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「明日に架ける橋」 Bridge Over Troubled Water
 
 When you're weary, feeling small
 君が疲れて、しょげているなら
 When tears are in your eyes, I will dry them all
 瞳に涙があふれているなら、僕がすべてふいてあげる
 I'm on your side, when times get rough
 君のそばにいるんだ、辛い時だって
 And friends just can't be found.
 友達が近くにいなくても
 Like a bridge over troubled water
 荒れた海にかかる橋のように
 I will lay me down
 僕が体を横たえるから
 
 When you're down and out
 君がうちのめされ
 When you're on the street
 道で立ちすくんでいて
 When evening falls so hard
 ひどい夕暮れになったら
 I will comfort you
 慰めてあげるよ
 I'll take your part
 君の代わりになる
 when darkness comes
 暗闇が襲い
 And pain is all around
 痛みでたまらないなら
 Like a bridge over troubled water
 荒れた海にかかる橋のように
 I will lay me down
 僕が体を横たえるから
 
 (Copyright: Paul Simon)
 迷訳:musiker ※以下同じ

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 ◆熱烈なラブソング
 
 あなたは、他人に対し、こんな気持ちになれるでしょうか。こんな気持ちになれる大切な人がいるでしょうか?
 
 熱烈なラブソングです。これから恋愛を経験する人、かつて燃えるような恋を経験した人、いずれもその時のピュアな感情を想像、または思い出してみましょう。
 
 きっとそんな気持ちが多くの人の共感を呼び、この歌は全世界の人々の支持されたのだと思います。
 
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 ◆ラブソングを超えた博愛の歌
 
 サイモン&ガーファンクルの名実共に最高傑作とされる「明日に架ける橋」は、1970年に発表され、以来32年間、不屈の名作として未だに人々の心に生きています。
 
 大いなる愛の歌? でも、恋愛という枠を超えた、大きな意味での愛を歌う歌と解釈しても間違いではありません。言い換えると「博愛」、つまり人間すべてに対する愛の歌とでも申しましょうか。
 
 決してラブソングを小さく見なすつもりがあるのではありませんし、ポール・サイモン自身もそんなに大げさには考えていなかったかもしれないけれど、この歌の根底に、スケールの大きな人間愛を感じさせます。極端にいえば宗教がかったような。
 
 そうでもなければ、なぜ全世界の人々にこれほど愛されたのでしょうか。その理由は見つかりません。
 
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 ◆「明日に架ける橋」はサイモン&ガーファンクルの歌ではない?!
 
 私は、この歌をサイモン&ガーファンクルの歌として私は考えていません。確かに作者はポール・サイモン、歌はアート・ガーファンクルがソロであるものの、第三コーラスではポールとのハーモニーが少しだけ聞こえます。
 
 しかし、それまでの作品で必ず登場したポールのギターは全く聞こえません。ハーモニーも実に単純な重唱だけにとどまり、あの繊細なコンビネーションは感じられません。
 
 まさにアート・ガーファンクルの独壇場なのです。
 
 アートの歌が光っている事は、誰もが認めるでしょう。この歌はアート以外の誰が歌ってもフィットしない。その声と歌が見事に調和しています。
 
 特に、第三コーラス最後、
 I will lay me down
 の部分の長いフレーズ。あの感動は今聞いても、何度聞いても、身震いしてきます。
 
 申し訳ないけれど、ポールの出番は必要ない、そんな曲に結果的になってしまった。S&Gの歌ではない、と考えるのは、こんな理由からです。
 
 でも、、、、
 やっぱりこの歌は、ポール・サイモンと、アート・ガーファンクルでなければ出来得なかった歌なんですね。役割がどうあろうと、それまでの歌と違おうとも、やはり。

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 ◆アルバム「明日に架ける橋」そのものが本来のS&Gのアルバムではない
 
