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3つの選帝侯ソナタ WoO.47

【作曲】1782〜83年 【出版】1783年 ボン、ボスラース者
【献呈】ケルン選帝侯マキシミリアン・フリードリヒ

ベートーヴェン少年時代の先生ネーフェの勧めで出版した最初のソナタ集です。初版本の標題には「クラヴィーアのための3つのソナタ、尊敬すべきケルン大司教兼選帝候マキシミリアン・フリードリヒ殿下に捧ぐ。作曲及び献呈は11歳のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンによる」と記載されていました。

このソナタは3曲のセットになっていて
第一番 変ホ長調/第二番 ヘ短調/第三番 ニ長調
という構成です。いずれも3楽章形式、第一番(11分弱)第二番(15分弱)第三番(15分弱)、という3曲すべて演奏しても40分程度のほどよい長さです。

私の手元に音楽之友社刊のベートーヴェン作品集という譜面があるのですが、その最初にこの作品が掲載されています。弾いた経験のある方もおられるでしょう。

第一番は本当に爽やかで今の季節にぴったりの作品です。微笑ましいメロディに心なごまされます。アンダンテ(第二楽章)ではアレグロの音楽をうまい具合に暖かい曲想に料理しています。ロンド(第三楽章)の楽しげな雰囲気。この楽章を聞いているとなんとなくピアノ三重奏曲を聞いているような気分になってくるのも不思議です。
第二番が「悲愴」ソナタに似ていることは有名のようです。確かに最初始まりの Larghetto Maestoso の始まり方はあの第一楽章を思わせますし、その後Allegro Assaiに転じ厳かな低音展開から盛り上がっていく曲想はまさにそのもの。技術面ではもちろん比較にはならないのですが、この年齢ですでにこのようにドラマチックな展開の音楽を書いていたことは驚嘆すべきではありませ んか。13歳くらいの年頃は、なんとかして「大人を驚かせてやろう」という気があふれている年代ですが、ベートーヴェンの場合は半端ではありません。
ラルゲット(第二楽章)の深いこと!特に鍵盤上を舞い踊るような右手の音階の動きが面白いです。プレスト(第三楽章)は緊張感あふれたいささか神経質なメロディが印象的な強烈なフィナーレ。
第三番は第二番とはうってかわり、再び明るいイメージになります。しかし一番と違って少し憂いを秘めたメロディがところどころで出てくるのが特徴ですし、アレグロ(第一楽章)でもおごそかな雰囲気を漂わせています。組曲のフィナーレということを十分意識しているかのようです。メヌエット(第二楽章)はゆっくりとした舞曲のようで優しい曲調にうっとりさせられるかと思えば、ここは主題でもあり提示部でもありました。以後見事な変奏曲が始まります。
第五変奏にはあっと驚かされました。スケルツァンド(第三楽章)はこの組曲のフィナーレにあたるわけですが、軽やかなメロディの運び方が心地よく、聞いていてウキウキさせられます。

不完全なソナタ形式だとか、色々な評価があるようですが、3曲共個性があり後のピアノソナタを予感される十分な風格のある秀作ではないでしょうか。
ベートーヴェンが正式な自分のピアノソナタとして残さなかったのは明らかに未熟な作品だと自覚していたからに他ならないと思われますので、今これを聞いている私は少々複雑な気持ちです。でも、ベートーヴェンのことなら何でも知りたいのが彼のフリークなので彼にはお許し願いたい。この若き日のソナタを聞きながら少年ベートーヴェンがこの作品を弾く姿を想像するのも楽しいものです。

★私の聞いたCD
ベートーヴェン全集 ピアノ作品15
イェルク・デームス(ピアノ)
BEE 1066

↓こちらはNAXOSより発売されているものです。カップリングとして「田園」とWoO.51のソナタ、ソナティナ37番・38番なども入っています。
Beethoven Piano Sonatas, Vol-10
Jeno Jando(Klavier)
NAXOS 8.550255
詳細はhttp://www.naxos.co.jp

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