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弦楽四重奏曲第一番 ヘ長調 作品18の1
  Streichquartett Nr.1 F-dur op.18-1
  作:1798-1800年 出版 1801年:ウィーン・モロ社
  献呈:ロプコヴィッツ公爵

★待ってました、弦楽四重奏!

こう叫ぶ本誌読者の皆様のお顔が目に浮かびます。ベートーヴェンといえば、弦楽四重奏、という方も多いことでしょう(交響曲派、ピアノ曲派も多いし、一作品のみですが歌劇派も?)。

実は当のベートーヴェンだって同じ気持ちだったかもしれませんね。

作品番号を見てください。18番です。ハイドンをはじめモーツァルトが築き上げてきたこの器楽曲の要になったといえるジャンルの作品を最初のOpus作品「ピアノ三重奏曲」から数えて30曲以上(番号は18でも各opusには複数の作品が存在するため)年数にして5年も後になり発表したのです。やっと出せた、いえやっと出せるだけ自分の作曲に自信をもった、かどうかは本人に聞かない とわかりませんが、そんな気持ちだったと思うのです。

この間、弦楽曲は三重奏を中心に数曲書いてはいますが、彼自身がピアニストですから自分がピアノパートを担当する作品をメインに作曲していたのは当然です。自作自演ですね。正式に出版されたもので数えれば、ピアノソナタが10曲、ピアノ三重奏曲が四曲、ピアノ協奏曲が1曲1番、ピアノと管楽のための五重奏曲1曲、ヴァイオリン、チェロやホルンがともなうソナタ6曲と、三分の二以上 がピアノがからんでいます(出版年と実際作曲した年とは必ずしも一致しないので細かい事実は少し違いますし、未発表作品もあります)。

交響曲も弦楽四重奏曲と同じ時期に第1番を発表しています。この2ジャンルをベートーヴェンはかなり重要と考えていたため、周到に準備・修業を重ねていたんでしょう。

★第一番だけれど第一番ではない

作品18は6曲のセット(なんと豪勢な!)になっています。第一番は6曲のうち実は三番目に書かれたらしく、しかも出版時になって自ら改訂をするほど慎重に慎重を重ねた曲だというのです。まあ作曲順序はともかく、1番という番号に特別な思い入れがあるのは古今東西同じなんですね。

【第一楽章】は冒頭からユニゾンで楽しげなメロディを唐突に奏でます。ヴァイオリン先導で続く和音の不思議さ。そして快活なメイン部分に入ればそこは春の風のように爽やかで暖かいメロディと四つの弦楽器の会話です。特にヴァイオリンとチェロのかけ合いが面白い。ヴィオラの活躍も聞き逃せません。中間部分は少し難解な和音展開になり頭を整理するのは容易ではありませんが、そこがよく、病みつきになりそうです。後半ではふたたび最初の明るい雰囲気にもどり、各楽器のメロディラインが変奏し音楽が絡み合います。

【第二楽章】を聞くといろいろな思いが頭をよぎります。悩み多い人の心のように、弦楽器が重苦しく語るメインメロディの調べで始まります。メロディの裏では別の楽器が問いかけにも似た小刻みなフレーズ。静かに耳を傾けましょう。少しゆっくり目の三拍子が心を落ち着かせてくれます。ずっと重苦しいわけではありません。美しいメロディや和音がふんだんに込められているまさに宝物のような楽章。チェロの哀愁帯びた音色、激情のように激しい奏法など、後半のドラマチックな展開も素晴らしい。第二楽章、私は大好きですね。

ベートーヴェン得意のジョークです。【第三楽章】の冒頭はいきなり「え?」て問いたくなる不思議でユーモラスなメロディが出てきます。散歩道で坂道にさしかかった時、偶然蹴った小石が転がっていく様子を見た人が、なぜかその石を追っかけてしまう、なーんて場面を思い浮かべます。たしかに面白い楽章なんですが、「主人公少し悩んでいない?心底楽しんでいるようには思えないんですが、、、」ってつっこみをいれたくなります。それでいて平然とした顔で我が道をいく展開になるのが興味深いですね(変な紹介文だな、、、)。

【第四楽章】はふたたび明るく快活なメロディに戻ってきます。第二、第三楽章で少し不安を感じましたが主人公は気持ちを取り直したようですよ。ヴァイオリンの活躍が素晴らしい楽章。加えてヴィオラとチェロのメロディラインも素晴らしい。美しいメロディに挟まり変則アクセントが入るのも効いています。
メインメロディがクライマックスで跳ね飛ぶのが感動的!


★試聴可能なサイト
米国のamazon.comではアルバン・ベルク四重奏団の演奏が試聴可能です

http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/B000026D4J/qid=1048995481/sr=2-2/ref=sr_2_2/102-4580382-7524900

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