 「明日に架ける橋」という歌だけではありません。アルバム「明日に架ける橋」そのものがサイモン&ガーファンクルのアルバムではないのです。二人は相当このアルバムへ思い入れがありましたが、ガーファンクルは、映画の撮影などもあり、ポールとすれ違いになりました。ポール自身はアートとのパートナーシップを望み、待ちこがれて、色々努力をしていたようですが、アート自身の映画への集中力とアルバム制作への集中力の分散が不満で、ぎくしゃくした関係になっていたとも伝えられています。事実「明日に架ける橋」に収録されている作品のうちいくつかは、ポールだけのヴォーカルで、コーラスは重ね録音です。
 アルバムを注意して聞いてみましょう。
 二人の絶妙なハーモニーが感じられる歌は皆無なことに驚きます(唯一ライブ版「バイバイラブ」だけは、二人のデュエットですが、、)。一曲中に別々にソロが出てくる歌はあります。しかし、ハーモニーはない。ポールが曲を示し、アートによるハーモニーの提案で築き上げられた伝説的なハーモニーはこのアルバムでは聞けないのです。
 
 前に、アルバム「明日に架ける橋」はそれまでのサイモン&ガーファンクルの音楽とは違う、と書きました。その第一の理由がここにあります。
 
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 ◆もうひとつの立て役者はピアノのアレンジ
 
 「明日に架ける橋」の魅力はゴスペル調にあるとされ、ピアノだけによる伴奏が採用されました。アレンジャーのジミー・ハスケルが、ポールのオリジナルの調Gメジャーからアート用にEbにアレンジし、ピアノ伴奏はラリー・ネクテルが担当しました。完成までに4日もかかり、ポールを苛立たせましたが、完成した演奏を聞いたとたん、そのシンプルでスケールの大きいサウンドに身震いした、と書籍(『旧友』音楽の友社刊、絶版)にあります。
 
 事実、このピアノがなければ、「明日に架ける橋」の魅力は半減したでしょう。いや、ひょっとするとこんなに大ヒット曲になったかも疑わしい。
 
 この歌に収録されているピアノの素晴らしさは誰も疑いようがありません。後でライブ版による演奏でピアノを聞くこともできるけれど、オリジナルと比べると雲泥の差です。

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 ◆スタジオで書かれた第三コーラスの詩
 
 この素晴らしい伴奏が伴ったにもかかわらず、アート・ガーファンクルとロイ・ハリーはまだ物足りなさを感じていました。オリジナルの第二コーラスまでの詩に、第三コーラスをつける提案をします。
 
 アルバム「明日に架ける橋」では、ポールは、作者として、自己主張をするようになり、アートともかなりぶつかったようです。それがぎくしゃくした関係にも発展し、アートの俳優としてのアイデンティティ追求と重なって、二人のパートナーシップは崩れかけていました。
 
 でも、この時、ポールは昔のように共同作業者としての役割に徹し、ピアノを聞きながら詩を書きました。
 
 Sail on Silver girl, sail on by
 銀の少女よ、出航するんだ
 Your time has come to shine
 ついに君が輝く時が来た
 All your dreams on their way
 夢がすべて実現するんだ
 See how they shine
 その輝きを見てご覧
 If you need a friend
 もし友達が必要になったら
 I'll sailing right behind
 僕が後ろから船を漕いでついていこう
 Like a bridge over troubled water
 荒れた海にかかる橋のように
 I will ease your mind
 君の心に安らぎを与えよう
 
 
 実に感動的な詩。恋人、あるいは友への最高の思いを歌う詩に、誰もが感動しました。ポール自身は、第二コーラスまでの詩に比べ、付け足しの感が否めないのではと心配していたものの、関係者一同、その素晴らしさに感銘し、ポールに最高の敬意を表したというのです。
 
 第三コーラスのモチーフは、実は、ポールが当時結婚していたペギーの髪の毛に白髪が二、三本交じっていたこと(銀色の少女=白髪頭の女性)だったと聞くと、驚きますが、詩そのものから得られる感動は変わらず、むしろ微笑ましいですね。
 
