「ブレスト」 Blessed
Blessed are the meek
柔和なひとたちに幸いあれ
For they shall inherit
彼らは地を受け継ぐであろう
Blessed is the lamb whose blood flows.
血を流す子羊は幸いあれ
Blessed are the sat upon,
踏みにじられ
Spat upon
唾を吐かれ
Ratted on,
裏切られた者 すべて幸いあれ
O Lord, Why have you forsaken me?
神よ なぜ僕を見捨てたのですか
I got no place to go,
行くあてもなく
I've walked around Soho
ソーホーの街を歩き回った
For the last night or so.
昨日も、、、、
Ah, but it doesn't matter, no.
でも、まあ、いいんだ、、。
(Copyright: Paul Simon)
迷訳:musiker ※以下同じ
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ジャンジャガジャンジャンジャンジャン、ジャンジャガジャンジャンジャンジャンという少し耳障り(?)なエレクトリックギターのサウンドによる前奏で始まるのは「ブレスト」。アルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」収録の異色な作品です。
Blessedということばを調べると、
神聖な、聖なる、尊い、あがむべき、神の祝福を受けた、この上なく恵まれた
などの訳語が並びます。第一コーラス冒頭の二行、Blessed are the meek〜inherit までは、聖書にある言葉ほとんどそのままのようです。
これは神を崇める、宗教的な歌なのか?
いいえ、そこはポール・サイモンのことですから、ひとひねりしています。
聖書の言葉の引用の後、歌の中間部には「踏みにじられた」「唾をかけられた」「裏切られた」「覚醒剤」「麻薬」「物乞い」「安娼婦」「イカス美人」など物騒ぎで人間くさい言葉が出てきます。韻による効果で音声として、とても心地よいけれど、内容を理解すると心おだやかではいれません。
そして後半で、
Oh Lord, why have you forsaken me?
「神よ、なぜ僕を見捨てたのか?」の叫びが。
おそらくこの部分からがこの歌の核心だと思うのですが、叫びに続く静かなつぶやきが全てを物語ります。
My words trickled down, like a wound
僕の言葉は流れ落ちる、まるで傷のよう
That I have no intention to heal.
癒す気にもなれない「心の傷」
(第二コーラスより)
第三コーラス最後の二行も意味深、、、、。
I have tended my own garden
僕は自分の庭の手入れを
Much too long
長くしすぎた
この部分で、ポールの歌声は、感情を抑えているものの、心では人一倍大きな声で叫んでいるようです。
前半・半ば部分が二人の力強いコーラスで歌われているため、なお一層つぶやき部分が際立ち、実に効果的です。
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ポール・サイモンは、落雷にあい、ソーホー(たぶんロンドンの繁華街?)のセイント・アン教会に避難したとき、この歌のアイデアがひらめいたそうです。口先だけ、うわべだけのお説教や偽善などへの批判をこめて作ったといわれています。
「ブレスト」は英国人シンガーのガイ・ダレルがのちにカヴァーしましたが、ヒットはしなかったという。ポール自身はカヴァーされたことを喜んだみたいですが、放送に取りあげられないだろうと予測していました。それは、彼自身がこの歌の特異な面を十分理解していたからでした。確かに変わった歌ですし、結果は予想通りになったわけです。
フォークロック調の痛快な音楽にのせて、宗教的な美しい言葉と現実的で刺激的な言葉とのコントラスト、そして、自らの心内をこめた静かなつぶやき。
いいなぁ。
私も以前はさほど真剣に「ブレスト」を聞くことはなかったけれど、今歌詞をよく読んでみて、奥が深く味のある歌だと改めて感じました。
3枚組「旧友」に収録されているライブ版は、ポールのギターだけによる演奏ですが、エレキバージョンのアルバム版とは違って、二人のコーラスが一層光り、また、ポールの変則ギターの音もカッコイイです。
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