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七重奏曲 変ホ長調 Op.20


珍しい編成の作品である。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス(なんと!)、クラリネット、ファゴット、ホルン。この編成はほとんど小オーケストラと呼んでもいいのではないか?コントラバスが入る事自体室内楽曲の域を脱している。それほど低音楽器を充実させたということは、ベートーヴェンが重厚な音色を狙ったのかもしれない。
その狙いは見事にあたり、彼の室内楽曲の中でも異色の存在ではあるが、特に初期の作品の中では代表作として数えられている。

はつらつとした第一楽章がいい。ゆっくりとしたテンポで重厚で堂々とした前奏部分。まさにベートーヴェンそのものという曲想だ。そしてヴァイオリン先導で明るく快活なメロディが奏でられる。これが軽やかで底抜けに明るい。メロディはクラリネットに受け継がれる。こちらも見事というしかない。以後の七つの楽器の絡み合いは圧巻。

第二楽章の主役はクラリネットとヴァイオリン。叙情的なメロディには心洗われる思いがする。途中でファゴットやホルンとの絡み合いもあり、いずれも柔らかな音色が気持ちいい。中間部分はうってかわり弦楽器による独壇場になり、あたかも弦楽四重奏曲のようだ。ホルンの長い音によるソロが途中入り、哀しげな曲想に変わる。この微妙さも格別。そして再びクラリネットのソロで冒頭の曲想へ戻りクライマックスを迎える、もちろんおだやかなクライマックス。静かな田園風景を思わせるしみじみとした良い曲である。この楽章だけでも充分「七重奏曲」を聞く価値はある。

ピアノソナタ第20番の第二楽章と同様の第三楽章だが、個人的にはこの曲はピアノよりも室内楽曲の方が断然良いと思う。ユーモラスな曲想が多彩な楽器構成にぴったりなのだ。中間部分の管楽器のかけ合いがとても面白い。特にホルンとクラリネットの活躍には目をみはる。もちろん主題を奏でるヴァイオリンの音色も美しい。

第四楽章は軽やかなヴァイオリンとヴィオラのデュエットで始まり、全楽器に引き継がれ、常にさっぱりとした風味で音楽が進む。いわゆるヴァリエーション(変奏)を楽しむ曲なのだが、いやあ、この見事さには驚かされるし、感動的だ。いかにベートーヴェンが音楽構成上のテクニックが素晴らしかったかを知ることができる。弦楽器のヴァリエーションももちろんだが、ホルン、ファゴット、クラリネットによる変奏もいい。手放しで誉めすぎ?そんなことはない、聞けばよくわかるでしょう。

ホルン先導でこれまたトリッキーに始まる第五楽章。楽しげに遊ぶような音楽。中間部のチェロのソロが叙情的で素晴らしい。弦楽器すべてがまるで仲の良い家族のようにチェロをささえる合奏も感動的である。

第六楽章はまず哀しげな前奏で始まり、ホルンが哀愁を呼んでくる。暗いイメージをここでは抱いてしまうのだが、そんな不安を解消させてくれるスピーディで明るい音楽がその後に続くのでご安心を。この快活さは心地よい。走り続けだけだと疲れるので、途中でホルンが休憩の合図を奏でるが、アンサンブルはそんなのはお構いなしに走り続けるのだ。クライマックスのヴァイオリンの活躍はほとんどヴァオリン協奏曲。とにかく面白い曲だ。

ディヴェルティメント(小組曲)というジャンルがハイドンやモーツァルトの時代には流行っていて、ベートーヴェンも当然その流れを継承していたようだが、彼はこの「七重奏曲」を最後に組曲は書かなくなる。室内楽曲の主流は以後弦楽四重奏曲となったのは周知の通りだ。ちょうど交響曲第1番を書いた頃に重なるこの初期の傑作を、ぜひ聞いてみて欲しい。

さわりは↓こちらでどうぞ(試聴は第一楽章のみ可能)。

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