 完璧な歌、完璧なピアノ伴奏、アートの完璧なヴォーカル。そこに更に壮大な
 アレンジを加えることで、「明日に架ける橋」は完成してきいます。
 
 ★ボーナストラックバージョンの歌詞は一部違う
 
 最新のCD「明日に架ける橋」には、ボーナストラックが二曲収録されていて、そのひとつが「明日に架ける橋」。こちらは、全く編集されていないピアノとベース(第三コーラスのみ)、そしてガーファンクルのヴォーカルのみ。本盤とピアノアレンジもアートの歌い方も違っていて興味深いです。
 
 上で書いた通り、「明日に架ける橋」は元々第二コーラスまでしか詩がなかったのです。アートとロイ・ハリーの意見で、三番が加わったのですが、彼らは、二番までの歌詞というのが、物足りなく感じたらしいです。
 
 「映画や小説だって、第一章と第二章と続き、第三章でクライマックスにもっていく。読者や観客もその構成に慣れているし、むしろそうなることを期待しているんだ。だから、この歌には第三コーラスが必要なのさ!」
 
 というような妙な理屈でポールを説得したようです。確かに、もし、第二コーラスまでの歌だったら、淡々とした美しい歌、という印象だけにとどまったかもしれません。ポールはこの淡々とした雰囲気の歌のままでいいと考えていたようです。もともと題名は「ヒム(賛歌)Hymn」としたことからも彼の意志が感じとれます。教会の賛美歌にドラマチックさは必要ありません。静かな中に秘めたドラマがありさえすれば。
 
 さて、ボーナストラックの歌詞については、解説書にも記載がないため、耳に頼るしかありませんが、本トラック版とは微妙に違っています。特に第三コーラスは全く別の歌詞です。
 
 Sail on silver girl
 Sail on high
 Your time has come to shine
 Put your faith on me
 And let it shine
 I sweet(?) a sun
 Upon your bedroom lamps(?)
 Like a bridge over troubled water
 Let it be your guide
 
 この英語のみを読んでみると、本バージョンに比べて、よりプライベートなラブソングの雰囲気が漂います。博愛、人間愛(恋人という枠ではなく夫婦愛、親子愛、兄弟愛、すべてに通用する)というより、身近な恋人に語る歌です。これはこれでまたいいムードですけれども。
 
 歌詞だけでなく、生の音による録音も、新鮮です。このテイクは本番用に使うために収録したのではなく、あくまでテスト用だったのではないでしょうか。アートの歌も、悪く言えばやや手抜き気味、よく言えばリラックスしています。こんな生のアートの歌い方を公開していいのだろうか?と思うけれど、そこがまた興味深くて、いいんですが。
 
 ★荘厳な第三コーラスは、クライマックスにふさわしい演出
 
 さて、三番の歌詞が完成しました。三番ではアートの声にポールの声が加わり、ファンお待ちかねのハーモニーとなります。意外にも単純な三度和音(メロディに合わせて三度下の音でハーモニーを取る)。それでも二人の声それぞれが多重録音され厚みを増し、荘厳な感じに仕上がっています。
 
 更に、オーケストラ、ベースギター、ドラムが加わり、壮大なクライマックスへと歌は展開していきます。最初はピアノだけで、徐々に楽器が加わっていく形ということでザ・ビートルズの「Let It Be」とよく比較されますが、「明日に架ける橋」は最後はオーケストラも加わり、エコーもかけられ、かなり大規模な展開になりますので「Let It Be」とは少し異なります(この二曲、偶然に似たのではなく、ポール・マッカートニーの方が「明日に架ける橋」を参考にして書いたという説もあるらしいです)。
 
 こうして「明日に架ける橋」は実にドラマチックな歌として完成しました。まさにこの歌は、三人の共同作業で生まれたもの。ポールのアイデアだけでは、あれほどのヒットに結びつかなかったでしょう。前回、この歌はサイモン&ガーファンクルの歌ではないと書きました。それは単なる思いこみであり、やはりこれは紛れもなくサイモン&ガーファンクルの歌なのだ、と改めて、強く感じています。
 
 この20世紀を代表するバラードは、1970年発表と同時に人々を感動の渦に巻き込み、32年経た今も聞き、歌い継がれています。

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