ピアノ・ソナタ ヘ短調 作品2の1
Klaviersonate Nr.1 f-moll op.2-1
作曲:1793-95年 出版:1796年3月 ウィーン アルタリア社
★始めからやはりベートーヴェンのソナタ
ベートーヴェンの記念すべきピアノ・ソナタ第一番はきっと軽やかでハイドンやモーツァルトの音楽をイメージしていたのですが、全く違う印象でした。まず短調であることに驚きました。驚く根拠というのが全く論理的でないのですが、第一番だから当然輝かしい長調ではないかと勝手に想像していたのです。
またテンポもAllegroの活きのいい室内楽みたいなんだろうな、と。ピアノ三重奏曲第一番があれだけ明るくのびのびとした音楽だっただけに、ピアノ・ソナタもその延長だろうと誰もが期待しますよね(しませんか?)。
この作品を含め作品2番の3セットはすべて四楽章で構成されています。この点も発表当時としては斬新だったそうでベートーヴェンはこの時点ですでにピアノソナタを交響曲のような音楽にしようと目論んでいたと考えられているのです。
もともとピアノ・ソナタとは家庭音楽の一種。貴族の子供や女性が家でピアノを披露する時に弾かれるもので技巧的にもさほど難しくなく作られるのが一般的だったのです。出版社や作曲家にとって最も売り上げが見込めるジャンルでしたから、購入者がちゃんと弾ける曲でなければなりません。なのにベートーヴェンは最初から交響曲を意識し、それを弾くターゲットはピアニストである自分でした。この点ですでにそれまでの常識を逸脱しているのです。
楽譜を見ると、確かにベートーヴェンの以後のソナタに比べれば比較的簡単な部類でしょう。でもこの曲を感動的に演奏するのは難しいと思います。やはりベートーヴェンは始めからベートーヴェンなのです。
第一楽章冒頭のメロディはピアノによるつぶやきのように聞こえます。それが聴衆への語りかけでもあるんでしょう。テンポはアレグロなのですが、四分音符なのでさほどスピードを感じませんが、逆に緊張感があるんですね。この冒頭だけで「おぉ!」と私なんかは思いました。その後語りは迷いながらさまざまに音や形を変え次第にテンポをあげていき、これぞベートーヴェンという曲想で盛り上がっていきます。
唯一第二楽章だけがへ長調です。メロディメーカーベートーヴェンらしくゆったりとしたテンポでたっぷりと歌い上げます。美しい旋律に心なごませてください。思わず歌詞をつけて歌いたくなる衝動にかられます。中盤で短調に展開させて少しだけ不安感をあおりながらも、再びメインの長調メロディに転じていくところなどはさすが。同じメロディで伴奏部のアルペジオが変奏するのが聞き所。いやあカッコイイとはこのことさ(ジブリのキャッチコピーの真似)。
解説書などには特に特徴のない楽章などと書いてあるものもありますが無視しましょう。第二楽章はいいですよ!
第三楽章で再び迷いに戻ります。このやや不安定なテンポが印象的です。中盤の歌いは舞曲のように明るく軽やかな気持ちになります。再び不安定な曲想に戻ってしまいます。
第四楽章はきびきびしたテンポなのですがやはり終始不安感はぬぐえません。オクターブで奏でられるメロディのダイナミックなこと。中盤はやはり歌になります。後半のクライマックスでも、再びオクターブによる哀愁帯びたメロディ。終始小刻みな左手のアルペジオが効いています。
「ピアノソナタ第一番」はベートーヴェン初期の作品の中でも比較的よく演奏されるそうですから、演奏会などのプログラムをチェックしていると聞けるチャンスがあるでしょうね。
★私の聞いているCD
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
録音:1963年 ジュネーヴ
POCL-4731/4
〜ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より
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