updated on 22 AUG 2006


ブラームス  アルト、ヴィオラ、ピアノのための「2つの歌」作品91
 Brahms(1833-1897) Zwei Gesaenge op.91
 第2曲 聖なる子守歌 Geistliches Wiegenlied


●ザルツブルクのセミナーでの「聖なる子守歌」

オーストリアのザルツブルクで特別音楽セミナーが企画開催され、日本から20 人の参加者と共に現地で二週間過ごしたことがあります。受講者はピアノ、ヴ ァイオリン、声楽で、現地で指導を行っている講師のもと、毎日レッスンを受 けるのです。日本各地からやってきた参加の皆さんたちの真剣な表情がとても 印象的でした。音楽を学ぶ学生さん、プロの卵、大学で教鞭にあたっている先 生など色々な方々がおられ、日常の会話も楽しいものでした。世話係の私でし たが、ピアノ受講者のオブザーバーとしてレッスンに同席し、受講生さんたち が時々理解できない先生の発言の意味を説明するなどでお手伝いをしました。
一日、何人もの受講生さんのレッスンに同席ということで、4〜5時間、多い ときは6時間以上ピアノのレッスンに毎日つき合うわけです。ベートーヴェン、 ブラームス、リスト等のピアノ曲の細部にわたる弾き方について英語で行き交 うレッスンです。今から考えると随分贅沢な体験だったと思います。当時は、 クラシック系音楽のめくるめく刺激的な世界に魅せられ始めた頃です。ピアノ をまともに弾けない私も、長い時間中、本当に好奇心ギラギラの目つきで先生 と受講生さんのレッスンを見守っていました。まるで自分が指導を受けている ような錯覚を覚えたくらいです。

レッスンで題材になったベートーヴェンのピアノソナタ第21番「ワルトシュタ イン」に魅せられ、その時のことは、既に本誌Op.20で書きました。その他、 曲目ははっきり覚えていないけれど強く耳に残ったブラームスの幻想曲、リス トの作品などがあります。音の記憶だけでして、作品名が特定できないため、 レコードやCDを今頃になって探している最中ですがまだ見つかりません。い ずれ本誌に出てくるでしょう。

セミナーの仕上げとしてザルツブルク宮殿内のホールで演奏会を行い、夜にお 世話頂いた地元の音楽院の先生ご自宅で、参加者で簡単なパーティをすること になりました。昼間のコンサートは受講者それぞれの単独演奏だったので、夜 のパーティでは、受講者同士でアンサンブルをしようというお話になりました。

その時の曲のひとつに、ブラームスの「聖なる子守歌」がありました。アルト、 ヴィオラ、ピアノという珍しい組み合わせの曲で、特に印象に残っています。 リハーサルを数回行った時、近くで聞かせて頂いていた時から心奪われたその 美しいメロディと、アルトとヴィオラ、そしてピアノが創り出す音色。深夜ま で続いたパーティは、受講者皆さんがリラックスしていろんな曲を次々余興で 演奏する底抜けに楽しい歓喜の時間。その楽しい時間にこの暖かなブラームス の作品がいっそう深い感動を与えてくれました。

●ドイツの民謡のメロディ

子守唄といえば、赤い鳥と「竹田の子守唄」を連想するォーク世代の私にとっ て、このブラームスの歌は、同じ子守唄でも雰囲気が違います。子供が眠って いるので、風よ吹くのを止めよ!、という気持はわかるとして、椰子の木やら、 天使が出てきて、日本ではない、ブラームスの故郷ドイツでもない土地が目に 浮かびます。詩を以下に記しましょう。(スペインの詩、ガイベルによるもの)
  Geistliches Wiegenlied 聖なる子守歌

  Die ihr schwebet um diese Palmen
  椰子の木のあたり
  In Nacht und Wind
  夜の風の中に漂う
  Ihr heil'gen Engel
  聖なる天使たち
  Stillet die Wipfel!
  梢の音を静めてください
  Es schlummert mei Kind
  私の子が眠っているのです

