙に効いて きます。ポールの歌い方がやけに寂しいせいでしょう。そして、彼はこの部分 を実にていねいにこ歌っています。真面目な顔でジョーク混じりに歌う「自動 車」の部分と、一方少しシリアスにあきらめ顔で歌う「人間」の部のコントラ ストを意識しているのでしょう。

 But people are strangers
 でも、人間は車とは違い
 They change with the curve
 曲がり角で変わる
 From time zone to time zone
 時の節目でも変わっていく
 As we can observe
 観察すればわかるだろ?
 They shut down their borders
 だから、外(他)との境目を閉じれば
 And think they've immune
 ひと安心
 They stand on their differences
 互いの違いを認められるから
 And shoot at the moon
 月を撃つ真似もできる

車は同じだけども、タイムゾーンの角を曲がれば人間は変わっていく、とは何 と意味深な。アルバムの中で、ポールは相対するものの矛盾、そしてその矛盾 と共存しなければならない人間を歌ってきました。相容れないもの同士が共に 生きることの難しさ。いっそのこと、境界を作ってしまう方がよほど気が楽で しょう。この歌で、彼は車を、一種のカプセルのように取り上げているように 思えてきます。

人間は他人との境界を作る代わりに車のドアを閉めます。そこには隔絶された 誰にも邪魔されない空間が生まれます。その安堵感。ドアを閉めたことにより、 それまでストレスを感じていた他人をの存在を認められるようになる(この場 合、夫や妻←実は他人! も含むところが、哀しいのですが…)。最後の「月 を撃つ」の意味がよくわかりませんが、隔絶された空間で、妙にはしゃいでい る、あるいは気が大きくなった男を象徴しているのかもしれません。

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気が大きくなった人間がハンドルを握ると、時には荒々しい性格に変貌する。 よく普段おとなしい人が(男性に限らず女性も)、運転すると人が変わったよ うになる、という例を聞きますが、あれに似ています。右を走ろうが左を走ろ うが「俺様の勝手」です。もちろん、実際は勝手なまねはできないけど、それ ほど気が大きくなる人もいる(のでしょうか?私は車を運転しないので想像で 書いています)かもしれません。

 Drive I'm on the left
 俺は左を走るぜ!
 Drive I'm on the right
 俺は右だ!
 Susceptible to theft
 粋がろうが、真夜中は
 In the middle of the night
 車泥棒の格好の餌食
 Cars are cars
 All over the world
 Cars are cars
 All over the world

ポールの歌声をさえぎり別の男の声が聞こえる。言い争いをしているみたいで、 この部分可笑しいです。なぜか真夜中に車泥棒の餌食になってしまう、という 笑えないオチがあるのも、重ねて可笑しくなります。

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そして、最後の部分。
車の中にいるのが好きだった主人公の心の内が歌われています。どうも彼は家 庭を失ったようです。その理由は、車の中にいる居心地と比べ、家庭の居心地 が悪かったから。だから、ずっと旅をする人生を送っている…、と、少ししん みりとした内容で締めくくられます。

 I once had a car
 昔車を持っていた頃
 That was more like a home
 車は家同然だった
 I lived in it, loved in it
 車に住み、車の中にいるのが大好き
 Polished its chrome
 クロムも磨いた
 If some of my homes
 もしも僕の家庭が
 Had been more like my car
 車のようだったなら
 I probably wouldn't have
 こんな遠くまで
 Traveled this far
 旅をすることにはならなかっただろう

 Cars are cars
 All over the world
 Cars are cars
 All over the world
 Cars are cars
 All over the world

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私は無免許という今時天然記念物のような存在のため、今回の歌の英文歌詞は 全くちんぷんかんぷんでした。危うくpinion and a rackを「翼と網棚」と訳す ところでしたから(笑)。ですから、正直いって今回の迷訳は自信がありませ ん。車にひっかけたポールお得意のジョークや裏の意味がこれっぽちもわかっ ていない。そうとう勘違いをしているかもしれませんので、その点よろしくお 願いします(と言い訳)。

最初「この作品は手抜きか?」と問いました。
確かに一本調子で変化の乏しい印象が当初ありました。けれど、よく聞けば、 好対照の歌詞とメロディ、リズム楽器的に使われているホーンセクションの小 気味よさ、など短い中にも注目すべき点が多い作品であることがわかります。 何度か聴くことによって、新しい発見があるかもしれませんよ。ぜひじっくり 試してみてください。

そして、このちょっと羽目を外したご機嫌な歌の後に、次の歌、このアルバム 最後の歌の前奏が始まります。それは、私たちを全く別世界へと導く、不思議 なサウンドでした…。


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