  Ihr Palmen von Bethlehem
  ベツレヘムの椰子よ
  in Windes brausen,
  ざわめく風の中で
  Wie moegt ihr heute
  今日はなぜそんなに激しく
  So zornig sausen!
  騒いでいるのですか
  O rauscht nicht also,
  吹き荒れるのを止めてください
  schweigt, neiget
  沈黙し静かに
  Euch leis' und lind,
  優しく身をかがめてください
  Stillet die Wipfel!
  梢の音を鎮めてください
  Es schlummert mein Kind
  私の子が眠っているのです

   ※日本語はmusikerによる翻案

詩では生まれたばかりのイエスを気遣う母親マリアを歌っているようです。だ から「聖なる」子守唄なのでしょう。歌は全部で四つの部分に分かれ、上がそ の二つ。後半では、地上の煩いに苦悩する神としてのイエスをイメージさせる フレーズも出てきます。疲れ果てた神がひととき眠りにつけるよう、梢のざわ めきを止めよ!と歌います。

驚くほどシンプルな主メロディ。ピアノとヴィオラの音色と共に、見事な音楽 が聞こえてきます。主役のアルトも控えめに、しかし力強く歌い、サポート役 のヴィオラ、幹のようなピアノ、各々が個性を発揮しながらも脇役に徹する、 妙を感じられる音楽ですね。変幻自在な転調、テンポの変化も聞きどころ。四 つのの部分それぞれが印象に残るでしょう。

前奏がとても印象的です。ドイツをはじめ欧米の人々はメロディを聞くとたち まちわかるこの曲は、残念ながら日本人にはいまひとつピンとこないクリスマ スキャロルの歌でした。
http://www.hymnsandcarolsofchristmas.com/Hymns_and_Carols/joseph_o_dear_joseph_mine.htm

親しみのあるこのメロディを、前奏と、曲の要所要所にすえるという演出で、 ブラームスはこの歌を身近な存在に創り上げました。前奏が始まったとたんに、 ドイツの人々、いえ、欧州の人々は思わず笑みを浮かべ、優しい気持ちになる のでしょう。しかし民謡からの転用はあくまでひかえめです。ヴィオラに歌わ せ、ピアノにもさりげなく歌わせているのに、肝心の歌には一切そのメロディ を使っていません。憎い演出。許せませんなブラームスさんは(笑)。でも、 許してあげましょう。この絶妙の演出のおかげでとても不思議な音楽になっています。 不思議な音楽?神秘的と表現するべきかもしれません。


この文を掲載のメルマガでは試聴サイトをご紹介しましたが、皆さんに聞いていただきたい部分とは違い、私は欲求不満です。そこで、前奏クリスマスキャロル、そして歌のはじまりか ら第一部まで、midi用データを作ってみましたので、どうぞお試し下さい。
いつもの通り、FinaleViewer用と、通常のMIDI用を用意しました。もっと聞き たい人は、naxosへ飛ぶか、どこかでCDを調達してくださいね。CDは事項で 記載のヴェロニカ・ハーゲン版をお薦めします。

FinaleViewer用

MIDI再生用
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【私の聞いたCD】
お薦め度★★★★★

POCG-10029
収録曲
ヴィオラ・ソナタ第一番 ヘ短調 作品120の1
 Sonate fuer Viola und Klavier f-moll op.120 No.1
ヴィオラ・ソナタ第二番 変ホ長調 作品120の2
 Sonate fuer Viola und Klavier f-moll op.120 No.2
2つの歌 作品91〜アルト独唱、ヴィオラとピアノのための
 Zwei Gesaenge Op.91
 静められた憧れ(リュッケルト詩)Gestillte Schnsuch
 宗教的な子守歌(スペインの詩、ガイベルによる)Geistelisches Wiegenlied

イリス・ヴェルミヨン(アルト)2つの歌
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
パウル・グルダ(ピアノ)

アマゾンのリンク
※品切れ中のようですが、市場で入手可能であることを祈ります。

★試聴はこちら
別演奏家の試聴。日本amazonでは試聴できないので、米amazonへ飛んでください。

曲名の原語は、
1.Gestillte Schnsuch 2.Geistelisches Wiegenlied

http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/B000001WQD/ref=pd_pym_rvi_4/002-9439368-4202442

http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/B000003DKW/ref=pd_ecc_rvi_2/002-9439368-4202442

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